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矛盾

 シャルは自分が先程まで怯えていたことも忘れたように、心配そうな表情でミエナの顔を覗き見る。


「あの……どうしたんですか? えっと、お酒の飲み過ぎは体に良くないですよ」

「う、うぅ……シャルちゃん優しい……好き。結婚しよ」

「えっ!? い、いえ、僕はランドロスさんのお嫁さんなので……」

「うう……シャルちゃんにもフラれた……」


 シャルの肩を引いてミエナに近寄らないようにさせながらミエナに話を聞く。


「デートは出来たんだな」

「まぁ……デートというか、単にこっちでお出かけしただけなんだけどね。普通に観光案内して回って……聞いてみたら、そんな感じで……」

「まぁそりゃそうだろ。別にフラれたってわけでもないんじゃないか?」

「そうかなぁ……」

「そもそも多分好意にすら気づかれてなさそうだな」


 普通に同性から「好きな人がいるのか」と聞かれてもまさかそんな話だとは思わないだろう。

 なんて言うべきか……しょうもないというか、もっと落ち着きを持てよと言いたい。


「いや、でもさぁ……普通にショックじゃない? モテモテのランドロスには分からないかもしれないけどさぁ」

「……まぁいや、それは分かるが……。フラれたと思ったときは死にたくなったしな」

「し、死んじゃダメですよ……?」

「分かってる」


 シャルは俺のことを慰めるように手を取って、キュッと握り込む。

 ミエナの前でそれをしたら……と思っていると、案の定ミエナは悔しそうに俺を睨む。


「み、見せつけやがって……!」

「いや、見せつけているわけでは……」


 グランのことで張っていた気が落ち着いてくる。というか、気が抜けた。

 迷宮の管理者やかつての仲間や怪しい人物とかもあるが、やはりいつものギルドの中だ。


 酒に酔ってくだを巻いているミエナ見て苦笑しつつ、溜息を吐く。


「ミエナ」

「なんだよぉ、このロリを独り占めする最悪な敵が……!」

「ありがとうな」


 ミエナは俺の言葉にキョトンとした表情を浮かべる。


「息、全然酒の臭いがしていないぞ」

「へ、あっ……に、匂わないでよ変態」

「面と向かって話してたら分かるだろ。……わざわざ気を使わせて悪いな」

「……別に、あれを理由にシャルちゃんとイチャイチャしているのを見るのが嫌だっただけだもん」


 ミエナは誤魔化すように水を飲む。多少は飲んできたのかもしれないが泥酔というほどでもなく、酔ったフリをして俺の気を逸らそうとしてくれただけのようだ。


「……さっきの人、何なの?」

「グランか。……俺が少し前まで一緒に旅をしていた奴だ」

「少し前までって……あの勇者の仲間?」

「ああ、魔法は苦手で剣技と盾技によって前線を支える重戦士でな。国からの命令で勇者に着いていっていた騎士だ」

「……よく知らない人をあまり悪くは言いたくないけど、アレは良くないと思うよ。人を利用する人の目をしてる」


 見ただけでよく分かるな。……俺をパーティに入れるように勇者に進言したのもグランだったし、今回のことも考えると実際そういうところのあるやつではあるだろう。


「私の父親と同じ目だね。ああいうのは、信用出来ないし、信用しても意味がない」

「……まぁ、以前は俺もアイツらを利用して聖剣でしか倒せない魔王を倒させたしな。あまり偉そうには言えない」

「裏切られたんでしょ?」

「裏切られて殺されるのも折り込み済みでやってきたからな」


 俺がミエナとそう話していると、シャルがギュッと俺の手を握る。


「ダメですよ」

「分かっている。昔そうしていたのはシャルが少しでも幸せに生きれるようにだからな。今は直接守ることが出来るから手伝ってやる意味がない」


 シャルはこそばゆそうに、赤らんだ頬を隠そうと俯く。


「……ん、んぅ……不思議な感じです。その、ほとんど知らなかった人が僕のためにずっと頑張ってきたなんて……。その、なんというか……ごめんなさい」

「いや、俺が好きでやったことだから」

「はいはい、イチャイチャしない。私の前でイチャイチャしないでね」


 ミエナは改めて酒を飲み直しながら、自分の持っていたコップを俺の方に置く。

 なんでみんな俺に酒を飲ませたがるのだろうか。


「あの手の輩はなかなか諦めないよ」

「いや、俺の実力は分かっているだろうから多分大丈夫だ」


 素手での殴り合いでも互角、武器や魔法を使った本気の命の取り合いなら一秒もしないうちに倒せるだろう。


「うーん、まぁ気を付けてね」

「ああ、まぁ……そうだな。そうする。それよりミエナ、ミエナはここに来て長いよな」

「えっ、うん。そこそこね」

「耳と尻尾を切っている獣人の集団って知っているか?」

「人間被りのこと?」

「それ以外にはいないのか?」

「ん、んー、まぁ私は知らないかな。どうかしたの?」

「いや……大したことじゃない」


 ミエナに勧められた酒を飲む前に少し考える。

 この街においても獣人の数はあまり多くない。亜人の中では一番よく見る種族ではあるが、それでも人間の数と比べるとかなり少なく、ある程度集まっていると目立つだろう。


 昨日のあの辺りに人間被り達のいる場所があるだろうし、一度行ってみるのも手か。

 ……一人で行ったらカルアやネネに怒られそうだな。……明日あたり、初代でも引っ張っていこうか。


「一応知り合いにいるから何かあるなら声をかけてみようか?」

「……いるのか?」

「えっ、うん。普通に……あー、まぁうちのギルドとはちょっと相性悪いから、そんなに仲良くしてるわけでもないけど」


 ミエナが普通に接しているならやっぱりそれほど悪い奴というわけではなさそうだな。昨日のやつも悪いやつではなさそうだしな。

 だが、他にそういう奴らがいる可能性は低そうだ。


 ……いっそ、管理者に聞いてみるか?

 カルアの作戦である管理者と仲良くすることで敵対出来なくするというのにもいい影響があるだろうし……。


 いや、しかし、ひとりで管理者のところに向かったら浮気を疑われそうだな。ネネやカルアを連れて行ったら、殺人事件について調べていることがバレるし……。


 初代を連れていくか? いや、管理者は初代に苦手意識を持っていたな。

 メレクはダメとして、ならミエナか? ……あまりちなまぐさそうな事件に女子供は関わらせたくないんだが……。


 俺が悩んでいると、ミエナが俺に酒を勧め、シャルにも勧められたので仕方なく朝っぱらから酒を少しだけ飲む。


 ……これ、結構酒気が強いな。

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