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哀しみじゃなく笑顔になるように

「……アカリ」

 真っ暗な部屋で一人、座っているアカリに声をかけたレイナ。部屋の電気をつけると、少し眩しそうな顔で、うつ向いていた顔をあげたアカリ。心配そうに見つめるレイナの顔を見て、またうつ向いてしまった

「お母様……」

「夜ご飯食べてないそうね。ダメよ。ヒナタが起きた時、元気でなければならないのに」

「はい。ごめんなさい……」

 アカリの隣に着くとベッドに眠るヒナタを見た。震えているアカリに気づいて、後ろからそっと抱きしめた

「ヒナタは大丈夫よ。きっと少し、疲れただけよ」

 レイナがそう言っても、アカリは頷くこともなくヒナタを見つめたまま。しばらく抱きしめられていると、少し顔を上げて、レイナを見た

「お母様。お父様はいつ帰ってくるのですか?」

「さっき連絡したけど、まだ帰ってこれないそうよ」

「……そっか」

 レイナの話を聞いて、持っていた本をぎゅっと抱きしめ、またうつ向いてしまった


「その本、ヒナタの本ね」

「うん、ヒナタが守ってって言ってたから……」

 レイナに言われて、もう少し強く本を抱きしめたアカリ。それに気づいたレイナも、アカリをちょっと強く抱きしめた

「そう。それじゃ、アカリがずっと持ってなきゃね」

「うん……」

 か細い声で返事をするアカリ。そのまま二人で、ヒナタを見つめていると、コンコンと扉を叩く音が聞こえてきた。ゆっくりと扉が開いて、そっと部屋の中に入ってく家政婦。アカリとレイナに気づいて、少し申し訳なさそうにレイナに声かけた


「レイナ様。少し宜しいでしょうか」

「あら……。ごめんねアカリ。すぐ来るから……」

 家政婦に呼ばれて、アカリを抱きしめていた手を離し、慌てて立ち上がり、バタンと少し音をたてて部屋の扉を閉めたレイナの後ろ姿をアカリが少し寂しそうに見送っている

「ヒナタ……」

 また静かになった部屋で、しょんぼりとヒナタの名前を呼ぶアカリ。すると、声が扉の音で起きたのか、ヒナタがゆっくりと目を開けた

「アカリ?」

「ヒナタ!大丈夫?」

「うん、少し眠たいけど……」

 エヘヘと笑うヒナタと対照的に、その笑顔を見るなりアカリは目を潤ませ、本をぎゅっと抱きしめた

「……ねぇ、アカリ」

「なに?」

「うた、唄って」

「え?今、唄うの?」

「うん、すぐ眠れるように。いい?」

「……仕方ないなぁ」

 笑ってお願いをするヒナタに、アカリも笑って答えると、

持っていた本をヒナタの枕元にそっと置いた

「じゃあヒナタの本は、ここに置いておくね」

「……ありがとう」

「じゃあ、唄うよ」

 椅子から立ち上がって、ふぅ。と深呼吸すると、最初は鼻歌交じりに唄いはじめると、少しずつ大きな声で唄だしたアカリ。楽しそうに唄うその姿をヒナタも楽しそうに見つめている








「そう、あまり良くないのね……」

 楽しそうな唄が聞こえる二人の部屋から少し離れた廊下で話し込むレイナ達。

家政婦からの報告を聞いて、レイナが少し険しい表情をしている

「ヒナタ様のこともお伝えしたのですが、やはりすぐは帰ってこれないと……どうされますか?」

「そうね……。アカリもヒナタを置いて、クロスの元に行くわけにも行かないし……もう少し、様子を見ましょ。みんなも、なるべく二人の側にいてあげてね」

「わかりました……」

 ペコリとレイナにお辞儀をして、廊下を歩き始めた家政婦達。二人の居る部屋とは違う方向へと歩いていく姿を見届けた後、ふぅ。と大きくため息ついたレイナが、一人ポツリと呟いた

「まだ、大丈夫よ。二人には唄があるものね……」

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