超!論理的思考
「いや、ほら、今って何も手がかりがないし、ネネもネネが相手しているところも隠れるのが上手すぎて見つけられっこないだろ?」
「ランドロスさんの空間把握じゃ無理ですか?」
「触手みたいな形にして入ってくる情報を絞れば見つけられるけど、普通の広域を探索するやり方だと無理だな。触手型の方はある程度場所に検討が付いてないと難しい。肝心なときに役に立たなくて済まない」
「いえ、この場合はネネさん達を褒めるべきかと。……まぁ、ネネさんは恥ずかしがり屋なので効果はあるかもですし……私やシャルさんのように動けない人でもビラの作成などは出来ますが……。ネネさんの恥ずかしい秘密と言ったら、アレですかね。一昨日の」
アレ……? もしかして一昨日の夜のことがバレて……。と冷や汗を掻く。
とぼけるべきか? それとも素直に謝るべきか……。いや、謝ればみんな「私も」「僕も」という具合に……俺にとって幸せすぎる退廃的な日常がやってきてしまう。
くっ……いったいどうすれば……!
「あ、ランドロスさんはあの時は席を外していたのでしらないですよね」
「えっ? ん? ああ、夜のことじゃないのか」
「夜のこと?」
「……今のなしで」
カルアは俺を疑うようにじとーっと見たあと「とりあえず、今はランドロスさんを問い詰めている場合ではないので」と一時的に見逃してくれる。
じゃあ俺の知らないネネの恥ずかしい秘密ってなんだろうか。……めちゃくちゃ気になるな。
とりあえずビラを作るための紙を取り出そうとしていると、別の席から俺の姿を見つけたらしいイユリが小さい歩幅でパタパタとやってくる。
「あ、ランドロスくん。……ネネちゃんの恥ずかしい話なら私も持ってるよ。結構付き合い長いからね」
「師匠……! 身体を炙られたっきり拗ねて話をしてくれなかったイユリ師匠!」
「ふふん、私のマスターを取ったことは絶対に許さないけど、今はネネちゃんが心配だからね。恥ずかしい話と言えば、ランドロスくんたちがたどり着いた日に……」
「長い付き合い関係ないな……。ネネ、ここ数日で恥を晒しすぎだろ」
まぁこれでどうにでもなるか。
と思っていると、カルアがペンを片手に首を傾げる。
「そう言えば、クウカさんは一緒じゃないんですか? てっきりランドロスさんと一緒にいるものかと」
「ん? いや、どうだろうか。クウカ、いるか?」
何もないところに声をかけるが、珍しく反応がない。
カルアも少し不思議そうに小首を傾げ……それから、二人で「あっ」と声をあげる。
「…………俺、王都の水路で大量の水に押し流されたんだが……」
「…………クウカさんがいた可能性あります?」
「…………クウカ、隠れるだけならネネよりも上だから……正直ストーカーされていても全く気づけないんだよ。特に今回はネネのことで焦っていたしな」
どうしよう。もしもクウカがあの場にいたら、一緒に押し流されて、離れ離れになって……寒空の下でびしょ濡れに……。
凍死という言葉が頭に浮かび、思わず立ち上がる。
「もしものことがあれば一刻を争う。今すぐ走って確かめてくる」
「で、ですね。とりあえず水路の位置だけ教えていただければ、ギルドの人とあとは国の兵士さん達に頼んで……」
ふたりして慌てふためいていると、ギルドの扉がキイッと音を立てて開く。
「ううー……寒い寒い。あれ、ロスくんどうしたの?」
「く、クウカ生きていたのか!」
「クウカさん! よくご無事で!」
二人で「クウカ! クウカ!」と騒ぎながらクウカを出迎えると、クウカは「えっ、えっ」と困惑しながらギルドの中に入る。
「ああ、いや……杞憂だったんだが、もしかしたらクウカが俺に着いてきていたかもと思ってな。よかった。普通に大丈夫だったんだな」
クウカは俺の背中に冷えた手を突っ込みながら不思議そうに小首を傾げる。
「着いていってたよ? ネネさんとロスくんが心配だったから」
「えっ……いや、あの場にいたら水に流され……」
「あっ、あの魔法使いの女の人よりも奥にいたから平気だったの。そのせいでロスくんの空間隔離で離れ離れになっちゃったけど」
「あ、あー……そうか。いたのか……」
当然のように言うクウカだが……本当に知らないうちに巻き込んでいた可能性もあるからやめろよ……と思ってしまう。
「いや、本当にな、かなり心配したから……」
「えっ、ご、ごめん」
クウカは困惑したように首を傾げて、それから俺の背中から冷たい手を離して、眠たそうに目をくしくしと擦る。
「もしも一緒に流されたりしていたら、今の季節凍死してるぞ」
「う、うん。……でも、後先考えずに飛び出したロスくんが言えることじゃなくない?」
「…………」
俺が言い負けると、クウカは少し嬉しそうに笑みを浮かべたあと、真剣な評価で俺を見る。
「あのあと、あそこの人達がみんなで撤退していったから一緒に着いていって、本拠地っぽいところ見つけたよ」
「……えっ」
「いや、本拠地見つけたよ」
ゆっくりと頷き、カルアの方を見る。
カルアも同じような反応をしていた。
……クウカ、基本的にボケしかしてないのになんでこう……めちゃくちゃ優秀なんだ……? あとは本拠地に俺が攻め入って大暴れしたらどうにかなるだろう。
一応、初代とかメレクに声をかけた方がいいだろうか。初代はもちろんとして、メレクは俺に出来ないことが出来るので頼りになる。
そう算段をつけていると、クウカはそれから首を横に振る。
「……でも、ネネさん探す方がいいと思うよ」
「いや、本拠地に言った方が手っ取り早いし確実だろ?
クウカは俺の方をじっと見つめて、それから首を横に振る。
「めちゃくちゃ強そうな人が、ひとりいた。私は戦士でも魔法使いでもないし、隠れること以外は人並みで弱っちいから……強さを正確に測ったりは出来ないけど、なんていうか……多分、あの人……ロスくんより強いよ」
真剣な表情を俺に向けるクウカの言葉を聞き、少し考えてから首を横に振る。
「……いや、それはないだろ。俺、魔王を倒した当時よりかなり強くなってるんだぞ。そりゃ普段はアホっぽくて嫁の尻に敷かれているけど」
純粋な実力で俺を上回るやつがそう簡単にいるとは思えないし、何より……好き勝手出来る実力があるのに……あんな色々とジメジメしたところに籠るか?
普通に考えて、俺と同程度の強さがあるならシャルみたいな可愛いお嫁さんをもらってのほほんと暮らすだろう。
俺と同程度以上となると、国ひとつ一人で潰せるレベルだぞ。
それだけの力を持ち、こんな人に言えないような組織に所属していたら、もしシャルみたいな子と結ばれても悲しませてしまうわけだし……。
論理的に考えて、人質を取られでもしていない限りはあり得ないだろう。
「心配ありがとう、クウカ。けど、平気だぞ」
「ん、ん……うん」
「場所だけ教えてくれ。俺の後に着いてきたってことはクウカも徹夜だろ。休んでほしい」




