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一目惚れ

「……こう考えてみると、案外自国のことも知らないですね。基本的には城に篭りっぱなしでしたし、書類や本、人の話からぐらいしか伝わって来なかったです。少しおてんばな友人はお忍びで街に行っていましたけど、私はお淑やかなので」

「……お淑やか?」


 お淑やかというのはシャルのような女性のことを指すのではないだろうか。……いや、シャルも蜂の巣に手を突っ込んだりするのでお淑やかとは言えないか……。グランのような大男に啖呵切ったりするしな。


 なら、クルルか? ……いや、お淑やかという雰囲気ではないな。ネネももちろん違うし……。


 ……こうして考えてみると、俺の嫁、全員俺より気が強い。


「私はお淑やかですよ?」

「……そうだな。ああ、それで……城から出て旅をしてきたなら自国も歩いたんじゃないのか?」

「あ、いえ、飛んでいったので」

「……飛んで……?」

「はい。自作の乗り物で上からぴゅーって」

「お淑やか……?」

「お淑やかですよ?」


 まぁ、そうだな。カルアはクールビューティでミステリアスでお淑やかで救世主だ。本人が言うのだから間違いない。


「……空から見た街は整然としていて綺麗でしたね」

「空から……か」

「はい。城も高いところにあったので、いつも高いところからしか見てないですね。……旅の時は出発してすぐにドラゴンと出会したのでほとんど見てないですけど」

「……ドラゴン?」

「はい。運が悪かったです。……あれ、今思うと……空路を取ったら簡単に別大陸に渡れるから、管理者さんが制限しているのかもですね」

「……よく無事だったな」

「返り討ちです」


 ……もしかしてカルア、普通に戦っても強いのか? ドラゴンとかシユウとかでも少し手こずる強さだぞ。


「……まぁ、そうか。……じゃあ城での暮らしはどうだったんだ?」

「んー、楽しいものではなかったですね。ほら私って天才なので、天才すぎてドン引きされてたので……若干気まずく思っていましたね。常に二、三人の侍女が控えていましたし、自由はなかったです」

「……あまりいい思い出はないか?」

「ん、そうですね。……この歳だから天才でも許されますけど、乳幼児がペラペラと話すのはとても不気味だそうでして……」

「あー、聞いて悪いな。まぁ故郷がいい思い出ばかりとは限らないか。俺もロクな思い出がないしな」

「ん……そうですね。嫌な思い出というわけではないですが、ランドロスさんがいないので思い出しても楽しくはないですね」


 少し照れつつ、窓の外に目を向ける。


「……俺も、カルアと会ってからの方が楽しいな」

「そう言っても、会った頃のランドロスさんは私に全然興味なかったですよね。シャルさんにフラれてから時間も経ってたのに毎日シャルさんの写真ばっかり眺めてました」

「……まぁ、それを言うならカルアも俺のこと興味なかっただろ」

「優しくて親切な人だとは思ってましたよ。……好きになったのは少しあとですけど」


 そういえば、今更だがカルアはいつ俺のことを好きになってくれたのだろうか。

 シャルとクルル……ついでにクウカはなんとなく察しがつくが、カルアとネネは不明だ。特にネネはよく分からない。


「……俺がカルアに好意を抱き始めたのはあの孤児院でトドメを誘うとしたのを止めてくれた時だが……カルアは?」

「んー、分からないです」

「分からない? 自分のことだろ」


 自分のことの上に、カルアは人並外れて賢い。

 分かって当然のように思うが、カルアは本当に分からないのか首を捻って考え込む。


「……初代マスターを呼びに行くときにランドロスさんが扉に突っ込まされたとき「助けないと」って思って後先考えずに飛び込みました。自覚はなかったんですけど、そのときにはもう既に好きになっていたことは間違いないと思うんですけど……。んー、危険を犯してランドロスさんを止めたのも多分好きだからですよね? 最悪巻き込まれて死んでましたし」


 そう言ってから、カルアは腕を組んで「んー」と唸る。


「そもそも、貞操観念の高い私が、いくら信用出来る人だからとふたりきりの迷宮で何日も同衾するという約束を自分から持ちかけるのも、今となっては不自然です。いつかは誰かと結婚するつもりで生涯未婚を貫くなんてつもりはなかったですし、男性と同衾した過去があったらお嫁にいけないと思っていましたので……孤児院に行く前には好きだったっぽいですね」

「……それ、ほとんど関わっていなくないか? せいぜい生活費を負担させられてた程度で」

「……私、稼ごうと思ったら幾らでも稼げたのに、ランドロスさんに出させていたのは不自然ですよね」

「……いや、普通に図々しいだけじゃないか?」

「いえ、私は図々しくないです。……ということは、つまり」


 カルアは何かを言おうとして口篭り、誤魔化すように白い髪を手で少し弄り始める。


「……つまり?」

「……い、いつかは分からないですね」


 いや、かなり遡れているので分かるんじゃないか?

 俺がカルアの生活費を出していたのは、ギルドに入ってすぐからだ。

 生活をするにも元手が何もなければどうしようもないだろうと思ってそうしたんだった。


 ……そうなると……。


「……一目惚れ?」


 いや、まさかな。あの頃は散々悪態を吐かれていたわけだし……と思っていると、カルアは顔を真っ赤に染めて赤くなった頰を隠すように手で押さえて目を背ける。

 けれど否定の言葉はなく、ただ目を逸らして黙っているだけだ。


 あまりにも分かりやすい図星。

 俺が声をかけようとすると、カルアは俺の言葉をかき消すように話す。


「わ、悪いですか。今思ったら、シャルさんのことを知る前は、ランドロスさんは冷静で頼りになる人みたいに感じてました。実際、女の子が関わらなければそうですし」

「……いや、悪いというか……そうか、シャルとかクルルにデレデレしているところを見たのによく恋が冷めなかったな」

「……自覚すらしてなかったので、冷めることがなかったんだと思います。ん、んぅ……は、はずかしいです」


 カルアが顔を抑えているうちに、店主が出来上がった料理を机に置き始める。

 ……一目惚れ、って……マジかあ。嬉しいけど照れ臭い。照れくさいけど嬉しい。

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