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終着駅の恋人 Ⅴ  作者: さつき けい


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20/20

5-20・妖精に誓う

この章の最終話なので少し長めです


 セリたちは明日、『ウエストエンド』を出ることになった。


ウエストにいるアゼルたちと合流し、そこから一緒にセントラル行の列車で帰る予定だ。


「ごめんね、キシシュくん」


「いいえ、大丈夫です。


メリサさんは学校を卒業したらいつでもおいでって言ってくれたので」


少し赤い目をしたキシシュがメリサと話し合った結果を報告する。


 セリもイコガに話したが、彼は「分かった」と顔をそむけただけだった。


「ごめんなさい。


私、何も準備して来なかったから、どうしても一度家族のところに戻りたいの」


『ウエストエンド』にずっといたいという気持ちもある。


だけど、セリは家族にも上司にも何も話して来なかった。


「ちゃんと話をして、ここにいるって伝えて」


『ウエストエンド』の悪い噂なんて間違いだって知ってもらいたい。


「大好きな人たちを安心させたいの」


きっと今頃心配しているだろう。





 夕食後、セリとイコガは食堂から部屋まで手を繋いで歩いた。


部屋に入ると二人は長椅子に並んで座る。


明日の早朝の列車に乗るため、あまり夜更かしは出来ない。


二人は何かを言いかけながら、黙り込むのを何度か繰り返した。


 イコガは自分の口下手を呪う。


最近は魔鳥便のおかげで少しは甘い言葉に慣れたつもりだったが、いざとなると何も言葉が出てこない。


言いたいことが有り過ぎて、うまく言葉にならないのだ。


隣のセリも同じなのだろう。




「あ、そうだ」


突然、イコガが立ち上がって、


「セリが来たら呼んでって言われてたんだ」


と、慌て出した。


大きな窓のカーテンを開けて、部屋から外へ出る。


イコガは「おいで」とセリに手を差し出す。


「はい」


セリは迷わずその手を掴んだ。


 領主館の裏手は庭というより広い荒野が広がっている。


別名「月の丘」と呼ばれ、夜になると低く大きな月が浮かぶ。


高い草木は無く、サヤサヤと風が短い草を撫で揺らす。


 イコガとセリはその草の間を通り、荒野にポツンとある大きな岩に向かった。


「妖精たちが君に会いたがってたんだ」


「まあ!」


不思議なもの好きのセリはうれしそうに微笑んだ。




 大岩の周りは今夜も妖精たちの光がいくつも舞っている。


【やあ、セリ!】


近づくと、見覚えのある妖精がイコガの肩に乗り、セリに挨拶した。


大人の掌くらいの大きさで、背中には虫のように透き通った羽がある。


「こんにちは。あ、あの、私」


セリはセントラルやサウスで、その土地に住む妖精に助けられた話をした。


「ずっとお礼が言いたかったの。


ありがとうございます」


妖精が存在することを教えてくれたから、今のセリがある。


セリは心から感謝した。


【ふうん】


自分が助けた訳ではないけど、とイタズラ好きの妖精の瞳がキラッと輝いた。




【じゃあ、お礼に一緒に踊ってよ!】


妖精たちがスイッと飛びながら、大岩の上に集まっていく。


セリが戸惑っていると、イコガが繋いでいた手をギュッと握り、魔力を使う。


二人の身体がフワリと浮き上がった。


 大岩の上は舞台のように平らになっている。


そこに足を降ろし、イコガは辺りを見回す。


「こんなに集まって何してたんだ?」


最初にセリが訪れた時より、かなり妖精の数が多い。


【みんなセリに会いに来たのよお。


イコガがなかなか会わせてくれないから増えちゃった】


小さな身体の妖精たちは声も小さくて届かないので、人の頭に直接響かせてくる。


「ああ、ごめん。忘れてた」


イコガが頭を掻きながら謝る。




【お詫びに踊って】

【お前も踊れ】

【一緒に踊りましょう】


イコガとセリは顔を見合わせた。


「どうする?」と目で訊ねられたセリは「喜んで!」と頷く。


「はあ……俺は踊ったことなんてないぞ」


「あら、私も一回だけよ」


そう言いながら、セリはイコガと向かい合わせに立つ。


「確か、卒業パーティーではこうやって踊ったわ」


(マミナとだけど)


セリはイコガの片手を握り、もう片方の彼の手をセリの腰に当てる。


「王宮で見たことくらいあるでしょ?」


領主の立場なら年に一度は王宮のパーティーに呼ばれる。


「あ、ああ」


少し顔が赤くなったイコガが腕に力を込め、セリを抱くようにして一歩踏み出す。




 力強いリードにセリは慌ててイコガの腕に縋り付く。


ステップはメチャクチャだが構わない。


何故なら、二人の足は宙に浮いてるのだ。


「うふふ」


楽しそうにセリが笑う。


クルクルと振り回されるが、イコガの腕の中に安心してスッポリと抱かれている。


【あははは】

【キャッキャッ】


妖精たちも楽しそうに二人の周りを回った。


 やがてセリに疲れが見えて、イコガが足を大岩の上に降ろす。


肩で息をしながら楽しそうに笑うセリを、イコガはきつく抱き締めた。




 いつの間にか、イコガの姿が本来の白い髪、薄い青の瞳に戻っている


「セリ、君を愛してる。


迷惑でも何でもいい、ずっと一緒に居たい」


真剣な眼差しで見つめられ、セリの瞳に涙が浮かぶ。


「コウ。


ありがとう……私もあなたが好き、愛してる」


叶えられない望みだと分かっていても、気持ちは同じだった。


 二人は大岩の上で、妖精たちに囲まれたまま口付けを交わした。


【良く言った、イコガ】

【ここの妖精たちがキミたちの永遠の愛を保証する】


「えっ」


驚く二人の左手薬指に光が纏わり付き、細い銀の指輪に変化した。


【お前たちのことを邪魔する奴がいたらお仕置きする】

【やっつける】

【今度こそ!】


「おい!」


最初は祝福だと思ったが、最後のほうは聞き捨てならないとイコガの突っ込みが入る。


【バカバカ】

【悲しいのはもう嫌】


イコガの髪を掴んでいた妖精が泣き出す。


それに釣られるように周り中から啜り泣きが聞こえ始めた。


セリもイコガも何も言えなくなる。


妖精たちの涙はイコガの両親のことを悲しんでくれているのだ。


「分かったよ。 まだ少し先になると思うけど、いつかきっと二人で幸せになるよ」


「ええ、二人でがんばるわ」


二人は妖精たちに誓った。


そしてもう一度抱き合い、長く深く、口付けした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌日の午後、ウエストの駅に列車が到着した。


「セリ!、キシシュ!」


半泣きのサキサが飛んで来る。


「ごめんなさい、サキサさん。


アゼル様、ご心配をおかけしました」


「いや、いいんだ。 コーガのところならどこより安全だろうし」


セリに抱き着くサキサの後ろでアゼルは頭を掻いていた。


「こっちは警備兵に任せて、今日の最終便でセントラルに帰ることになった。


教会からも新しい責任者が来てるからもう大丈夫だと思うよ」


「あ、それなら一つお願いがあるのですが」




 セリはウエストの教会関係者に話したいことがあった。


「あの、アゼル様は聖地に行かれましたか?」


アゼルもサキサも首を横に振った。


セリはセントラルから来た者たちに聖地の岩山に登ることを勧めた。


もちろん、新しい責任者の司教にも同行を頼んだ。


 たくさんの巡礼者たちとすれ違いながら、岩山を登る。


紹介された教会の新しい責任者は、白い髭を蓄えた老人だったが、足腰は健勝で、セリよりもずっと早く登って行った。


アゼルやサキサもさっさと先に行ってしまう。


 そして頂上の泉で老人は唸っていた。


「これはどうしたことか」


途中で休憩して遅れて到着したセリは、この老人が魔力持ちであることを確信した。


「おそらくですが、前任の方は最近はここには来ていなかったのだと思います」


セリを拐おうとした司教は異形の女性を竜神だと信じて魔力を捧げていた。


神が本部内にいるのだから聖地に登る必要がなかったと思われる。


部下の司祭たちは魔力が無かったため、聖地の異変に気付かない。


「なるほどのお。


それ故、聖地がここまで荒れ果てたか」


巡礼者には、本当にただの景色の良い観光地になってしまっていたのだ。


 好き勝手に、無闇に祈る巡礼者たち。


どんなに聖なる力に溢れていても、この混雑ぶりでは拡散してしまい、誰も恩恵を受け取れない。


「このまま放置していたら神罰が下ったかもしれん。


もしかしたら先日の火事がそうだった可能性もある」


そう言って新しい司教は真剣な眼差しで泉の前に跪いた。


 司教が魔力を込めた祈りを捧げると、泉からは虹が生まれ、空へと伸びていく。


それは魔力の無い者にも目にすることが出来たため、巡礼者たちは一斉に平伏して祈り始めた。


今まで観光気分でおざなりな祈りの言葉だけ捧げていた信者たちも、真剣な声になる。


老人司教は他の司祭たちを連れて、慌ただしく下りて行った。




 夕方、セリたちが駅でセントラルに向かう列車を待っていると、責任者の老人が見送りに顔を出した。


「気付かせてくれてありがとう、お嬢さん」


「は、はあ」


老人は、しばらくの間、聖地に入れる人数を制限することにしたらしい。


セリは特に熱心な信者では無いのが、あの美しい泉を守ってもらえそうで安心した。


「またおいで。


今よりもっと清浄な聖地にしておくでな」


「はい、必ず」


『ウエストエンド』に行くには必ず降りる駅なので。


 長い汽笛を聞きながら、セリは列車の揺れに身を任せる。

 

サキサはセリたちの話を聞きたがったが、どうやら疲れが溜まっていたようで、そのうち全員がうたた寝を始めた。


そうして、セリとキシシュにとって、一つの長くて有意義な旅が終わったのである、



第五章終了です。

お付き合いいただき、ありがとうございました!

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