敗北
勝負のようで勝負になっていない。
不意を突かれて一回目を開けてしまったが……目を閉じていたらいいだけだ。
クルルが俺の膝の上に乗り、俺の両手を持ってクルルの膝の上に乗せる。
「ん、お兄ちゃんのえっち。触り方やらしいよー」
「いや……クルルが触らせてるだろ」
「えへへ」
もうそろそろ寝た方がいい時間だが、こうしてクルルと触れ合える時間は貴重で提案しがたい。
流石に……シャルやネネやカルアだけならまだしも、リミがいる現在では寝室でこういう触り方はダメだろうし……と思っていると、クルルはくすぐるような手付きで俺の指に自分の指を絡める。
「……ランドロス。我慢しなくていいよ?」
「いや……負けたくないしな」
「そんなに私のパンツ見たいんだ。……ん、いいよ」
「え、い、いや、それは……そ、そういう作戦か」
「……これからは、ランドロスの自己申告にしよっか。ずっと、ランドロスがえっちな目で見てるなって顔を見続けるのも恥ずかしいし」
いや……自己申告って……。
クルルはもじもじと俺の膝の上でお尻を動かして、俺の手をスカートの端に触れさせる。
「い、いや、でも……あまり、こういうことは……」
「……私はランドロスのお嫁さんで、娘じゃないんだよ?」
恐る恐るに目を開くと、クルルはほんの少し不安そうな、上気させた表情を俺に見せる。
多分……ある程度、意図的に不安そうに見せているのだと思う。俺を誘う演技をしているのだということは、なんとなく伝わってくるし、クルルもそれを隠そうとはしていないだろう。
「……シャルもカルアも、口にはしないけど、ちょっとずつ不安に思ってる。歳の差もあって、ランドロスは私達をそういう風に見ないようにしてるから。子供として、扱おうってしてるから」
「それは……その、やりすぎないように自制してるだけで」
「リミがいて、みんな少し不安が増してると思うよ。娘として扱われているリミと、自分との差はなんだろうって。同じように養ってくれて、守ってくれて、話してくれて……嬉しいけど、ちゃんと、女の子として見られてるのかなって」
ペタリと体を俺に預けて、腰のところにしなを作る。
クルルは……俺に言い訳を作ってくれている。ある程度は本音だろうけど、それ以上に俺が我慢しなくてもいい理由を教えてくれている。
クルルが不安に思うから、不安を解消するために子供にするようなものとは違う触れ合いをする……なんて、都合の良い言い訳だ。
分かっている。この時間はあくまでも俺のためのもので、クルルは俺に優しくしてくれているだけだと。
けれどもそれは魅力的で、めくれたスカートから覗く白いふとももに指を這わせる。
掴んで持ち上げられそうなほど細くて小さな身体。けれども、その体格差はあっても我慢するだけの理由にはならなかった。
クルルの体を片手で抱えて抑えるようにしながら、もう片方の手ですべすべとした太ももを撫でる。
胸の前にある俺の腕を掴むクルルはこそばゆそうに身を捩り、けれどもそれだけではない吐息をもらす。
「ん……あぅ……」
人から触られることがない部位だからか、それとも単に俺と同じ感覚に陥っているのか、ぴくりと体を動かすが全くの無抵抗だ。
「……ネネとも、こういうことした?」
不意に尋ねられた問いに思わず身体が硬直する。
……クルルに隠し事が出来るはずがないと分かっているけれど、頭の中では誤魔化すための言葉がグルグルと回る。
「ん、ネネ、最近幸せそうだから」
「……まぁ、その……そういうことした」
「そっか。ん……私とも、しようよ。ランドロスがネネと二人きりになるタイミングは少ないけど、私とネネとランドロスの三人のことはちょっとずつあるでしょ。そういうとき、我慢しなくてよくなるよ?」
「……それはその、まぁ、魅力的だけども」
女の子二人と同時にそういうことをして許されるのだろうか。
底なし沼にずるずると引き摺り込まれるような感覚がするけれど、抜け出せずにいる。
指がクルルのうちももを這って、クルルは気恥ずかしそうに脚を閉じて、それからゆっくりと俺が触りやすいように開いていく。
クルルの息は荒く、緊張のせいか身体は固い。俺の方を見ているクルルの唇に見惚れていると、クルルは目を閉じて俺を待つ。
我慢など出来るはずもなくキスをすると、表情は見えないのに、身体が緩んだ感触などでクルルが嬉しそうに顔を綻ばせているのが伝わってくる。
「……ランドロスは、私のことえっちな目で見てる?」
「…………そりゃ見てるが。……あんまり、そういうことをしすぎたら……仲間からも心配されるだろ」
現状、あまり大ごとにされてはいないが、それはあくまでも全部許されているというわけではなく……俺と嫁たちがちゃんと節度を持っていると思われているからだ。
なんだかんだと……クルルやシャルの信頼は厚く、俺もある程度は信頼されている。だからこそ、それを踏み越えてしまうと……ということを考えてしまう。
「……バレないよ?」
「…………怖がりなんだ。俺は」
クルルは仕方なさそうに俺の頭を撫でて、ニコリと笑う。
「さっき、えっちな目で見てるって自己申告したからアウト二回目ね」
「あっ。……あー、おう。今もだ。だから、俺の負けだな」
ぼりぼりと頭を掻き、クルルの頭を撫でる。
「ごめんな。でも、そういうのがなくても、ちゃんと愛してる。愛してる、クルル」
「うん。知ってるよ。えへへ、独り占め、もうちょっとしていい?」
「ああ」
「明日、約束通りあーんしてよ?」
「分かってる。多分、俺の父親もそろそろまた来るだろうから話とかするか?」
「う、うん。緊張するけど頑張るね」
別にそんな無理をする必要はないが……と思いはするが、俺も嫁の親にはちゃんと挨拶したいしな。
……なんだかんだ言って……俺やシャルやカルアは親と再会出来たが、クルルの親は間違いなくもう亡くなっている。
気を使うのはきっとクルルも嫌がるけれど、そっとクルルを抱きしめる。
「……ん、どうしたの? 甘えんぼ?」
「俺、もっと頼りになる男になろうと思う」
「……いいよ。今のままで。……今のままが、一番いい」
「……そうか?」
「うん。みんな、ずっと、こうしていたい」
クルルはそう言って俺を抱き返して、その瞳を俺に向ける。
その目はいつも通り灰色で、どこか見通すような色をしていた。
「……成長するのが怖いのか?」
「……うん。昔より、人のことがよく見えちゃうから」
「そうか。うん。……平気だ。変わっても、育っても老いても、変わらないことはあるから」
「……ランドロス、私が大人になっても好きでいてくれる?」
「当たり前だろ」
「胸、お母さんおっきかったから、私も大きくなるよ」
「……それはそれで」
「叔父のように、メイターク家の人みたいに、人のことが嫌いになるかも」
「平気だ。もしクルルが人を全部嫌いになっても、俺は一緒にいるから」
「……ずっと子供でいたい。ランドロスはそっちの方が好きだし、これ以上、人を見れるようになりたくない」
不安を漏らすクルルの身体を抱きしめて、髪を撫でる。
「……何もかも、変わるのが怖いよ」




