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一緒に寝るのを恥ずかしがるなんて子供ですね

「……まぁ、すぐに決めてとは言いませんよ。けれど、後悔をさせるつもりはないです」

「……ああ、考えておく。それより寝る場所なんだが……」


 現状、ベッドで隣に座っている状況で、同時に二人も泊める状況は想定していなかったのか、この部屋にはベッドがひとつだけで、他にソファなどの寝れそうな場所はない。

 まぁ、別に床で寝ればいいだけではあるが。


 俺がそう話を切り出すと、カルアは少しバカにするように俺の言葉を鼻で笑う。


「何言ってんですか。別にうぶなねんねってわけでもないんです。隣で寝るってぐらい、気にするような話でもないですよ」

「いや、しかしだな……」

「そもそも、帰ったら一月は寝食を共にするんですよ? そりゃあ、私のナイスバディが気になるのは分かりますけどね。そんなお子様みたいな反応されても困ります」

「まぁ……確かに、それもそうか……」


 ナイスバディではないが、確かに一月も二人で生活するのに、あまり異性として意識していてはダメか。

 カルアは俺を馬鹿にしてクスクスと意地悪げに笑う。


「ほれほれ、こことか気になるんですか?」


 スカートの端を摘んでヒラヒラと動かし、俺の視線が迷ったのを見て、また悪戯げに笑った。


「ふふふ、いい気分です。いつもワガママで私を困らせるランドロスさんが、この程度のことでアタフタして……。大満足です」


 カルアはベッドの上にゴロリと大の字に転がる。元々孤児達のための子供用のベッドなのか、カルアひとりでも少し手狭だ。

 まぁ、詰めれば俺も寝れるか。


「カルア、少しそっちに詰めてくれ」

「んぅ? あ、はい……って、ええっ、な、何して……」


 俺がベッドに寝転がると、俺の目の前にあるカルアの顔が驚愕の表情へと変わる。


「いや、何って……ベッドなんて俺の空間魔法にも収納していないからな。野宿で使えるものでもないし……」

「そ、それは……そ、そうだったんですか」


 カルアが話したときの息遣いまで俺の唇に届くほど近い。ここまで狭いと落ちないようにするだけで、かなりの結構な部分が触れ合うことになる。


 二人が仰向けに寝られるだけのスペースはなく、ベッドの外側に身体を向けると落ちてしまいそうなのでカルア側に身体を向ける。

 赤く染まったカルアの顔が目に入るが、暗いし見間違いだろう。


 柔らかくて俺に比べて筋肉のないカルアの脚が、俺の右脚を挟み込む。ふとももに微かな布の衣擦れを感じるのは、スカートだろうか。


「……もしかして、そういうつもりではなかったのか? こうしているのが恥ずかしいなら、床で寝るが」

「はぁ!? 別に元々こうするつもりでしたし? 恥ずかしいわけないじゃないですか、ランドロスさんが恥ずかしくて堪らない、我慢出来ないというのなら、仕方ないので床で寝ることを許可してあげますよ」

「……まぁ、そりゃ……こうして抱き合うみたいな形で身を寄せるのは恥ずかしいが……我慢出来ないほどでもないな」


 異性として気になりはする。決してカルアのことは嫌いではないし、普通にとても可愛い女の子ではあると思う。

 だが、まぁカルアの言葉ももっともなもので、一月の生活をする中ではこれぐらいの密着はあってもおかしくない。


 その時に迷宮なのにどうこうと考えることは出来ないので、今のうちに慣れておくのも悪い話ではないだろう。


「は、恥ずかしいのは恥ずかしいんですか……?」

「そりゃあ、可愛い女の子とくっつくんだから、照れはするだろ」

「ふ、ふふ、そ、そうですよね。私のような美女となんて、恥ずかしくて当然です。私よりも恥ずかしい思いをしているのはランドロスさんの方ですからっ」

「……? そうだな」


 すぐ近くにいる少女の身体の柔らかさや暖かさにドギマギとしながら、手の置きどころに迷う。

 特に横向きで寝ているせいで身体の下側にある手の位置が難しい。


 ふぅふぅと少し息を荒くしているカルアに尋ねる。


「なあ、腕ってどこにしたらいいんだ?」

「す、好きにしたらいいじゃないですか」

「いや、俺の身体の下に置いていたら痛いし、後ろの方に伸ばしたら寝にくいだろ。だからどうしてもカルアの方に向けることになって」

「好きにしたらいいですからっ、いちいち聞かなくてもいいですっ。ちょっと身体が当たる程度、気にしませんからねっ!」

「……それなら、まぁ」


 自然な体勢に伸ばすと、カルアの身体を抱きしめるような形になる。

 流石にこれはまずいかと思ったが、カルアは気にしていないのか、ふっふっふ、と笑う。


「顔真っ赤ですよ。まー、仕方ないですね、私は可愛いですからね」

「……まぁ、そうだな」


 カルアも身動ぎをして脚が俺の物と絡む。見えはしないが、スカートがめくれていることは分かった。

 脚の付け根に近いうちもも同士が触れ合えば、どうしようもなく異性の柔らかさや匂いに身体が反応してしまう。


 ちょっとした身動ぎの度に触れ合っている身体が擦れて、触れ合っている場所が気持ちいい。

 少しカルアが動いたあと、居心地のいい場所を見つけたのか動かなくなる。


「……その、ランドロスさんの体は、いろいろと硬いですね」

「まぁ……カルアの体に比べるとな」


 触ればふにゅりと指が少し沈み込む。「んっ」と少女の声が鳴り、変なところを触ってしまったのかと思ったが、普通にお腹である。


「あ、あの、次にエッチなことをしようとしたら、シャルさんに言いつけますから」

「いや、触るのは仕方ないだろ。狭いんだしな」

「それはそうかもですけど……」


 会話が途切れる。カルアの脚が微かに動き、俺の脚とスルスルと触れ合う。寒さのせいか、狭さのせいか、少しずつ触れ合う面積が増えていき、ペタリと身体がくっつく。


「か、固くないですか?」

「………………おやすみ」


 これ以上会話をしていたら緊張で寝れなくなる。

 顔を真っ赤に染めているカルアが見えて、やはりカルアも恥ずかしかったのだと少し安心してから目を閉じた。


 少女の感触のせいで、全然寝れる気がしない。

 会話こそないし、互いに目を閉じてはいるが、カルアがまだ起きていることはなんとなく分かるし、俺が寝れずにいることも気が付かれているだろう。


 けれど……あまり、そのことを口にすれば余計に緊張して眠れない気がして、俺は何も言わずに眠れない夜を過ごした。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 いや、本当に全然眠れなかった。

 ずっと横になって目を閉じていたので多少の疲れは取れた気もするが、同時に余計に疲れたような気もする。


 カルアにしてもそうなのか、とても眠たげな目で俺に「おはよう」と言って口を閉じた。


「おはよう。……なんか怒っているか?」

「怒ってはないけど、シャルさんには言いつけます」

「いや、なんでだよ」

「一晩中、ひっつけてきたからですっ!」

「いや、ひっつくのは仕方ないだろ、狭いんだから。最初から床に寝ようかと提案してただろ」

「そ、それとこれとは別の話ですからっ」


 カルアはぶつぶつと文句を言いながら「むぅ……迷宮探索のための家に入れるベッドは、絶対に大きいやつにします」と口にする。


 いや、寝不足で少し変になっているけど、普通にベッドを二つ用意すればいいのではないだろうか。


「……私は二度寝をします」

「いや、俺ももう少しちゃんと寝たいんだが……」

「床で寝たらいいじゃないですか」

「昨晩と言ってることが違うぞ。まぁ、別にいいけども」


 フラフラと床に転がって目を閉じる。少しだけ眠れてうとうととしているところをシャルが扉を開けた音で起こされる。


「おはようございます。あれ? おふたりともお寝坊さんですね。あっ……す、すみません! 客室にベッドが一つしかないのを忘れてました!」

「……いや、別に大丈夫だった。うん。まぁ……」


 シャルに昨晩のことを告げ口されたらどうしようと思っていると、眠たそうにしているカルアはそのことを話そうとはせずに「おはようございます」とシャルに挨拶を返す。


 その後、俺の方をチラチラと見て、ニヤリと笑みを浮かべる。


「ランドロスさん、私、喉が乾きましたね。何か美味しい飲み物が欲しい気分です」


 こ、コイツ……! 脅してきやがった。

 くそ、と思いながらも、ギルドでもらった果実を絞ったジュースを取り出してカルアに渡す。


「んぅ……今日の夜までにはベッドをもう一つ運んでおきますね」

「いや、俺が運ぶから後で案内してくれ。子供だけだと大変だろ。俺なら魔法を使えば一瞬だからな」

「じゃあ、申し訳ないんですが、お願いします。あ、今から朝食ですから、よろしければご一緒しませんか?」

「まぁじゃあ……ご馳走になります」


 シャルに連れられて、たくさんの子供がいる食堂で朝食を食べる。

 良い子ばかりだがやはり少し騒がしく、俺とカルアは注目されていた。


 ……こんなに大勢で食事をしたのは初めてだな。

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[良い点] 商人も良い人だし勇者パーティ以外はみんな好きです。誰にもイライラしないし
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