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闇ギルド

 嫌な話を聞いて多少の不安を覚えながらギルドに帰る。

 一応、マスターに話をしておくべきかと考えて、カルアとネネと別れてからギルドマスター室に向かう。


 部屋を開けるとマスターはご機嫌そうな表情で執務室の椅子をカタンカタンとシーソーのようにして遊んでいた。


「……楽しそうだな」


 俺が声を掛けるとマスターはびくりと大きく震えて、シーソーのようにしていた椅子が傾く。


「わ、わわわ……うわっ、こけっ……!」


 ギルドマスター室を走って転けてしまいそうになっていたマスターを抱き寄せるようにして支える。

 かなり傾いた体勢になってしまっていたが、幸いマスターの体重の軽さのおかげで地面にぶつかるギリギリ止めることが出来た。


「……椅子で遊んでたら危ないぞ」

「ご、ごめ……あっ……」


 転けそうになっていたのを止めたことでマスターの可愛らしい幼い顔が目の前にきており、彼女も俺の顔を見てぽーっと頬を赤らめる。


 既に好意は伝えあっていて交際しており、その上常日頃からキスや同衾までしているような関係ではあるが不意に近くに顔が来ると可愛らしくて緊張してしまう。


 心臓がバクバクと音を立てるが、平静を装いながらマスターを椅子ごと立ち上がらせる。机の上に写真が置いてあることに気がついて横目で見ると、この前の四人で撮った写真であることに気がつく。


「……あっ、そ、それは……」

「楽しかったな。またみんなで行くか」

「うん。えへへ、こうして街でお出かけ出来ることなんてなかったから嬉しくてね」


 マスターは俺にニコリと微笑んで、転けかけたことで少しズレていたスカートの端を直しながら椅子にしっかりと座り直す。


 ご機嫌な様子で暗い話は言い出しにくい。ギルドのベテランにでも聞いてみようかと思っていると、マスターは嬉しそうにコテリと首を傾げる。


「それで何か用事?」

「あ、あー、いや、マスターに……クルルに会いたくてな」

「……ん、嘘吐いてる?」

「……あー、まぁそれも嘘ではないんだけど、誤魔化せないか」


 嬉しそうなところに水を差すようなことはしたくないが、マスターには雑な嘘は通じないし、下手に隠すと拗れるだろう。

 多分隠した方が気が悪いだろうと思い、気が進まないながらも管理者から聞いた話をマスターに尋ねることにする。


「……耳とか尻尾を切り落としている獣人の集団ってあるか?」

「耳とか尻尾? ……あ、闇ギルドの【人間被り(ヒューマンジャケット)】のこと?」


 闇ギルド? 闇って……なんとなく悪そうだな。

 などと考えていると、俺がそう考えていることを察したらしいマスターが首を横に振る。


「あ、闇ギルドってランドロスは知らないか。えっと、無認可ギルドのことでね、国に認められていないギルドってだけで別に悪い存在ってわけじゃないよ」

「……その【人間被り】もそうなのか?」

「うん。基本的に人間以外の種族が手を取り合ってるってことで、そこそこうちのギルドとは近いんだけど……」

「何かあるのか?」

「うーん。悪い人達ではないんだけどね。うちとは方向性の違いがあるというか……」


 マスターが人のことを悪く言うことはなく、言葉に言い淀むということは……管理者の言っていたことに真実味を感じてくる。


「……方向性というのは?」

「えっと……んー、その、悪口とかじゃないんだけど、【人間被り】の人達は……ちょっと人間以外の種族を蔑視しているというか……」


 困ったように言葉を選びながらマスターは言い、俺はその言葉が不思議で首を傾げる。


「亜人のギルドなんだよな? 人間だけのギルドだとそういうのがあるのは知っているが……」

「【人間以外の種族もその特徴を取り除けば人間になれる】というのが彼らの主張で、獣人とかだと耳や尻尾を切ったりしてるね。……話しかけられたの?目を抉り出したりしたらダメだよ?」

「……えっ、そうなのか? 人間ってそんな簡単になれるものなのか?」

「そんなわけないよ。普通に意味ないからね。実際無認可ギルドのままなわけだし……」


 まぁ特徴を切除したら人間っぽく見えるのは確かだろう。俺は半魔族だからというのはあるだろうが、目を隠すだけで人間のフリが出来たしな。


 ……俺も目を抉り出すことを考えたことは一度や二度の話ではないし、もしもシャルにフラれたと思ったときに魔族だと怯えられていたら目を抉っていただろうから分からない話ではない。

 今は到底そういう気持ちにはならないが。


「……とは言っても、子供とかは普通に亜人だよな?」

「子供とかは作らない主義らしくて。……もし、ランドロスが彼らに勧誘されたりしたんだったら、絶対に断ってね。何でもしてあげるから」

「いや、そもそも会ったことがあるわけでもなくてな……。悪い人達ではないんだな?」

「うん。数年前にウチのギルドにミエナをスカウトしに来てたときに話してるのを聞いたけど、話している内容や人間以外の種族への蔑視はともかく……そんなに悪い感じじゃなかったよ。話も通じてたしね」


 ……わざわざ亜人しかいないところにやってきて亜人を差別していくのはだいぶ悪くて面倒くさい奴ではないだろうか。

 まぁ、でも人殺しをするって連中でもないのか。それなら別の人達の可能性も十分に考えられるな


 マスターとの話は終わったが、俺がそいつらと関わり合いになることがよほど不安なのか、俺がギルドマスター室から食堂の方に移動しようとするとマスターも一緒についてきた。


 交際をあまり隠せていない気がするが……まぁいいか。俺も隠したいわけじゃないしな。

 出来たら可愛い恋人を自慢したいような気持ちもある。


 ……まぁ、どうしたものだろうか。正直なところ管理者のことよりも直接的に迷宮鼠に被害が出る可能性があるので無視は出来ない。


 とりあえずメレク辺りに相談してみるか……。マスターはかなり過保護で素直に話したら危ないことをするなと怒られそうだ。

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