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終着駅の恋人 Ⅴ  作者: さつき けい


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10/20

5-10・教会と違和感


 セリとキシシュは宿に戻り、一階の食堂で夕食を軽めに済ませた。


農繁期ではないため泊まり客は少ないと聞いていたが、それなりの人数がいたのは食堂の味が良いせいかもしれない。


部屋に戻るとセリは、自分とキシシュの身体に清潔の魔法を掛ける。


公衆浴場に行っても良いのだが、今日は二人とも疲れ過ぎて、たくさんの人がいる場所はもう嫌だという気分だった。


「助かります」


キシシュは申し訳なさそうな顔をした。


「そういえば、キシシュくんの魔法素養は何色だったの?」


セリと同じ白ならすぐに使えるようになる魔法だ。


清潔は医術の基本中の基本だから。




 魔法素養はこの国では雑に四色で分けられている。


白は治療や回復に優れ、赤は体力や攻撃魔法、植物や動物など自然を操る緑、黒は複数の属性を持つことを表す。


ちなみにアゼルは赤だ。


「あの、その、……黒です」


「まあ、素晴らしいわ」


セリはキシシュの手を取って喜んだ。


「えっと、お役所ではあまり良い顔をされなかったんですけど」


複数属性持ちは珍しい上に魔力量が多い。


そのため、魔力を持たない者からすれば天敵のようなものだ。


「ふふ、みんな羨ましいだけよ。


それに私の知り合いに黒の方がいらっしゃるけど、とても素敵な人よ」


もちろん、イコガのことだ。


 セリが褒めてくれたことで、キシシュはホッとして微笑んだ。


「ありがとうございます。 僕、がんばって勉強します」


セリはキシシュが頑張り過ぎであることは良く知っているので心配になる。


「そんなに頑張らなくていいのよ、キシシュくん」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 出発の前夜、セリがウエストに向かう準備をしているとキシシュが部屋を訪れた。


「もしかしたら、セリは一人で行く気なの?」


トールと同じくらい鋭い子である。 セリは隠すことなく計画を話した。


「アゼル様が苦労している事件。


おそらくだけど『か弱い女性か子供』っていう囮が必要なのよ」


サキサの同行は確かに心強いが、それでは今までの調査と何ら変わらないのではないだろうか。


「それで、一人で行くの?。 危険なのに?」


正直に言えばセリだって怖い。


でも心のどこかで「自分に何かあればイコガが動いてくれる」と信じていた。


「もし私に何かあったとしても、危険かどうかをアゼル様に伝えることは出来るわ」


行方不明者が生きているのか死んでいるのか。


それが調査の主な目的なのだから。


イコガなら、アゼルには必ず伝えてくれる、はずだ。




 黙って部屋を出て行ったキシシュは、翌早朝、駅でセリを待っていた。


「出発時間をわざと変えたんですね」


サキサには午後だと言っていた。


「キシシュくんなら来るかもって思ってたわ」


セリは少し困った顔で二枚の切符をキシシュに見せた。


恩返しのこともあるが、やはり行方不明者が気にかかる二人だった。


 ウエストに向かう便は他の都市に向かう便よりも数が少ない。


一つ乗り遅れれば次まで何時間も待つことになる。


もしもサキサが午後の便を見送り、セリを探している間に次の便も乗れなければ、翌日までウエスト行は無い。


丸一日の猶予。


その間に二人で何が出来るだろうか。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あれから僕はまだ何も出来てない」


「まだ一日目よ。 それに一緒に来てくれただけで心強いわ」


キシシュの冷静な態度はセリにちゃんと考えることを思い出させてくれる。


(子供が一緒にいると思うと下手なことは出来ないという戒めにもなるし)


セリは巻き込んでしまったのは申し訳ないと思いつつ、お互い様だと割り切ることにした。


 二人はセリの部屋で今まで分かったことをまとめていく。


「行方不明者が出ていることは宿の女将さんたちも知らなかった」


「ええ、騒ぎになっていないのは不思議ね」


「やっぱり本部が怪しい」


「そうなると、一度街中で泊まったほうがいいかしら」


「明日にはサキサさんが来てしまうし、今夜のうちに行く?」


「いいえ、今からでは逆に怪しまれるわ」


軍の囮作戦では、すぐ警戒されて中に入れなかったと聞いた。


きっと街中の誰かが相手方に情報を伝えるのが早くて、その対策も早いのだ。


街の中心は教会が牛耳っている。


事件のことに教会が絡んでいるとすれば信者も敵かもしれない。


ウエスト内で噂が広まっていないのもそのせいだろう。


 セリの予想ではサキサはまず教会本部か宿坊へ向かうはずだ。


もしかしたらアゼルか、軍から護衛を連れて来る可能性もある。 


「それをうまく使えば教会内部に入り込めるかもしれないわ」


セリの口元が楽しそうに歪み、それを見たキシシュは首を傾げた。




 翌日、早朝から私服姿のサキサとその護衛が教会本部にいた。


「来ているはずなんだ、女性と子供が、ここに!」


サキサは女性の服を着ているのを忘れているのか、いつも通り男勝りの口調のままである。


護衛の男性も逞しい身体と立ち居振る舞いを見れば、私服とはいえ、どうみても軍人だ。


「申し訳ありませんが、そのような者は毎日たくさんいらっしゃいますので」


剣幕に押されて司祭や騎士たちがオロオロとしている。


女装の男性なのか、女性の麗人なのか分からず、どっちの対応をすればいいのか悩んでいるようだ。


「とにかく、ここを調べさせてもらう」


引きそうもないサキサの態度に埒が明かないと教会の奥から高位の司教が出て来た。


「どちらさまでしょうか。


もしかしたら最近何度かおいでになっているセントラルの軍部の方ですかな」


胡散臭い微笑を浮かべた中年の男性司教である。




「ここは国王陛下に認められた場所。


いくら軍務局の方とはいえ、ここは治外法権というものがございます」


「うっ」


これが調査が進まない原因だった。


司教は騎士たちに目配せして二人を追い出す。


どんなに腕が立つとはいえ、多勢に無勢。


武器を持たない二人では騎士団十数人にはかなわなかった。


 それでもサキサたちは出入り口の側に居座り、日中ずっと出入りする信者たちに目を光らせる。


夜になって宿坊に向かったが、やはり立ち入りは断られた。


意地になったのか、サキサが本部の近くにテントを張ろうと言い出す。


そして「交代で見張ろう」と主張するサキサに、護衛の男性は眉を寄せる。


「サーキ(サキサの偽名)殿、アゼル様のご友人だからあまりキツイことは言いたくないが」


彼はサキサを男性として扱ってはいるが微妙そうな顔である。


「いくらここを見張っても裏口から出入りされれば終わりだ。


先に街に入ったという女性と子供の姿が確認出来ないのであれば、もうすでに行方不明ということになる」


サキサはギリリと歯ぎしりした。


「分かった。 無理を言ってすまなかった。


ただ、もう少し探させて欲しい、頼む」


まだ少年のような中性的な美しい顔と華奢な身体をしたサキサをそれ以上責められなかったのだろう。


頭を下げるサキサに彼は頷いた。


「宿を探してまいります」


そう言ってサキサの側を離れて行った。




「セリ、行ったよ」


「分かった。 じゃ、行くわよ」


サキサと兵士の動きを見ていたキシシュとセリは、闇に紛れて動き出す。


 二人は本部の裏に回った。


「こっちよ」


昼間キシシュと話をしていた土産物店の若い女性がいた。


「すみません、お手数かけて」


キシシュがぺこりと頭を下げる。


「いいのよー、こんなかわいい子に頼まれちゃ断れないものー」


女性店員に連れられて内部に入る。


「知り合いの司祭さんがいるから話はしておいたわ」


「ありがとうございます」


セリは髪をほどき、顔をなるべく見えないように隠している。


 セントラルから逃げて来た訳アリの姉弟として、教会にかくまってもらうのだ。


「軍人さんが来てたみたいだけど、ここなら大丈夫だからね!」


サキサや優しい女性店員を騙すのは心苦しい。


でも、この事件を解決しなければこれからも行方不明者は増えるかもしれないのだ。


セリとキシシュはこっそり顔を見合わせて頷いた。



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