口説く
落ち着け、冷静になれランドロス。
シャルのお尻を触っているが……これは俺から触りにいったわけではないのでシャルに嫌われることはない。
一度深呼吸をしよう。落ち着くために息を大きく吸って吐いてとしていると、妙にいい匂いがする。
「に、匂いも嗅ぐんですか」
「い、いや、そんなつもりでは……」
「その、体を洗ってから結構時間が経ってますし……」
「いや、本当にそういうつもりでは……」
と言うがシャルは信じた様子はなく、どこか期待をしたような表情で俺の服をギュッと握って身を寄せる。
布団の中の俺とシャルの汗が混じって微かに湿気た匂いのする空気が鼻腔に入り、好きな女の子と一緒に寝ているという事実が実感として突きつけられる。
既に何ヶ月も一緒に寝ている。……であるはずなのに、未だに抱き合えば緊張してしまうのは不思議なもので、けれどそれは俺だけでなくシャルもそうなのか、寄り添うようにぺったりと張り付いているシャルの胸がどくどくと早い鼓動を鳴らしていることに気がつく。
「ランドロスさん、緊張してますか?」
「……まぁ、そうだな。好きな女の子と抱き合えば、緊張ぐらいする」
「えへへ、一緒です。それに今日は、二人きりですもんね」
「それもあるな」
普段なら四人で寝ているのであまり長い時間、抱き合ったりは出来ない。他の二人が邪魔だとかそういう話ではなく、ただ純粋に一人を見つめる必要がある瞬間というのはとても気恥ずかしい。
お尻から手を離してシャルの体を抱き寄せる。
子供らしい細くふわふわとした髪の感触を味わうように撫でると、シャルはポツリと口を開く。
「……あの、ランドロスさん、さっき、僕の体を弄っていましたが……その、そういうことがしたいんですか?」
「い、いや、あれは寝相で……」
「そういう言い訳はいいですから」
信じてくれていない。魔王との訓練の夢のせいで現実でも勝手に手が動いていただけなんだが……。
まぁ、シャルの体を触りたいというのは事実ではあるが。
俺が何て言ったら信じてくれるかを考えていると、シャルは再び期待したような瞳を俺に向ける。
「……します、か?」
「…………えっ? す、するって、何を……」
「ら、ランドロスさんが好きで、カルアさんとしようとしている……その、あの、赤ちゃんを作る行為を……」
思わずゴクリと生唾を飲み込み、布団の中でシャルの体の感触を確かめる。
緊張でガチガチになっているが、柔らかくて暖かい。
あまりに魅力的な提案ではあるが……そういうわけにはいかないだろう。
カルアでさえ小さすぎるのに、カルアよりも歳下で、その上同年代よりも一回り小柄なシャルには出来そうにない。
そう理性では分かっているのに、抱き合っていると体が勝手に反応してしまっていて、シャルの顔が真っ赤になって瞳が羞恥に潤みだす。
「そ、その、カルアさんには悪いとは思います。ランドロスさんの初めてのことを僕がもらってしまうというのは。でも、ランドロスさんが望むなら……僕……」
「っ……い、いや、お、おお、落ち着け、落ち着けシャル」
「ランドロスさんの方が慌てていると思いますが……」
そりゃ、好きな女の子にそんなことを言われては慌てるだろう。
「……あの、シャル。違うんだ。俺はな、そりゃな、そういうことに興味はあるけどシャルの体に負担はかけたくないというか……」
「僕は、大丈夫ですよ。……いえ、えっと、その……差し出がましいことを言いました。そうですよね……その、そういうことをするつもりでしたら、先におふたりに手を出していますよね」
いや、まぁ……それはそうなんだが……。実際あまり乗り気そうではなく俺に合わせてという様子のシャルよりも先にすることになるだろうが……。
シャルの体をギュッと抱き寄せる。
「……シャルはいつも……俺からの愛を信じていないようなことを言うよな」
「えっ、い、いえ、そ、そんな事は決して……」
「今の言葉に「二人よりも魅力がない」みたいな意味合いが入っていなかったか?」
「そ、それは……その、事実として……カルアさんみたいに綺麗じゃないですし、マスターさんのように可愛くもないです」
顔を隠すようにシャルは俯き、俺はその頬を触ってゆっくりとあげさせる。
不安げな瞳の揺れが俺の目を見てくれず、逃げるようにギュッと俺の服を握った。
「……ほら、信じてくれていない」
「そ、それは……だって本当に……綺麗でも可愛くもないです」
「シャルは綺麗で可愛い」
「そ、そんなことは……。カルアさんみたいにお姫様でも、クルルさんみたいにギルドマスターでもないです」
「俺は人を立場で見たりはしない。……シャルは可愛くて優しくて強くて勇気がある、素敵な女性だ」
シャルが俺の目を見て、小さく呟くように言う。
「そ、そんなに褒めて、口説いているみたいですよ。僕、もうお嫁さんなのに」
「口説いているぞ、毎日。気がついていなかったのか?」
シャルは俺にギュッと抱きつくようにして顔を隠すが、耳は真っ赤でとても照れていることが見て分かった。
髪を撫でるようにして耳から退かして、露わになった形の良い真っ赤な耳を触る。
「ひゃ、ひゃうっ!? な、何が目的ですか!? ぼ、僕を口説いても仕方ないですよ!?」
「そんな事はないだろ」
「元々ランドロスさんのことが好きで、何でもさせてあげるのに……。い、意味がないです。えっちなことでも、なんでも好きにしたらいいのに……です」
「別に体だけが目当てというわけじゃない。……というか、そういうことを知っているんだな」
シャルが男が女を口説くのは性的な行為をするのが主な目的ということを知っているのは少し意外だ。この前までのシャルなら絶対に知らないことなのだが……。
「えっと、カルアさんにマスターさんと一緒に色々と教わって……」
「色々と?」
「えっと、これからナンパとかされる可能性があるからその対応とか……です。基本的に一人で動くことはないので大丈夫だそうですけど」
「……そうか。それは助かるな」
「ん、んぅ……僕にはあまり関係ないですけど」
「……だから、シャルは可愛くて綺麗だ。……俺の好きな子を悪く言うのはやめてほしい。それに……ちゃんと他の男にも警戒してほしい」
俺の言葉にシャルは不思議そうな表情を浮かべる。
「……僕、やせぎすで可愛くないです。……その、前よりかはマシになりましたけど、もうお肉の増加もなくなりましたし、これよりふくよかにはなれなくて、やせぎすのままです」
「それも可愛い」
「小さくてちんちくりんです」
「それも可愛い。……俺の好意を信じてくれないか?」
「……そ、それは疑ってないです。でも、その……」
何を言っても不安そうなままのシャルを、体勢を変えて上から押さえつけるような体勢に変わる。
グッとシャルの体を押さえて逃げられないようにすると、シャルは一瞬だけ嬉しそうな表情を浮かべた。
そのまま奪うようにキスをして、小さな幼い少女の口内を舌で弄り回す。
興奮のままキスを続けていると途中でシャルが「んぅ、んうっ」ともがいたので口を離すと、彼女は息をはぁはぁと荒げて俺を見つめる。
俺の手が腕を押さえているせいで口の周りの俺とシャルの唾液が混じった液体を拭くことが出来ずに、窓から入る月明かりでてらてらと艶かしく口元が光を反射していた。
「息が、出来なかったです」
「悪い。ちょっとキスをするだけのつもりだったんだが……」
抗議の言葉はそれで終わって、シャルは押さえつけられたまま、モゾモゾと落ち着きがなさそうに腰を動かす。
「……す、好きなのは、分かりました。分かってます。え、えっと、今のは、その……とてもよかったので、もう一度」
「よかったって、襲うみたいにしたのがか?」
俺の言葉にシャルは顔から火が出るように真っ赤にして……カタン、という足音が直ぐ近くに聞こえて目をパチパチと動かす。
……こんな夜分に誰かが来た?




