もう一つの大切な本
「ヒナタ様がいなくなった?」
「はい。一緒に探してほしいのですが……」
自室で寝ていたところを起こされ、家政婦から報告を受けて驚くノア。少し寝ぼけながらも、家のあちらこちらからバタバタと響く足音を聞いて少しずつ頭が冴えてくると、ふぅ。とため息ついて、ベッドからゆっくりと降りていった
「クロス様に連絡は?」
「それが、全然繋がらなくて……」
話をしながら着替えをはじめていたノア。家政婦の返事を聞いて、服を探していた手が一瞬止まった
「それなら、私はクロス様を探しに行く。みんなは引き続きヒナタ様の捜索を」
「わかりました」
会話が止まり、ヒナタを探している声が部屋の中まで響き渡る
「ところで、アカリ様はどうしている?」
「レイナ様と寝室にいます。ヒナタ様が居なくなったことと、書庫での出来事を思い詰めていているそうで……」
「そうか……アカリ様は何も悪くないのだが……」
そう言うと、はぁ。と、また一つため息をついたノア。シャツの襟をビシッと正して、部屋のドアノブに手をかけた
「では。後は頼んだ。レイナ様とアカリ様を守るように」
「……はい。かしこまりました」
「アカリ。少しは落ちついた?」
その頃、レイナに体を寄せて離れないアカリは、レイナの質問に何度も横に振って答えていた
「大丈夫よ。みんなが一生懸命探してくれているから」
「でも、こんな暗い中、一人で歩いて、見つからなかったら……」
自分が言った言葉に不安になって、レイナの服を強く掴んで震え出すアカリの背中をレイナが優しく擦ると、アカリが少し顔を上げてレイナの顔を見た
「ヒナタ。本を探しに行ったのかな?」
「本?」
「うん、新しい本じゃなくて、お母様から貰った本を探しに……お父様は無くした本、何処にあるかわかるかな?」
話しながら段々と小さくなっていくアカリの声に、もっと体を寄せて抱きしめるレイナ。その温もりに止まっていた涙がまたアカリの頬を伝った
「……さあ、どうかしら。でもきっと、本もヒナタも一生懸命探してくれるわ……」




