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終着駅の恋人 Ⅴ  作者: さつき けい


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5-5・少年たちの出会い


 セリは上司の部屋に入り、手早く挨拶を済ませた。


この建物の中では誰に聞かれているか分からない。


不安に胸が押しつぶされそうになったが、隣りには何も知らないキシシュがいる。


彼を不安にさせてはいけない、と自分をふるい立たせた。


「手紙で連絡いたしました通り、今回は報告することが多くありますので、直接お渡ししようと思いまして」


いつもの手紙では途中で中身が紛失するかもしれない。


信用していないわけではないが、自分の手で届けたほうが安全だと思い、今回は一度セントラルに戻って来たのである。


 現在、セリが行っている視察は医療者として様々な病を知ることを目的としている。


セントラルの大きな病院にいても多くの病を診ることは出来るかもしれないが、地方に行けばまた違う病が存在する。


セリのような魔法が使える医療従事者は『手当て』といって、手のひらを患部に当てて魔力を通すことにより治療を行う。


そして実際にはそんな型通りの医療が通用しないこともある。


同じ『手当て』をしても患者によって違うのだと、例外的な病例を知っていなければならない。


悪化させてしまう場合もあるからだ。


だからこそ、手は出せなくても治療の現場を見ることは大切なのだ。




「それにこの子のこともありましたので」


セリはキシシュの背中をそっと押して紹介した。


 サウスの施設から来た銀髪の美少年キシシュは十二歳。


セリは彼に医療従事者としての勉強をさせるにはどうすればいいのか、を上司に相談するために来た。


「申し訳ないけど、ここではセントラルの住民でもない者を雇うわけにはいかないわね」


そもそもキシシュは、医療関係の仕事をさせるにも年齢が規定に達していなかった。


だが雑用でも何でもいい、この施設で働ければ宿舎にも入れるし、最低限の医療知識は得られる。


「私としてはセリの推薦もあるし、やる気があるなら子供でも大歓迎なんだけど」


女性上司は心底、残念そうにため息を吐く。


 セリは新しい論文のため、しばらくの間キシシュと共にセントラルに滞在することを話した。


「では、私の助手として一緒に行動することだけは許していただけませんか?」


論文が認められたセリには、一応、国から研究費が出ている。


その一部をキシシュに報酬として支払えないかと思っていた。


わずかな小遣い程度ではあるが、最低限の衣食住はセリと一緒にいれば不自由はしないだろう。


「そうね。 そこはセリに任せるわ」


この医療施設に負担がかからないようであれば大丈夫だと返事をもらう。


「ありがとうございます」


上司へ報告した後、セリは以前受け持っていた病棟に後ろ髪を引かれつつ施設を出る。




 駅の広場に戻って来た。


「ごめんなさいね、キシシュくん」


セリとキシシュは駅広場にある飲食店の屋外テーブルに座っている。


「いえ、そんなに何もかもうまくいくとは思っていません」


孤児である自分をここまで連れて来てもらっただけでも感謝しているくらいだ。


そう言いながらキシシュは果汁水の入ったコップに手を伸ばす。


 どんよりと座わっていたセリにふいに声が掛かる。


「何してんの?」


「トール」


学校帰りの弟が不思議そうな顔をして立っていた。


「早いのね」


「例の検査で学校を使うからね」


魔力検査の準備のため、最近ずっと学校は早じまいらしい。




 昨夜、今日の予定については話していたので、その結果をセリは弟にも話して聞かせた。


「そりゃそうだろう」


トールも果汁水を注文し、支払いはセリに任せて同じテーブルに付く。


「いくらセリの紹介だからって、見知らぬ子供を働かせてくれるとこなんてないぞ」


それでなくても、この街は移民が多くて問題になっているのだ。


「ううっ」


セリは自分が甘かったのだと知って唸る。


上司がセリに甘いのは、しっかりしている身元、学生の頃から今までちゃんと働いていた実績、善良な性格などをよく知っているからだ。


「そ、そうよね」


ごもっともな弟の言葉を聞きながら、セリは軽く落ち込んだ。




 そこへ軍の制服を着た青年が息を切らせてやって来る。


「セリ、やはりここか」


別に待ち合わせというわけではなかった。


ただ、暇なときはここにいるだろうという話をしておいただけである。


さっそく会うとは思っていなかったが。


「だ、だれ?」


トールは驚いて椅子から立ち上がりかけたが、セリもキシシュも動かない。


「サウスからご一緒したサキサさんよ。


サキサさん、これは私の弟でトールといいます」


軽く紹介したあと、座るように勧める。


「とりあえずは軍部局の寮に入れたよ」


そう言って、サキサはカフェの給仕に飲み物を注文した。




 貴族の従者扱いになったサキサは、アゼルの使いという名目で自由に外に出ることが可能らしい。


ただし常時、制服着用が義務だ。


うふふと笑いながら、セリは上から下までジロジロと見る。


「お似合いですね、その制服」


確か、アゼルと色違いだ。


「完全に男物だがな」


と、サキサは憮然とした表情のまま答える。


 サウスでは、男性用には見えても、サキサの服はちゃんとした女性用の仕立てだった。


それでも背丈もあるし余分な肉がない細身の彼女は、セントラル国軍では少年兵用の制服で間に合ったようである。


「なんでピッタリなのよ」


肩幅が少しぶかっとしている程度。 


それはそれで気に入らないようでサキサはブツブツ言っている。


 ひとりだけ事情を知らないトールが首を傾げているが、知らないほうが良いこともあるのでセリは黙っていた。




 セリは、サキサにもキシシュの件の話をする。


「そうか」


少し悔しそうに俯いたサキサは、何かを思いついてバッと顔を上げた。


「でもそれなら、侯爵家の威光で何とかならないのか」


恐ろしいことを言い出す。


「サキサさん。 あまりアゼル様に頼るのは」


「分かっている。 だが、セリにだけ負担がかかるのもキシシュにとっては嫌だろう」


セリの後ろ盾になっている侯爵家なら孤児の一人くらい何とかなりそうなものだと言う。


 そこにトールが口を挟んだ。


「馬鹿じゃねえの、にいさん」


「に、にいさん?」


サキサが狼狽うろたえる。


「地方じゃ知らないけど、セントラルじゃ侯爵家より上がいるんだよ?」


この国は王家を頂点とした社会が築かれている。


しかし権力を持っているのが上流階級だけというわけではなく、実際に政治を執行しているのは貴族以外の役人たちだ。


そしてその仕事を支えているのは優秀な中産階級。


「何にでも貴族の威光を笠に着るとあとでしっぺ返しが来るよ」


上から抑えられているとはいえ、この街の中産階級は結構侮れない。




「ならば、どうすればいいのだ」


サキサはサウスにいた頃からキシシュとは顔見知りだった。


暗い顔をしていた施設でのキシシュを知っている分、頑張ろうとする姿は見ていて応援したくなる。


「まあ、そんなに急ぐ必要もないんじゃない?」


トールはそう言って立ち上がった。


「ここにいても仕方ないし、観光にでも行こう」


「は?」


サキサは眉を寄せて難しい顔をしているが、セリは微笑んだ。


「そうよね、まだ二日目なんだし。


サキサさん、キシシュくん、どこか行きたいところはない?」


「とりあえず、飯じゃね?」


「あ、そっか」


セリと弟の会話をサキサとキシシュはポカンと眺めている。




 学校の荷物を家に置いて来ると言って、トールが一旦離れた。


そして戻って来た時には友達を連れていた。


「ローロです。 お姉さん、お久しぶり!」


「あ、ああ、あの時の」


以前、魔力持ちが狙われた事件で出会った、水色の髪をした『ウエストエンド』出身の両親を持つ少年。


そういえば、トールの友人で東地区の公園の中の隠された施設にいる子供だった。


「ローロもあんまり街中知らないから、一緒に連れてってやろうかと思ってさ」


セリはニコニコと嬉しそうな水色の髪の少年と、照れ隠しなのか、少し赤くなって目を逸らした弟を見る。


「もちろん、大歓迎よ」


ローロはキシシュとサキサとも挨拶を交わし、五人は夕方まで街中をぶらぶらと観光して回ることになった。



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