行きつけの夜の店
同年代女性だったら威圧感が少ないだろうということでマスターとカルアがメナにお菓子やジュースなどを与えながら話を聞いていく。
こういう時、小さくてしっかりしている子供がいると助かるな。などと思いながら、机の上に置いてある弓を見る。
「ああ、それ? 私も子供の頃習ったなぁ」
「……あんな女児の力で引けるような弓で狩りなんて出来るのか?」
「無理じゃないかな。獣の皮を貫けるとは思えないし。造りも素材もあまり良くないし、おもちゃみたいなものだね」
ミエナは弓に目を向けてから、女児三人がいる机の方を見てニヤニヤとだらしない笑みを浮かべる。
……コイツ……本当に……。
「……なんでそんなの持ってたんだ? 追い出されてから自分で作ったのか?」
「いや、おもちゃみたいなものと言っても、そんな簡単に作れるものでもないし、作ってる間に餓死するかなぁ」
「じゃあなんでこんなの持ってるんだ?」
「さあ……ん、まぁ、何も持たさずに放り出すってのは、良心が咎めたんじゃないかな。結構綺麗な服を着てるのも……。罪悪感を誤魔化すためじゃないかな」
綺麗な服……というのは分からないが、背中が結構見えていたり、脇が見えていたり、ふとももが見えていたりと、あまり機能的には思えない。
「……そんなものか」
「そんなものだよ。……同じエルフだし、今日は私が預かろうか?」
ミエナが仕方ないとばかりに言うが……いやそれはダメだろ。
「俺とお前はダメだろ」
「私はパパほどガチじゃないから大丈夫だよ」
ミエナは俺の隣に座ってそう言うが、俺はミエナよりかは見境があるつもりだ。
……今日はもっと探索するつもりだったが、何故かネネに怒られたしな……。どうしようか。
「ママにするつもりだろ」
「メナちゃんにママ適性はないよ」
「……どちらにせよ。他の奴に頼む」
「いや……本当に何もしないけど……」
「ミエナ、お前俺が何もしないって言って信じるか?」
ジロジロと俺の方を見てきて首を横に振る。
「それは信じないけど」
「そういうことだ」
「そういうことか……。ん、まぁ、それはそれとして、今日、夜大丈夫?」
「……夜? 嫁と一緒に寝るつもりだが」
俺がそう答えるとミエナは嫉妬の視線を俺に向けてから、突然「ハッ」とばかりに目を見開いて俺を見る。
「…………今、思ったんだけど、もしかしてランドのお嫁さんになったら一緒に寝れる?」
「……いや、お嫁さんにしないぞ?」
「ほら、ランド」
ミエナは自分の服の襟元をめくって俺に胸の谷間を見せようとするが、全然興味が湧かず「はぁ……」という感想だけである。
一般的な男なら反応するのだろうか。いや、でも全然胸ないし、メレク辺りは興味なさそうだな。
「……ため息は酷くないかな。私は私でちょっと恥ずかしいのに」
「ならするなよ。二人してダメージを負っただけだろ」
「……普通の男の子なら喜ぶと思って」
100歳超えの女性の胸で喜ぶ男がいるのだろうか……。
「……分かった。お嫁さんにしてくれたら溜め込んだお金をあげるよ」
「嫁にはしないからな。絶対手を出そうとするだろ。まぁ、それはさておき、なんで夜に?」
俺がミエナに尋ねると彼女はぐったりと机にもたれかかりながら、俺にだけ聞こえるように小声で話す。
「……迷宮攻略、カルアは除けるべきだと思って。あと、メンバーもちゃんと固定してやっていった方がいいと思ってね」
「……ああ、まぁ……カルアを除けるのは賛成だ。少しばかり優しすぎる」
「ここで話すとあれだから、私の行きつけのお店で話そうかなって、メレクも誘って」
「ああ、分かった。……なんか懐かしいな。数ヶ月前だというのに」
「私からしたらついこの間のことだけどね」
ミエナはクスリと笑う。まぁ100歳以上年齢差あるしな。
夜に出て行っても三人とも俺が帰ってくるまで待ってそうだし、早めに出て行って早めに帰った方がいいか。
あまり暗い中帰ってくるのも危ないし。まぁ探索者はマスターよりかは夜目も効くからそんなに気にする必要もないが。
◇◆◇◆◇◆◇
ほんの少し日が傾いた空。
俺とミエナとメレクというどこか懐かしい感じのする三人で歓楽街を歩く。
娼婦などの客引きがいてあまり好きになれる空気ではない。体臭を誤魔化すような香水と酒と油の匂い。
酒場やら連れ込み宿やら娼館やらと、分かりやすい欲望の溢れた街並み。
……とてもではないが、あの三人を連れて歩けるような空間じゃないな。
「居心地悪そうだな。ランドロス」
「まぁ、こういう空気は慣れないな。……そもそも、人の街に入れるようになったのもここ数ヶ月の話だしな」
「私は結構好きだけどね。ほら、やっぱりギルドだと子供も多いからお行儀よくしないとダメだしね」
「……お行儀よく……してるか?」
メレクと顔を見合わせると、メレクも強面を困惑の表情に変えていた。
……普段からクルルにベタベタと甘えて、最近はカルアやシャルも狙っているし、他のギルドの童女にも声をかけてお菓子などをあげている姿を散見する。
まるっきり不審者である。
「あ、着いたよ。ここ、このお店」
「はぁ……行きつけなのか?」
「週に一度ぐらいはね。あとは悲しい気持ちになったときとか」
「案外酒に逃げたりするんだな」
と、言いながら三人で店に入ると、小さな少女がとててて、と走ってきて「いらっしゃいませー。あ、ミエナちゃん」と笑みを浮かべる。
……メレク、助けて。と、思って視線を向ける。
メレクも俺に助けを求める視線を送ってきていて目が合う。
「ミエナちゃん、今日はお友達ときたんだ。指名はどうする?」
「ランド、どんな女の子がいいとかある?」
「…………いや、俺もメレクも妻帯者だからこういう店は困る」
「お酒を一緒に飲むだけだから大丈夫だよ。それにね、ここの女の子は、ちゃんと20歳以上だから」
いや、どう見ても子供……。ああ、商人が言っていた俺の好きそうな店とはここのことか。
確か小人という人種の……。本当に子供にしか見えないな。
「……メレクは好みの子いるか?」
「いや、いるわけないだろ」
飾られている写真を見ながら考える。……うーん、あまり興味や関心がそそられない。
「……ミエナの好きな子でいいぞ」
「えっ、本当に? じゃあまぁ三人でいいよね。げへへ」
……これ、バレたらまずいよな。いや、メレクが庇ってくれるか……?




