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終着駅の恋人 Ⅴ  作者: さつき けい


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5-2・セントラルへの帰還

主要人物紹介

キシシュ……沿岸都市サウスの施設の孤児だったが、セリに出会い、医療術者を目指してセントラルへやって来た美少年。

サキサ………サウスの騎士家、警備隊長の一人娘。日頃から男性のように振る舞っている。現在、縁談を避けるため家出中。



 その国はセントラルという中央都市を中心に、東西南北にある各都市を列車という交通手段で繋いでいる。


北には鉱山都市ノース、南は交易を基盤とした沿岸都市サウス、西は農業と酪農のウエスト、そして東は芸術都市イースト。


セントラルは国の主要機関と、王族という一番大切なものを抱えている都市である。




 いつものように午後の一番、サウスからの列車が中央都市の駅に到着した。


「さあ、着いたわよ」


亜麻色の長い髪を緩く三つ編みにしたセリは、約四ヶ月ぶりに実家のあるセントラルに戻って来た。


「ふむ。 灰色の空とは聞いていたが、何となく肌寒い上に空気が、不味いな」


セリの隣には、明るい茶色の短髪に灰色の瞳をした背の高い女性が並ぶ。


家出少女である彼女は騎士爵家の一人娘。


鍛えられた脂肪の少ない腕を組み、空を見上げていた。


「そうですね。 暖かいサウス地方出身のサキサさんには少し辛いかも知れません」


「ぼ、ぼくは大丈夫です!」


セリとサキサの会話に子供の声が割り込む。


サウスの孤児院で知り合った十二歳の銀髪の美少年キシシュは、初めての都会の風景をその紫色の瞳で睨んでいた。


心なしか握りしめた手が震えている。


 セリには、不安を隠す痩せ我慢のこの少年と同じくらいの年齢の弟がいる。


「キシシュくんはやっぱり偉いですね」 


うふふと笑い、さて、これからどうしようかと考える。


「まずは腹ごしらえですね。 ちょうどお昼を過ぎたところですし」


駅広場に近い、セリの友人の実家である飲食店へと三人は歩き出した。




 店の裏口に回り、セリは店員さんに店主の娘であるマミナを呼んでもらう。


バタバタと駆けて来た友人に予想通り大歓迎された。


「まあ!、お帰りなさい、セリ。 無事で何よりだわ」


学生時代は少しぽっちゃりしていた彼女も色々あったのだろう、すっきりとした体形になっている気がする。


「マミナも元気そうで良かった」


二人が離れてまだ半年も経っていないというのに、お互いに目に涙を浮かべている。


 そんな光景をセリの連れたちは少々苦笑いで眺めていたが、待ってはくれないものがあった。


「ぐぅ」と育ち盛りの少年の腹が鳴ったのだ。


「あら、そちらは?」


マミナがそれに気づいて首を傾げる。


「ごめんなさい、私のお友達なの。


二人に食事の用意をお願い出来ないかしら」


「もちろん、お安い御用よ」


セリが裏口から訪ねて来たということは訳アリなのだろう。 


マミナはすぐに店員に指示して個室を用意させた。

 



 ちょうど混み合う時間帯を過ぎたところだったようで、店内にはあまり客の姿はない。


三人が席に着くと、あまり待たずに次々と食事が運ばれてきた。


港町から来たサキサとキシシュは見慣れない料理に目を丸くしている。


しかし、匂いは殺人的に食欲を刺激してきた。


「遠慮なく食べてね」


「あ、あの、マミナ。 そんなには」


「うんうん、分かってる。 お代は気にしないで」


マミナの両親の店は小規模ながらセントラルでも人気のある店なのだ。


一人娘である彼女は当然ながら跡取りであり、学校の勉強は嫌いだったが商才はあった。


セリは、彼女がただの友人のよしみだけで奢ってくれるとは思っていない。


「分かったわ、貸し一つね。


ほら、サキサさんも、キシシュくんも頂きましょう」


「う、うん。 ありがとうございます」


「おねえさん、ありがとう!」


三人はセントラルでも高額だと思われる料理を堪能した。




 食後のお茶が菓子と共に運ばれて来る頃。


「邪魔するぞ」


部屋の扉がノックもなく開き、金髪青眼の若い男性が入って来る。


「セリ、よく戻って来てくれた!」 


案内してきた店員も引きつるほどの満面の笑顔のアゼルだった。


 サキサにとっては良い印象の無い相手である。


ポカンとしているキシシュとは違い、その顔を見た途端に顔が歪んだ。


「き、さま……いや、貴方様は確か侯爵家の」


セリの手を握って喜んでいたアゼルは、その声に振り向いた。


「おや、サウスの騎士嬢ではないですか。 まさか、私に会いに?」


「ばっ、バカにするなっ」


立ち上がったサキサはフルフルと身体を振るわせている。 


その横でキシシュが菓子を食べ損ねて、ため息を吐く。


「冗談に決まってるだろう。 まあ、落ち着いて」


アゼルは余裕たっぷりにサキサを見下ろす。


そしておもむろにセリの隣に座ると、店員が運んで来たお茶を一口飲んだ。




 セリは、来店後すぐにマミナがアゼルへと使いを出したことに気づいていた。


あの高そうな料理の代金もきっと彼に請求する気満々だろう。


「アゼル様、先日は大変ご迷惑をおかけしました」


立ち上がり謝罪の礼を取るセリにアゼルは焦る。


「いやいや、そこはほら、コーガも関係することだし」


アゼルにすれば、セリの様子を見て来るようにとイコガに脅さ……、頼まれただけである。


自分自身のためだったので少々後ろめたい。


目を逸らすと、見慣れない少年が切なさそうにじっと目の前の菓子を見つめていた。


「ああ、すまん。 こちらのことは気にせず食べていいよ」


許可を出すと少年はうれしそうに菓子に手を付けた。


 それを見たセリは微笑み、改めてアゼルに顔を向ける。


「申し訳ありません、アゼル様。 実はお願いがありまして」


サウスを出たことはすでに侯爵家にも知らせが届いているだろう。


マミナの店だけでなく、駅前広場のカフェなど、セリが立ち寄りそうな場所にはアゼルが手を回しているだろうと確信していた。




「ああ、何となく分かってるよ。 この二人を我が侯爵家でかくまえばいいのだろう?」


「ほえっ」


アゼルの返答にサキサが変な声を出す。


「いやいやいや、それはなーー」


とんでもないとサキサが声を上げようとしたが、セリに止められた。


「彼女はこのセントラルでは知り合いを頼れません」


家出少女なのだから当たり前である。


しかし彼女は一応貴族家出身であり、セリやキシシュとは育ちが違う。


セリの実家では貴族のお嬢様を隠し続けられるはずがなかった。


「アゼル様にお願いしたいのは彼女だけです。


このキシシュは医療者を希望してセントラルにやって来ましたので」


セリは、自分が上司と相談すると約束している。


「明日にでも医療施設に報告に参りますので、一緒に連れて行こうと思っています」


そのためにもセリの家で預かるほうが良いと思う。


「なるほど。 その間はこのお嬢さんは邪魔になるな」


ニヤリと嫌らしそうな笑顔でアゼルがサキサを見る。


「そんな言い方、女性に対して失礼ですよ」


あまり事情は分からないが、マミナは友人であるアゼルに対して忠告する。


「それはすまない」


全くすまなさそうではないアゼルに、セリとマミナは顔を見合わせて肩をすくめた。




「サキサ嬢、キミにも言い分はあるだろうが堪えて欲しい」


不貞腐れたサキサにアゼルは先ほどまでのからかうような笑顔を引っ込め、真剣に話し始めた。


「セリは今、国中の医療従事者から注目されているんだ。


一緒にいるだけでキミも巻き込まれる恐れがある。


早々に身元がバレて、連れ戻されたくはないだろう?」


と、アゼルは青い瞳に力を込めた。


「わ、分かった……」


サキサは思わず顔を赤くして頷いた。




 そうして、サキサは俯き気味のままアゼルに連れられて出て行く。


それを見送った後、セリはキシシュを連れて自宅に向かった。


「うちの弟はトールというの」


歩きながらセリはこれから案内する実家の話をする。


 セントラルで産まれ、セントラルで育ったセリは、


「この辺りでよく弟と遊んだのよ」


と、懐かしそうに眼を細めた。


「ぼくも、モーリと庭で良く遊んだ」


セリはサウスに置いて来たキシシュの妹のような存在である少女を思い出す。


サウスの施設で二人は本当の兄妹のようだった。


しかし、セリが少女の病を治したせいでキシシュは側にいられなくなった。


「あの子は可愛いから、きっと良いところに引き取られるよね」


キシシュは寂しそうに微笑んだ。



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