お弁当
「砂糖とか入れるか?」
「んぅ……入れません。大人ですから」
いや、大人ではないだろ。それに大人でもそうする奴ぐらいはいくらでもいると思うが……。
苦そうにしているシャルが可愛らしいので見守ることにする。
「お菓子とかも良かったのか?」
「ん、お昼ご飯食べられなくなっちゃうので」
「ああ、昼か。何か食べたいものとかあるか?」
「た、食べたいものというわけではないんですけど……え、えっと……その、僕の手荷物、ランドロスさんの空間魔法に入ってますよね」
「ああ、どうかしたのか?」
シャルに手渡すとシャルは手荷物の中をちょっとだけ弄って何かを確かめて頷く。
「そ、その……差し出がましいのですが……。その嫌だったら嫌でいいんですけど、僕が作ってきたお弁当、食べていただけますか?」
「……えっ、そんなものいつ作ったんだ? 朝早くから出てきてたよな」
「あ、あのランドロスさんの空間魔法の中だと腐らないと聞いたので、少し前に仕込んでおいたんです」
なかなかやるな……。というか……もしかしてシャル、結構前からかなり楽しみにしていたんじゃないだろうか。
可愛い。とても、とてつもなく可愛い。
俺があまりの可愛さに悶えていると、シャルが不安そうな瞳を俺へと向ける。
「ご、ご迷惑でしたか? そ、その、別に、後日、僕が一人で食べてもいいですけど」
「いや、嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい。今から楽しみだ」
「そ、そんなに期待されても、大したものではないので……」
「いや、シャルは料理上手だから楽しみだ」
「そ、そんなに持ち上げられたら困るのですが……」
いい嫁を持ったな。俺は。
仕舞い直してから少し考える。弁当をゆっくり食べられるところとなると、ギルドか自室だろうと考えてから、それだと弁当の意味がないな。
しかし落ち着いて弁当を食べられる場所なんてないよな。……ああ、いや、あるか、一応。
「カルアの作った果樹林でいいか? 食べるの」
「あ……た、食べる場所のこと、全然考えてませんでした……。食べてもらいたい一心で」
「ああ……いや、嬉しい。もう昼だな。……面倒くさいが、ちょっと待っててくれ」
喫茶店から出て路地裏で扉を開くと、目の前に小太りの男が両手に食料を持って腹を膨らませているのを見て思わず扉を閉じる。
そのまま扉を消そうとした瞬間、扉の奥から扉が開けられる。
「旦那、焼きそば食います?」
「食わない。……会ったら一応謝るつもりだったのに謝る気が失せてしまう」
「謝る? 何かあったんですか?」
「……いや、まぁ何というか……迷宮に登る依頼のようなものが取り下げられたから、頼みごとの意味がなくなってな。せっかく色々やってくれたのに」
「ああ、いえ、食って寝てしかしてないので構いやしませんよ」
「そう言ってくれるなら助かるが……悪いな」
「いえいえ、頼みは聞いてもらえるなら構いませんよ。あ、シャルさん、焼きそば食べます?」
「えっ、あっ、い、いえ、今からランドロスさんとお弁当を……」
シャルが首を横に振り、商人が残念そうな手振りをする。
商人から香水のいい匂いがしてくる。どうやら迷宮の中の街の中で付けたらしい。
「……手に持ってるのはすぐ食べるような食料品だけか。てっきり、もっと大量に持って帰るかと思ったんだが」
「売ってもらえるものではないみたいですからね」
いや、もらえるものはもらっていたらいいんじゃないか? と思いながら、ゆっくりと商人から距離を取る。
「あれ、お二人だけですか? ……あ、もしかして二人でデートの最中ですか?」
「……まぁそうだが」
「もしよろしければ装飾品のお店など紹介しましょうか?」
「い、いえ、僕には似合わないと思うので」
「では、ぬいぐるみなどを扱ってるお店などは……」
ぬいぐるみ? と俺が首を傾げるとシャルがピクッと反応して俺の様子を伺うように視線をこちらに向ける。
「興味あるのか?」
「……孤児院に行く前は持っていたな……と、思いまして」
「商人。場所を教えてくれるか?」
「はいはい。地図のここのあたりですね」
シャルが行きたそうなので食事をしたらまた向かおうか。と考えながら、商人に礼を行って別れる。
それからカルアの作った果樹林の方に歩いていると、シャルがおずおずと言う。
「あ、あの、もう結構お金を使ったので……大丈夫ですよ?」
「……シャルが普段やってるカルアの手伝いとか写本とか家事とか、依頼として考えたらもっともらっていてもおかしくないからな? とくに写本なんて」
「そ、それは……でも、その……す、住まわせてもらっているわけですし」
「シャルが遠慮しているのは分かるが、俺もカルアもシャルから多くのものをもらっているんだから、もらってばかりで気まずいんだ」
「お、多くのものって?」
シャルの問いに答える。
「……さっきのカルアの手伝いや家事もそうだが……。……愛とか?」
自分で言っていてめちゃくちゃ恥ずかしくなってくる。
いや、一緒にいてくれることや抱きしめたりなでなでしてくれることを一言で言ったらこうなったんだよ。
顔が熱くなってしまい、シャルにかすかに笑われる。
「そ、そういう、ことでしたら。あっ、つきましたよ」
カルアの作った果樹林の前に来ると大きな看板に【カルアランド】と書いてあった。
「……この果樹林、そんな名前だったのか」
「……ランドってランドロスさんのランドとかけてるんですかね? それとも単純にカルアさんの場所だからでしょうか?」
「……カルアの場所だからじゃないか?」
中に入り、外から見えないぐらいの場所に布を敷いて、シャルと共に座る。
「ピクニックみたいですね」
「そうだな。収穫した後だし、時期の問題もあって果物はなってないな。……リンゴとか持ってきたら良かったな」
「ランドロスさんはリンゴが好きですね」
「シャルから初めてもらったものだからな、こういう木のあるとこにきたらあの時のことを思い出す。リンゴに限らず、シャルにもらったものは全部好きだ」
シャルの手荷物を一通り出すと、シャルが手際良く並べてくれる。
俺の前に置かれた弁当箱がヤケに大きい。
楽しみすぎて待ちきれずにシャルの方を見ると仕方なさそうに「どうぞ」と言われたので蓋を開けると、沢山の品目の料理がちょっとずつ入っていた。
「種類がめちゃくちゃ多いな。……これ、手間すごくかかったんじゃないか?」
「えへへ、手伝ってもらいながらですけど。……思い出の物を沢山増やしたかったんです」
「覚え切れるか不安だな」
ここまでがんばらなくても良かったのに……。というか、尽くされすぎていてめちゃくちゃ申し訳ない。
俺は特に何の準備もせず、行き当たりばったりで行動していたのに……シャルはこんなに沢山の料理の入ったお弁当を用意してくれていて……。
ぬいぐるみ買ったら喜んでくれるだろうか。
俺がもらっているものが多すぎてシャルに返しきれる気がしない。




