デートが下手
言うほど気持ち悪いだろうか。
ミエナもマスターの抱き枕とかぬいぐるみとか自作してるし割とそういうものなのではないだろうか。
異空間倉庫から自作のシャルの像を取り出してカルアに見せる。
「ほら、こんなの。二年と半年ほど前の姿だから今よりだいぶ幼く細いが」
「うわ、めちゃくちゃ上手いのが怖いです。……意外な才能を持ってますね」
「ただの手慰みで作ったものだから大したことはないと思うが」
「えっ、手で慰めるのに作ったんですか?」
「違う」
あくまでも寂しさを紛らわすためのものであり、そういうのは純粋に妄想で……などと言う必要はないな。
「……とにかく、これぐらいなら作れるが充分か? 多分これぐらいならミエナとかも作れると思うが」
「お時間は大丈夫なんですか?」
「まぁこれぐらいなら……人を探して頼むのよりかは時間もかからないしな」
「んぅ……そうかもですけど、あまりランドロスさんの時間は取らせたくないです。ただでさえ忙しそうなので」
「まぁ……じゃあミエナに頼むか? 二週間は帰って来ないようだが」
「急いでないのでそうしましょうかね」
そんな話をしているうちに飲食店などが立ち並ぶ一画に着き、辺りを軽く見回す。
「あそことあそこ……あとそこも、復興のときに軽く話したから半魔族だからと追い出されることはないだろうな」
「じゃあ、あのお店にしましょうか。落ち着いた雰囲気でゆっくりと出来そうです」
意外にもカルアは少し古そうな店を選ぶ。特に否定する理由もないので中に入ると、無愛想な爺さんがこちらを一瞥してから読んでいた本に視線を戻す。
あまりデートらしく向かない雰囲気だが、カルアは上機嫌そうに奥に座る。
……まぁ、店主は良くても客が亜人を嫌がる可能性はあるし、空いていそうな店を選んでくれたのかもしれない。
無愛想な店主を横目に、カルアにメニュー表を手渡す。カルアの華美な格好はこういう趣のある店内にはあっておらず少し浮いて見える。
「あと、管理者さんから見せてもらった知識で、擬似的な迷宮の方も丸々真似をするなら作れそうです。人手と時間と、素材が足りればですけど」
「……迷宮を作れるのか」
「まぁ……今は作るつもりはないですよ。少なく見積もって二十年はかかりますし、食料の生産も……今となっては逆効果にしかなりません。人が増えたらダメなんですから」
カルアはそう言ってから、メニューをジッと見つめる。
「それに迷宮よりも手軽に食料を生産する技術もあるみたいなんで。ハーバーボッシュ法という技術でして、農作物の収穫量を飛躍的に上昇させられるようです。そちらの方が普通の人にも使いやすそうですし。それで十分飢えはなくせます。……なくしたら怒られるでしょうけど」
「……結局、別大陸の化け物をどうにかしない限りはどうしようもないか。……どうにかするには情報が足りない……と」
カルアは見終わったのか俺の方にメニュー表を渡し、俺はそれを見てすぐに注文する。少し時間がかかりそうだが、急いでいるわけでもないからいいか。
「……一応、全く出来ることがないわけではないんですけど。期待値は高くないですね」
「……と、言うと?」
「空間魔法……を始めとしたいくつかの【希少属性】と呼ばれる属性は……本来、人類に備わっていないそうです」
「…….いや、俺は持ってるけど」
「そこなんです。私達人類の祖は、管理者さんたち古代人が調整して出しているはずなんです。万が一にでも別大陸に人が向かわないようにするために、空間魔法みたいな航行に向いている魔法は使えないように設計されているはずなんです」
「……設計ミスか?」
「いえ、あれでも古代人達の中でもトップエリートのはずなので、そんなミスはないでしょうし、設計ミスなら希少でもないはずです」
店主が調理する音を聞きながら、カルアの青い目を見つめる。
「……多分、管理者さんとは別の国の古代人がランドロスさんのルーツにいるのだと思います」
「別の古代人か……まだ残っているのか?」
「それは分からないですけど、管理者さん達の塔が残っていて情報も残っている以上は、残っている可能性は十分にあります。現代人と混じっているということは管理者さんが、現代人を作って広めた時までは生きていたはずなので、化け物には殺されていないでしょうし、不死もあるはずなので。……まぁ、管理者さんとコンタクトを取っていない以上はそれほど積極的に助けてはくれないと思いますが」
……つまり、手詰まりではないがかなり難しいということか。
話していて少し落ち込みつつ、なんとなく疑問に思ったことを口にする。
「……今更だが、報告や連絡とか相談とかの情報共有ばかりで、デートっぽくなくないか?」
「えっ……デートってそういうものじゃないんですか? 必要なことの打ち合わせとか」
「……それ楽しいか?」
「ランドロスさんと二人なら何でも楽しいですよ?」
「……まぁ、それは俺もだが」
「えへへー」
カルアは表情をにへらぁと崩して俺を見つめる。可愛い。めちゃくちゃ可愛い。あざといけどそれでも構わないぐらい可愛い。
「……まぁ、でもあまり一般的ではないというか……王族とかはそうなのか?」
「んー、聞いた話だとそういう感じが強いですね。普通は違うんですか?」
「それ、よほど好き合っていなければ楽しくはないだろ」
「よほど好き合っているじゃないですか」
「いや……それはそうなんだが……」
もっとイチャイチャとしたいと歳下の女の子に言うのはあまりにも情けない。押し黙っていると、カルアはクスリと笑う。
「何の話をしますか?」
「……カルアの故郷を知りたい。アルカナ王国……だったか?」
「はい。えっと、地理的には大陸の北西にあたりますね。ここから見たら真北の方ですね。恒常的な木材不足に悩まされている感じの国です」
「……どんな国だ」
「ここよりもだいぶ寒いんです。だから植物の育ちも遅いですが、暖を取るのに木を燃やす必要があります」
「……いや、そういうことを聞いてるんじゃなくてな……いい国なのか?」
「……そうですね。嫌いではないです。パンがとても美味しいんですよ」
いつか行ってみたいと思ったが……カルアの身分を考えると無理か。見つかってバレては困る。だが、愛した人の故郷は行ってみたいと思ってしまう。




