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触るなよ

 ネネは俺を睨み終えると、少し寂しそうに目を背ける。


「せっかくだし着ないのか?」

「誰が着るか、バカ」

「いや、俺のために買ったんだろ?」

「そんなわけないだろ。バカ。……さっさと出て行け」

「いや、今日はここにいたいんだが……」


 ネネはトンと俺を押して無理矢理部屋の外に出す。そこまで拒否しなくてもいいのにと軽く落ち込んでいると鍵が締められる音が聞こえる。


 マジで追い出された……。そんなに嫌だったのかと思うと、部屋の中から微かに衣擦れの音が聞こえてきた。

 服を着替えているのだろうことが分かり、思わず苦笑する。


「素直じゃなさすぎるだろ……」

「うるさい。まだ入ってくるなよ」

「はいはい」


 扉の奥から不満そうな声が聞こえる。衣擦れの音がなくなったのを確認して軽く扉を叩くが、鍵が開かれることはなかった。


「ネネ? どうかしたのか?」

「……似合ってないけど、笑うなよ」

「笑ったりはしねえよ」

「……笑ったら殺すからな」


 そう言ってネネが扉を開けると、灯りの魔道具を使ったのか部屋の中が明るくなっていてネネの様子がよく見えた。


 赤らんだ顔はまだ冷めやまないままで、涙に濡れて赤く充血している目もそのままだ。

 肝心のもこもこのパジャマは……。


「おい、何か言えよ」

「……あ、ああ」


 致命的に似合ってない。元々凛々しくシュッとしたクールな顔立ちで、身長こそそんなに高くないが可愛いというよりも綺麗な感じの女性であるネネが子供っぽいもこもこのパジャマを着ていると……なんか顔がすごく浮いて見える。


 顔から下は子供っぽいのに、顔は綺麗系なうえに不満そうにムッとしていて……。


「……せめて笑えよ」

「お、おう、悪い」

「似合わないのは分かってる。だから着たくなかったんだ。なのにランドロスが無理矢理……」

「いや、悪かったって。あー、可愛いぞ?」

「もっとマシな嘘を吐け」


 勢いよく扉が閉められて再び衣擦れの音が聞こえてすぐに開けられる。

 いつもの白い寝巻きに変わり、魔道具の光のせいで少し肌の色が透けて見えてしまっていることに気がつく。


「……あー、ネネは俺のことが好きだから俺の好みそうな服を買ったんだろ」

「……そんなことはない」

「いや、そう言われると話が進まないから。じゃあなんでそんなパジャマを買ったんだって話になるだろ。……そんなに俺のことが好きなのになんで交際とか結婚は嫌がるんだ?」

「幸せになりたくないからだと、言っている」

「それがよく分からないんだよな。……俺には、それがネネのせいだとは到底思えない。無理矢理やらされたことだし、もしネネがいたら別の奴がさせられていただけなんだから、意味ないだろ」


 部屋の端に腰かけると、ネネは俺から少し離れた場所に丸まるように座る。

 それからグッと歯を食いしばるように泣きそうな顔でつぶやく。


「罪は罪だ」

「……そんなことを誰が決めたんだ」

「……私自身か、あるいは神だ」


 神……か。俺はあまり好きじゃない存在だな。窓の外で風が吹いて、カタカタと窓が揺られる音が部屋の中に響く。


「……シャル、そういうのに結構詳しいから聞いてみるか。一応、教会に付属した孤児院で育ってるからな」

「……そんなこと、必要ない」

「罪だったとしても、それを贖う方法もあるかもしれないしな」

「……私が幸せになるための贖罪は必要ない」


 気難しい奴だ。そんな面倒なことを考えたりせず、自分がしたいようにするのがいちばんだろう。

 ネネの側に寄って、再びネネが寝れるように膝枕してやる。


 ネネは赤らんだ顔を俺に向けて、ギュッと服の袖を摘んだ。


「……ランドロスは、なんで私にそうも優しくするんだ。そんなに私を抱きたいのか?」

「……いや、そういう下心があるわけでは……」


 世界一可愛い嫁が三人もいて、頼んだことはないが頼めば何でもやらせてくれるだろうから下心で他の女性に声をかけるようなことはないだろう。


 そう考えていると、ネネは俺の膝の上から不満そうな目を向けてくる。


「へー、そうか。まぁ私にはそんな興味ないよな」


 め、面倒くさい。どっちが正解なんだ……?


「い、いや、今のは照れ隠しで……本当はネネとそういう行為に至りたいと……」

「うっわ、気持ち悪い……」


 どっちだよ……。正解はどっちなんだ。どちらにせよ機嫌が悪くなってるじゃないか。

 ネネの理不尽さに落ち込んでいると、ネネはグッと俺の服を摘んでから目を閉じる。


「……寝るけど、触ったり襲ったりするなよ?」

「ん、ああ」

「……触るなよ」


 そう言ってネネは身体を弛緩させて眠る体勢に入る。

 ネネの心理的な自罰意識をどうにかするのは……俺が時間をかけて癒していくか、もしくはシャルに頼るかがいいか。


 カルアが説得をするのは良くないというか、一時的に結果は出ても後からネネの罪悪感が爆発してしまいそうだ。


 クルルもカルアの説得で恋人にはなったが、多少シャルにもカルアにも遠慮している様子があるので何でもかんでもカルア任せにするのは余計に解決から遠のくかもしれない。


 やはり、シャルに相談するか俺がゆっくりと説得するかがいいだろうか。そう考えていると、寝ていたと思っていたネネにくいくいと服を引っ張られる。


「……寝てる間に触ったりするなよ」

「触ってないだろ」

「……触ったりするなよ」


 ……ああ、これってもしかして触れという前振りなのか? 見てみるとネネはそういう感じの潤んだ瞳を俺に向けている。


 わざとらしく寝巻きの足元をはだけさせて、白く長い足を俺に見せつけていた。言っていることとやっていることが違うようにも思えるが、自分の考えと性欲が合致しないのはよくあることだ。


 俺も我慢しなければとか自制しなければと考えているのにカルアやシャルとは毎日キスを繰り返ししてしまっている。


 ネネの気持ちはよく分かる。俺は軽く頷きながらネネのはだけさせられたふとももにぺたりと手を乗せてすりすりと撫でる。


 そうするとネネの体がピクリと震え、俺の手に甘えるように足を擦り寄らせ、気恥ずかしそうにくぐもった息を漏らさせる。


「触るな。変態……」

「そう言う割に嬉しそうだが」

「そんなわけ……」


 何で俺はネネの欲に従いながらも罵倒されているのだろうか。ネネの脚は三人の物とは違って少し筋肉質で硬く、けれどもしなやかさを持っている。


 肌のスベスベとした奥に感じる確かな感触。筋肉がついていても男の物とは違うなと考えながら触っていると、ネネの瞳がとろんとしてきていた。


 身体を撫でられるのがそんなに気持ちいいのだろうかとおもいながら、何となく尻尾の付け根を触ると、ネネは全身から力を抜いてふにゃんとした甘えた表情で俺を見つめる。


 ……ここがいいのだろうか。

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