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終着駅の恋人 Ⅴ  作者: さつき けい


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13/20

5-13・祈りより先に


 セリの目の前の壁が開き、奥へと続く通路が現れた。


恐る恐る壁の中に入ると大きな音を立てて壁が閉まる。


「ひっ」


セリはドキドキしながら周りを見回す。


通路は三つに分かれていて、真っ直ぐ前に進む広い通路、左右にはそれより細い通路が伸びている。


右からも左からもザワザワと声が聞こえ始め、どんどん人の気配が増えていく。


セリは退路を断たれ、真っ直ぐ進む道しか残っていない。


なるべく足音を立てないように駆け出す。


「あっ」


真っ直ぐな広い通路の突き当りは大きな両開きの扉。


周りを見回すが本当にそこしかない。


躊躇ちゅうちょしていると「あそこだ!」と声が聞こえ、左右の通路から男たちが走って来るのが見えた。


「くっ」


セリは思いっ切り魔力を込めて扉を押し開け、中に飛び込んだ。





 扉を閉めてかんぬきを掛ける。


重い扉のせいか、男たちはすぐには破れず、騒いでいる声と乱暴に叩く音がした。


セリは「ふう」と息を吐いて改めて周りを見る。


そこは祭壇のある部屋だった。


「誰かね」


祭壇の側に一人の中年の司教がいた。


着ている服がかなり上等そうなので、この施設の幹部だろう。


「す、すみません、お騒がせして」


セリは頭を下げ、顔を見られないようにする。


「あの、間違って迷い込んでしまって、えっと」


言い訳を考えつつ、どこか逃げ道を探す。


「おやおや、珍しいお客さんだ。


この場所は魔力が無ければ入れないのだが?」


どこか嫌らしい笑顔を貼り付け、司教が祭壇からセリに向かって歩いて来る。


(ど、どうしよう)


セリは身動き出来ず、入って来たばかりの扉を背に、ただ立ちすくんでいた。




「セリ!、そこにいるのか」


突然、扉の向こう側からサキサの声がした。


先ほど追いかけて来た男たちと戦闘中らしく、剣戟が聞こえる。


「はい、ここにいます!」


扉の向こうでの騒ぎが一瞬静かになった。


「今、助ける。待っていろ」


「あ」


(しまった)


つい答えてしまったが、今サキサたちとここを出るわけにはいかない。


まだ手掛かりが掴めていないのだから。


セリは自分がやるべきことを思い出した。


「し、司教さま、お助けください」


セリは司教に駆け寄り、怯えたように扉を見る。


「ほお。よし、良いだろう。


そなたを誰も手出し出来ない場所へ送ってやる」


中年の司教はセリの腕を掴んで、祭壇の裏へと連れて行く。




 そこには大きな穴が有った。


「もう少し様子を見るつもりであったが自ら望んで来るとは思わなかった」


司教の目に狂気が浮かんでいる。


穴の中からは仄暗い炎がチラチラと揺れているのが見えた。


「な、何が」


好奇心に負けて覗き込もうとしたセリは、その穴に突き落とされた。


「神は魔力を欲しておられる。


その魔力と成れることを誇りに思うが良い」




 扉の向こう側では相変わらずサキサと護衛兵が戦っていた。


「馬鹿な奴らだ。


その扉は魔力が無ければ開くことは出来ねえぜ」


教会の騎士というには下衆な笑みを浮かべた男が叫ぶ。


キシシュが懸命に重い扉を開けようとしているが、魔力が有っても未熟なためか、びくとも動かない。


「ぎゃあ」


少し離れたところから悲鳴が上がった。


全員がそちらを向くと、若い司祭の男性が剣を片手に立っている。


「あなたは」


キシシュには見覚えがあった。


この建物の中に入る手引きをしてくれた司祭の男性だ。


「その扉を開くにはコツがいる。


離れていなさい」


周りのならず者たちを切り捨てながら、その青年司祭は扉に近づいて行く。




 キシシュはポカンとそれを見ていた。


青年司祭が扉に手を押し当てる。


しばらくして彼を中心に魔力の風が巻き起こった。


「すごい」


キシシュか今まで見たことの無い魔力の渦。


あの岩山の頂上で見た、静謐な気配がした。


 ようやく戦闘を終えたサキサと護衛兵が胡散臭そうに近寄って来る。


「何をしている」


サキサの苛立った声に青年司祭は無表情に答える。


「私は、セントラルの教皇様から調査を依頼された聖騎士だ。


お前たちは軍務局の者だろう?。


まあ、あの女性を囮に使ったのはお前たちだけではないということさ」


そう言って彼は重い扉を押し込んだ。




 音も無く開いた扉の奥、祭壇の前に中年の司教が立っている。


「今夜は珍しく客が多い。


神もお喜びになるだろう」


カツカツと足音をさせて青年司祭が祭壇に近づく。


「さて、お前の神は果たして本物かな」


バサリと司祭服を脱ぎ捨てると、聖銀と呼ばれる聖騎士の装備が現れた。


「あの女性をどこへやった」


セントラルの聖騎士は聖銀の剣を司教に向ける。


「わははは、あの娘はもう神の元へ送ったわ。


今までの者たちと同じようなにな」


サキサが怒り、キシシュが絶望の表情になる。


聖騎士の目がチラリと動き、乱暴に司教を殴り飛ばした。


「諦めるな。あれを見ろ」


祭壇の裏にある穴を示す。


「セリ!」


サキサが駆け出すと、司教の手が動いた。


「きゃああ」


床が揺れ、先ほどまで有った穴が無くなる。




 サキサたちも聖騎士も驚き、唖然とした。


「ふふふふ、お前たちになどに神をけがすことは許されん」


「セリをどこへやった!」


サキサが司教を締め上げる。


聖騎士と護衛兵は部屋を見回し、魔力を使って調べ始めた。


キシシュはさっきまで穴が有った場所を叩く。


「セリ!、セリお姉ちゃん!」


わあああ、と泣き叫ぶキシシュの声が部屋に響いた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「いたたた」


思ったより穴が深く、セリは全身を打ったようで身動きができない。


それでも大きなケガでは無いのは、何かが積み上がっていたために緩衝材となり、直に固い床に叩き付けられなかったおかげだ。


 顔だけを上げる。


ユラユラと揺れる明かりの中に何が動いていた。


シュルリと動いたそれがすぐ側に来て、セリの顔を覗き込む。


妖艶な若い女性の顔をしている。


だが、下半身が蛇のようにうねり、テラテラと鱗が光った。


(ま、魔物!、それとも異形?)


セリは恐怖より好奇心で凝視する。




 濡れたような長い黒髪は波打ち、白い肌には鱗が生え、大きく裂けた唇、金色の蛇の瞳がセリをじっと見ていた。


「ワレが恐ろしくはないのか?」


しわがれた声は案外優しい。


セリは「怖いけど怖くない」と首を振る。


「あなたが神様ですか?」


司教は神と言った。


「ふふふ、ワレは神などではない。


ただ、失った魔力を取り戻しておるだけじゃ」


「魔力?」


セリは今更ながら、自分の下に積み上がったモノを見た。


「きゃっ!、こ、これは骨!」


身体は痛むがこんなところにいるのは嫌だ。


セリはソロリソロリと骨の山を降りようとするが思うように動けない。


「ここに来た者は皆、泣き叫び逃げ惑うか、気を失うのだが、お前さんは面白いな」


下半身が蛇の女性は壁際に場所を開けると、セリに身体の一部を巻き付けて、そこへ運んだ。




「ありがとうございます」


セリがそう言うと蛇の女性はケタケタと笑う。


そして調査に来たというセリに「気に入った」と話し始める。


「随分と前、魔力を使い果たして弱っていたワレは、この地であの男に出会った」


ウエストで信仰されていたのは竜神である。


岩山の泉で身体を癒やしていた彼女を見た司祭の一人が神の化身と思い込むのも無理はなかった。


「あの男はワレを神だと言い出してな。


魔力が足りないと言うたら、献上すると言って集めだしたのじゃ」


当時は司祭だった男性が、今の中年の司教らしい。


 最初は壊れた魔道具とかだったが、魔力を持った小さな獣になり、それが段々と大きな獣になっていった。


「ワレは生きたモノからは魔力をもらえぬ、とそう言ったのだが」


やんわりと生きた獣を献上するのを止めさせようとしたらしい。


見かけに依らず、やはり彼女は優しい。




「しかし、ついに魔力持ちの子供を拐って来るようになってしまった」


遺体がこの穴に放り込まれた時、彼女は怒りより悲しみで暴れた。


「この骨はずっと以前の獣たちの骨じゃ。


人のモノは無い故、安心せえ」


「では、行方不明者はどこへ?」


セリの言葉に意外な声が答える。


「『ウエストエンド』だよ」


ユラリと揺れた闇の中からイコガが現れた。



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