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新しい空間魔法

 クウカは戸惑いがちに目を揺らしたあと、カルアの持っていた紙とペンで地図を書いていく。

 手で書いたにしては精密なそれを見たカルアはポツリと呟く。


「……知らない道、いっぱいあるものですね」

「そりゃそうだろ。別にそういうのがあるのは当然のことで、今のこともアルカナ王国のせいではないし、ましてやカルアはもっと無関係だろ」

「自国のことをもっとちゃんとしてから旅に出るべきだったかもしれません」

「そんなことはないだろ。……真面目な話、俺もまだ迷宮鼠の中でさえ顔と名前が一致しない人がいるし、入ったことない部屋もある。そういう考え方はキリがないぞ」


 落ち込むカルアを軽く慰めながら紙を手に取る。複雑に入り組んだ地下水路の中に隠し通路があり、その奥からまた何かあるようだ。


「……ん? この地図何かおかしくないか? ああ、まぁ手書きだからか」


 長さや広さの辻褄が合わない。丁寧に書かれてはいるが手書きだからこんなものだろうかと思っていると、クウカは首を横に振る。


「帰り道に歩数と歩幅で長さを測ってたけど、この形で間違いないよ。迷宮内でも似たような空間的におかしい構造はあったし、珍しくはないんじゃないのかな」

「いや、珍しくはあるだろ……。まぁ、希少な属性とは言えども、古い技術と魔道具があればこういう道も作れるか。……場所さえ分かったら空間魔法で穴を掘って直接上から叩こうかとも思ったが、地下で空間が歪曲してるなら無理か」


 俺が諦めようとしていると、イユリが俺の持っている紙を覗き込み「んー」と口を動かす。


「何か法則性がありそうだから、それを突き止めたらそうすることも出来るね。上から迫る……というか、あっちのよく知る地形を利用しないことは有利に働くだろうし、戦術としてありだと思うよ」

「……法則性ですか。あ、これはあれですね。一定間隔ごとに空間魔法では高低差のある空間を作りだして水が流れるようになってるっぽいです。ほら、当然、水は上から下に流れていきますけど、この広さを十分な速度で流れるようにすると、端の方は地下深くなりすぎるので、地上との距離が離れないようにする措置かと」


 ああ、なるほど高低差か。当たり前のように迷宮と同じようなめちゃくちゃな魔法が使われている。


 カルアがパタパタと動いて王都の地図を取り出して、クウカの作った手書きの地下水路の地図と比べて、王都の地図に指先で円を描く。


「おそらく、スラム街の真下ですね。……この辺りは国も水路の整備などをしていないので……多少隠し通路やらで水の流れが不自然でも気づくことはないでしょう」

「そんなに広くはなさそうだな。……食料とかどうやってるんだ。かなり人数がいたし、変な動きがあれば目立ちそうだが」

「近くに歓楽街もあって、違法性の高い集団がたくさんいるからどうかな……」

「あー、まぁなんとか誤魔化してるのか? ……あと、この位置からだと、俺たちも通ってきた長距離転移の施設にそこそこ近いな。そこから転移出来る場所に農地とかあるのかも」


 まぁ、多少気になりはするが別にどうでもいいことか。水路からいくか、スラムの地面に風穴を開けて直接突っ込むかは後で考えるとして、早速行くかと立ち上がると左右からクウカとイユリに腕を掴まれてズルズルと椅子に戻される。


「いや、ランドロスくん……せめて仲間を募りなよ」

「……初代もメレクもいないみたいだし。ミエナにはもしもの時の守りで残っていてもらいたいし、他にも実力者がいるのは知っているが……初見で合わせられる自信がない」

「二人ともすぐに戻ってくるよ。……それに、今、目の前にいるのが誰か忘れてる?」

「……ロリコン半エルフ?」

「このロリコン半魔族が……。そうじゃなくて、あなたの魔法の師匠でしょうに」


 いや、まぁそうだけど……。空間隔離とかの強力な魔法を教えてくれたことは感謝しているし、その技術や知識、頭脳は信頼しているが、けれども武力に関しては大したことないだろう。


「まぁ、ランドロスくんの心配は半分は当たっているよ。私はあくまでも知識屋であり、戦闘力に関してはリンゴ3個分しかない」

「ちょっとかわいく表現するな」

「ハムスターと戦えば、場合によってはハムスターが食あたりで倒せるぐらいの実力だ」

「それは戦っているとは言わない。捕食されていると言う」

「けれども……それでも、力になれるよ」

「師匠……」


 イユリは真剣な表情を俺に向けるが……俺の頭の片隅に「いや、良い事言ってる風だけど俺を火炙りにしたよな?」という考えが張り付いて離れない。


「じゃあ、ランドロスくんは誰に頼るべきか分かる?」

「……メレクか?」

「ヒントは年齢はランドロスくん以上だよ」

「メレクか?」

「追加でヒントを出すと混血だね」

「メレクか?」

「エルフの血が混じってる」

「……俺、なのか? 自助しろということか?」

「えっ、ランドロスくんエルフの血入ってるの?」

「父親の方に微妙に入ってるらしい」


 イユリはペタペタと俺の顔面を触り回して「あんまり見えないなぁ」と呟く。


「あ、正解は君の師匠であるイユリさんを頼りたまえということだよ」

「いや……頼るも何も戦闘力そんなにないだろ。ハムスターよりかは強いだろうけど」

「メレクくんと初代さんが戻ってくるまでの間に新しい魔法を二つ覚えてもらおうと思ってね」

「そんな急に覚えてもすぐには使いこなせないと思うが……まぁ、覚えるか」


 ひとりでは行かせてもらえなさそうだしな。そう思いながらクウカの方に目を向ける。


「クウカは寝てこないのか?」

「んー、いや、起きてる。……ロスくんが無理しないか心配だしさ」


 そう言いながらもクウカの頭はかくりかくりと揺れて、机に頭が激突する前に手でキャッチして適当な布を机に敷いてそこに寝かせる。


「それで、どんな魔法なんだ?」

「ふふん、聞いて驚け、それはね……」



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― 新着の感想 ―
[一言] それにしても、ここでついにイユリが動くのか。 熱いな……。
[良い点] ハムスターを食あたりで倒せるかもしれないは天才
[良い点] ハムスターを食あたりで倒せるかもしれないは天才
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