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82階層攻略

 カルアはネネに「この人大丈夫ですか?」というような視線を向ける。いや、まぁ大丈夫だろう。ちょっとチョロいだけだ。


「まぁこんな具合でな。一応ネネの方は当面は大丈夫そうだから、とりあえず迷宮に潜って管理者と話を付けて来ようかと」

「私も行きますよ」

「……まぁ俺だと交渉は難しいからそのつもりだったが……無理はしないようにな。あと、管理者のところまでは俺が突破する」


 カルアはコテリと首を傾げる。


「んぅ……神殿の人が階段を塞いでいるんですよね?」

「やろうと思えば強引に突破出来る。状況が状況だしな、怪我をさせないように……」

「それなら私がやる。前も似たようなことをしたから簡単だ」


 いや、それは……と思ったが、確かに亜人が立ち入り禁止になったときに忍び込んだのはネネか。

 状況は似ているし、無理ではないか……? いや、でも不安だな。


 近くで空間把握の魔法でネネの動きを追いつつ、何かあったら駆けつけたらいいか。


「……まぁそちらの方が穏当ではあるか。朝食を食べたら行くとするか」

「んぅ……了解です。えっと……私の出番は少し後になりそうですね」

「ああ、まだ時間も早いし、俺とネネが行ってきたあと、安全な場所に着いたらギルドに呼びにいく」


 ネネは頷いたカルアを見て、自室に戻っていく。どうやら服を着替えに行ったらしい。

 俺も自室に移動して服を着替えて、異空間倉庫の中の武器を整理しておく。


 しばらく待っているといつもの黒装束に着替えたネネがやってくる。


「ランドロス、すぐにいくか?」

「いや、朝食ぐらいは食いたいが、ネネはいいのか?」


 ネネは口元を黒い布で隠しながらうなずく。


「仕事の前は臭いが付くから食事は辞めている。気休めだがな」

「徹底しているな。……あー、まぁなら俺も適当に済ませるか。ある程度の食料は異空間倉庫の中に入れてるしな」


 ネネは軽く頷く。

 作戦は雑で行き当たりばっかりでの行動になるが……とりあえず行くだけ行くしかないか。無理そうならネネを連れて撤退すればいいか。


「……まぁ、どれだけ時間に猶予があるか分からない状況だから急ぐか」

「……そんな状況なのに私を口説きにきたのか?」


 ネネは引いたような表情を俺に見せて、俺は当然頷く。


「そりゃな、世界よりもお前の方が大切だしな。本当はしばらくはネネを口説くのに集中するつもりだったが、思ったよりもチョロかったから」

「チョロくない。……よく、そんな歯が浮くような口説き文句を言えるな」

「今のは別に口説き文句でもないが……」


 顔を赤らめているネネは俺の背を蹴って「さっさと行くぞ」と急かす。

 仕方なく頷いて魔道具を取り出していつものキミカの家の近くの路地裏に出る。


 82階層の天井の照明はまだ暗く、人も出てきていない。この階層に住んでいる町人は基本的に夜遅くまで起きているようだからその分だけ朝も遅いのだろう。


 ネネはキョロキョロと周りを見回したあと、状況を確認したように俺の方に目を向ける。


「早いな」

「迷宮内の街の話はミエナから聞いていたからな。階段の位置は?」

「行ったことはないんだが……確かこっちの方らしい」


 しばらく暗い街を二人で歩く。赤い目を隠すガラスを目に入れるべきかと思ったが、人間のフリをしても隣に獣人のネネがいたら意味がないか。


 ネネは少し殺気立つような雰囲気を纏っていて、ギュッと腰の短刀に手をかける。


「……ネネ、もう人は殺すなよ。昨日のも、もうやめろよ」

「……私のことは放っておけ」

「いや、普通に気になるだろ。嫁だぞ」

「……ランドロス、お前若干商人に似てるところあるよな」


 ……嫁でも言っていいことと悪いことがあると思う。流石に暴言慣れしている俺とは言えども商人に似ていると言われるのだけは納得出来ないし不服だ。


「……どこがだよ」


 と、ネネに不満を表すような表情を向けて睨むと、ネネは少しドン引きしたように。


「……人のことを勝手に親友呼びするやつと、人のことを勝手に嫁にしようとするやつのところとかだな」

「……いや、どうせ嫁にはくるんだしもうそういうのよくないか?」

「……お前、嫁を作りすぎて頭がおかしくなったか? あのな、結婚というのは本来成人した人が一対一でするもので、それに同意の元で行われるものだ。お前のような何人も幼い少女を手篭めにして、私まで無理矢理しようとするのはな、社会的な良俗から著しく外れていて……」


 ネネはくどくどと俺に説教をしながら隣を歩く。隣を歩いているネネの距離は以前よりも近く、そもそもネネがわざわざ言葉を尽くして反省を促そうとすること自体が珍しく感じる。


 口では色々と言ってるけど、やっぱり嫁ぶってるよな、ネネ。


 少し歩いたところで話に聞いていた建物が見えて、ネネに言う。


「確かあそこの傍にあるはずだ。実際に近くに来たのは初めてだから……って、あれ?」


 ネネが目の前からいなくなっていて空間把握を使って辺りを探るとネネがそちらに向かっていることが分かる。

 空間把握では確かに足取りが掴めているのだが、その場所に目を向けて耳を傾けてもネネの姿が分からない。


 空間把握では確かに道を歩いているネネがいるのが分かるのに……目では見えていない。いや、意識を集中させたら微かにいることが分かる気がするけれど、どうにも気配が希薄で近くにいるはずなのに目では追いきれない。


「……大したものだな」


 感心しながら脚を止める。あの様子なら全く問題がなさそうだ。ネネの動きを空間把握で追いつつ、路地裏に身を隠してネネが忍び込むのを待つ。


 見張りはいるのに何故か目の前にネネが通っても気がつくことはなく、スルスルと抜けるようにネネが歩いていく。


 その後、階段の半ばに入ったところでネネは短剣を突き刺し、俺はそれを確認してから一度迷宮の外に出てからドアノブの魔道具を使ってネネの元に扉を生み出した。


 階段に入ってからネネの姿を一瞬見失うも、トスンと頭を叩かれてネネの姿を見つける。


「……目の前にいたはずなのに見えなくなった。大したものだな」

「……人を殺すための技だ。褒められたものじゃない」

「技術はまた別だろ。助かった。ありがとう」

「……うるさい。カルアを呼ぶのか?」

「いや、一応83階層に上がってからだな。魔物がいる可能性もある」


 ネネが俺の言葉に照れたように顔を隠しながら前を歩いていく。

 まぁ、神殿の人も上がっているらしいので、おそらくは魔物などはいないだろうが……。

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