ロマン
どうしようか。
……想像以上にカルアがとんでもないやつである。
思いついて、出来る技術があったとして……するか? そんなことを。
いや、まぁ……何万年後も後ということだし、カルアがいればすぐにでも解決出来て、カルアがいなくとも管理者が人類の発展の邪魔をしなければどうにでもなるらしいが……。
だとしても、思い切りが良すぎるというか……ほとんど魔王じゃないか?
「んぅ? どうしました?」
そうあどけなさの残る顔で俺に笑いかけるカルアはとても可愛らしく、邪気を感じられなかった。
多分……悪いことをしているという意識はないのだろう。
いや、実際に悪いことなのかという判断は俺には出来ない。規模が大きすぎて理解出来ないのだ。
「え、ええっと……それは、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。私なら数日、他の人でも管理者さんの持つ知識と十年ほどあれば対応出来ます。管理者さんはお勉強が不得意みたいなので難しいかもしれませんが、ちゃんとやれば出来るはずです」
「……それ、とんでもなく迷惑なことをしてないか?」
「無限に世界を続けるなんて無茶を考えない限りは関係ないことですよ。普通にしていれば、その前には人なんて全部滅びてます。今みたいに、一千年周期で人類を大量虐殺して文明を育たないようにするとか、人の数を制限するとか、そういうことをしなければ関係ないですし、仮にそうするとしても私は対応出来るので」
なら……いい……のか?
いや、最終的には大丈夫でも、世界を人質にするのはどうなのだろうか。
俺のちっぽけな精神では理解しきれない。
「これで、ランドロスさんの安全は確保出来ましたから……。えへへ、幸せになりましょうね」
「……ああ。でも……多分ほっとくと化け物の方が問題になるから、そっちもな」
「はい。そっちも頑張ります、約束ですしね」
……解決した……のか?
それでどうにかなるなら、俺としてはそれでいいんだが……。シャルも喜ぶし。
だが、なんとなく釈然としないというか……。こう、アブソルトを倒したときのような「決着がついた」という感覚がない。まぁ人任せなので当然なのだが。
カルアは嬉しそうに俺の頬を触りながら言う。
「あっ、でも、だからといって明日のことは気を遣わなくていいですよ。……無理を言ってランドロスさんに嫌われるのは怖いですから」
……世界を滅ぼすのは怖くないのに、俺に嫌われるのは怖いのか。いや、まぁ……俺もそうだが。
「……俺も嫌われるのは嫌だな。……二人ともに嫌われたくない」
「あっ、そういう悩み方をしてたんですか? てっきり「どっちを先に手をつけようか、げへへ」みたいに考えてるのかと」
「そんなわけないだろ……」
「……もしかして、めちゃくちゃ困らせてますか?」
カルアは一転して不安そうに俺を見る。
「……いや、俺が悪いから、困ってはいるが、困らされているわけじゃないな。あくまでも俺自身の不徳のせいだ」
「……困らせているんですね」
「そういうわけじゃ……そもそも四股とかする俺がおかしいわけだしな」
「……ん、それをさせているのは私です。……シャルさんには勝てないと分かっているから、重婚には賛成していて無理矢理こうやってくっついているんです」
カルアは俺の腹に顔を埋めてから寂しそうに話す。
「なのに、やっぱり一番に思われたいと、矛盾していてめちゃくちゃなことを言っているんです。分かってます。私が間違ってます。ごめんなさい」
「俺もカルアのことは好きだからな」
「……知ってます。同情を引いて、ランドロスさんを勝ち取る作戦なんです」
「……それ、俺に言ったらダメじゃないか?」
クスクスと笑ってから俺の頭の後ろに手をやって、俺を引っ張るようにしながら起き上がってキスをする。
急なキスに少し驚いていると、カルアは悪戯げに笑う。
「矛盾しているんです。策略を巡らせて自分のものにしたいのに、それも含めて全部知ってほしいと思っていて、頭の中の整理が上手くいかないです」
「はぁ、まぁ矛盾する感情があるのは分かる」
カルアに性的な好意をしたいという欲望があるが、傷つけてしまうのではないかという恐怖も強い。
同じような感覚なのだろうか。
「ランドロスさんは、これからどうしたいんですか?」
「えっ、ああ、まぁ……そりゃ……選びにくいしな。もし選んだ結果、嫌われたとなったら……最低なことを聞いていいか?」
「なんですか? ランドロスさんが最低な人なのは今に始まったことではないですけど」
いや、まぁそれはそうなんだが……と、思いながら、意を決して口を開く。
「……同時じゃダメか?」
「…………えっ、男の人って一本しかついてないですよね? 無理じゃないですか?」
「いや、完全に同時にって話ではなくな」
「……それだと、結局問題の解決はしなくないです?」
「まぁ、ほら、その場になったら、多分どちらかがヘタレるだろうしな」
「……ん、んぅそれはそうかとですけど、でも、多分シャルさんは嫌がりますよ?」
「そこは……まぁ、説得……とか、する」
「ランドロスさんはいいんですか? 案外ロマンチストなので抵抗あるかと……」
いや、まぁ……思うところが何もないわけではないが、それはそれで男のロマンではあるよな。
「正直なところ、どうするのが一番なのか分からない。……本当にクルルやネネを気にしなくていいのかも分からないしな」
特にクルルは性的なことへの関心がめちゃくちゃ高いからな。俺と同程度……いや、あれほど我慢出来ていないのであれば、俺以上かもしれない。
そんなに性欲の強いクルルに我慢を強いて大丈夫なのか……。
「えっ……ご、五人でしたいんですか? そ、それは……めちゃくちゃ気まずくないですか? ランドロスさんがめちゃくちゃ頑張っても待機時間の気まずさが半端ではないと思います。私は、他の女の子が触られている間どうしたらいいんですか?」
「いや、そういうわけじゃなくてな……というか、それはどう考えても体力的に無理だ。まぁ何にせよ、迷うことが多くてな」
「……んぅ、まぁ、そうですよね。……ランドロスさんはどうしたいんですか?」
「……揉めずに仲良くしたいかな」
「えっ、揉みたくないんですか?」
「そういう意味じゃない。……まぁ、俺自身はどうなっても嬉しいだけだしな」
カルアは「揉みたいんですね」と頷いてから、ゆっくりと口を開く。
「じゃあ、私がシャルさんを説得しますね」
「……えっ、洗脳はやめろよ」
「しませんよ、洗脳なんて」
そうは言うが……不安である。俺はあくまでもシャルの自分の意思というものを尊重したいんだが……。
それに、普通に説得をするにしても自分で言わずにカルア任せにするのはズルくないだろうか。
怒られるのを覚悟でちゃんと自分で話すべきではないだろうか。




