ペット
思わず俺はミエナの身体を押し除けて魔族の少女に詰め寄る。
「シルガ。シルガと言ったな。それはもしかしてシルガ・ハーブラットのことか?」
俺が詰め寄っていると、押し除けられたミエナが不満げに唇を尖らせる。
「ちょっと、痛いんだけど……。狭いから気をつけてよ」
「いや、そんなことよりシルガのことを知っているのか?」
ミエナと押し合いながら少女に尋ねる。
魔族の少女は少し驚いた様子を見せるも怯えた様子はなくコクリと頷く。
「あれ、よく見たら全然違う? いや……でも……」
「同じ半魔族だからだろう。シルガとは……どういう関係なんだ?」
そもそも何故会ったことがある。
……シルガは迷宮の中に隠れていたはずで、おそらく人がいないぐらいの高階層に隠れていたのだから、おかしくはない……のか?
人間を憎んでいたが、一応、迷宮鼠の中で猫を被って過ごすことは出来ていたわけだしな。クルルにはバレていたが。
「うん。家で隠れて飼ってたの」
「ああ、飼っていたのか。……飼っていた?」
シルガの顔を思い出す。飼ってた……飼ってた……。
えっ、と、少女の方を見ると、ミエナがむぐぐと得体の知れない声を上げる。
「シルガ……マスターを泣かして許さないと思っていたけど、同情するところもあったんだよ……。どうしよう、今、めちゃくちゃブチギレている自分がいる。えっ、何、シルガ、こんな美少女のペットになっていたくせに満足せずに復讐とかしてたの?」
「三人は、シルガと知り合いなの? ……もしかして、下の人?」
少女は不思議そうに俺達を見ながら首を傾げる。その仕草や表情の作り方は少しクルルに似ていて……ああ、ミエナは特にこういうのが好みなんだな、と察する。
ミエナの女の好みの話よりも今はシルガのことだ。
「知り合いというか……。下の人というのは、迷宮の外という意味ならそうだが」
「あのシルガはどこにいるか知ってる? 半年前からいなくなっちゃって……」
なんと答えるべきかのか分からない。少女のことも、シルガと少女の関係性も分かっておらず、下手に話していいのかどうかに迷う。
俺が考えあぐねていると、背後からメレクの低い声が聞こえた。
「死んだ。アイツは死んだ」
思わず振り返ってメレクを見ると、小声で「隠し続けるのは無理だろ。嘘を吐くの、お前らは下手すぎる」と俺とミエナに伝える。
少女はパチリ、パチリと紅い瞳を瞬かせて小さな声で「そう……です、か」と口にして、メレクの言葉の意味を消化するように目を伏せる。
「……あの、シルガとはお友達だったの? 三人は」
「……いや、まぁ……そんなところ、かな? 一応」
俺とは加入時期も被っていないし、初対面の時から殺し合いしかしていないから友達とは言えない気がする。
少女の黒い髪が窓から入ってきた髪に揺らされて、少し寂しげに揺れた。
「……まぁ、そうかもな」
……気のせいかも知れないが、最後は和解出来た気がするので友人と言ってもいいだろう。
「あ、あの、君のお名前を聞いてもいい? 私はミエナ、こっちの大きいのはランドロスで、もっと大きいのはメレク」
「お、おい、名乗って大丈夫なのか?」
俺が思わず突っ込むと、ミエナは小さく頷く。
「何にせよ情報は必要だし、それならこの子に頼ったら早いでしょ?」
「いや、それはそうなんだが……」
「ランドは、シルガのこと気にならないの?」
「それは気になるが……。いや、まぁ、そうだな。名乗る方がいいか」
敵意はなさそうだし……。まぁ、ミエナは好みの美少女とお近づきになりたいだけだろうが、色々と気になるのは確かだ。
「あ、私はキミカ。えっと、よろしく?」
メレクがキミカに向かって話す。
「……あー、嬢ちゃん、俺達と話していて大丈夫なのか? 俺達はよく分からないまま追われていたが」
「下と違って混血は禁忌だから……でも、シルガも一年ぐらい匿えたから大丈夫だと思う」
「いや、俺たちは迷宮の外でも異端だが……。まぁ、話はするか」
キミカは少し考えた風に口元に手を当ててから窓の外を見て指差す。
「あそこの通りの、あの街灯から三軒目のところが私の家だから、後で来て。ここだと、見つかるかもしれないから」
ミエナとメレクの方を見ると、ミエナは疑う様子もなく、こくこくと嬉しそうに頷き、メレクは仕方なさそうに小さく頷く。
太陽を模した照明がが赤くなって、夕方のような様子になっていく。少しばかり眠気がしてくるのでおそらく、あの照明は外の太陽の動きと一致しているのだろう。
もう夕食を食べ終えて寝ていてもおかしくないような時間なのに、子供達はまだ帰らず勉強をしたり遊んだりとしている子が多い。
「じゃあ、私は先に帰るね。もうちょっとしたら見回りの先生が来ると思うから、気をつけてね」
「……あ、もしかして、私って純血のエルフだから見つかっても大丈夫なんじゃない?」
「……学校の中に知らない大人がいたら不審者だよ」
見回りの先生? と首を傾げていると、空間把握に階段を上がってくる大人を感じる。
まずいっ、と思って隠れようとするも、ミエナとメレクが近くの棚の後ろに隠れてしまう。
空間拡大で隠れられる範囲を広げようとするが複雑な術式のため焦りもあって若干手間取り、そうこうしている間に扉が開けられ……と思っていると、キミカが俺の頭に自分の帽子を被せる。
「ああ、生徒がまだいたか……ん、誰だ?」
ジャラジャラと沢山の鍵を持っている大人の人間と目が合う。「見つかった」と思ったが、それほど不審そうに俺を見ていない。
キミカはパタパタと手を動かして答える。
「あ、わ、私の兄です。今日中に返却しないといけない本があったんですけど、家に忘れちゃって……」
「ああ。一応、保護者は出入りダメだからね」
「す、すみません。以後気を付けます」
誤魔化せた? ……ああ、ツノのない頭の部分を隠せば魔族に見えるのか。
人間に見られようとしたことは何度もあるが、魔族に見られようとしたことはなかったので初めて知った。
見回りの先生とやらに言われて図書室から出ると、彼は特に迷った様子もなくガチャリと鍵をかける。
……ミエナとメレクが閉じ込められた。……いや、まぁ次に行く予定の場所は決まっているし、ミエナはイユリの魔道具を持っているので、いざとなったらどこからでもギルドには帰れるだろう。
帽子がズレないように飾り直しながらキミカに手を引かれて階段を降りる。
「お、おい、これ、大丈夫か?」
「……多分、さっきバレてなかったから大丈夫だと思う」
他の子供達のいる場所を通って建物の外に出るが、案外バレずに敷地外に脱出出来た。
……これ、最初から俺が帽子を被って歩いていたら大丈夫だったな。
いや、まぁ……こういう状況にでもならないと隠れずに歩くことなんてなかったので、判明しなかっただろうが。
なんとなく今までの苦労が意味のないことだったようで落ち込みそうになるが、別に間違った判断はしていなかったはずだ。
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