迷宮鼠攻略班
本格的に迷宮攻略をしていくことになり、おおよそのメンバーが揃った。
まずリーダーのカルア・ウムルテルア。
カルアは基本的に迷宮に潜ることはなくギルドの中で魔道具の製作や迷宮の進行等を纏めるのが仕事だ。もし迷宮で困ったことや危険なことがあればカルアに頼ることとなる。
イユリやシャル、その他、迷宮攻略をしない裏方のギルドメンバーの指示もカルアがすることになる。
迷宮に潜るのは、主として俺、ランドロスだ。
単に積載量が破格であり、おおよその場合は何があっても対応出来ることや、予備の帰還のための魔道具を持てることなどから基本的には俺と他のメンバーで向かうこととなる。
次に迷宮鼠初代ギルドマスターのグライアス。
迷宮内における生存性の高さや潤沢すぎる治癒の魔力。圧倒的な経験量から他メンバーの死亡や怪我などのリスクを下げることが出来る。60階層ぐらいまでなら一人で散歩感覚で歩ける。
未だ脅威である裁く者の対応が可能なメレクも可能な限り連れて行きたい。単純な怪力と体力、ベテランの経験など、脳筋ながらもバランスの取れた探索者である。
この三人が本日のメンバーであるのと同時に、しばらく時間に余裕がある仲間だ。
斥候として優れたネネや、攻撃能力は高くないが色々な使い勝手の良い魔法を使えるミエナなどもいるし、協力してくれるようだが……しばらくは、この男三人で向かうことになるだろう。
その理由は……初代マスターのグライアスの提案にある。
「よし、じゃあ、予定通り……今日は昼までに15階層までひたすら走るぞ」
「ああ」
「分かった」
俺とメレクは軽く身体をほぐしながら初代の言葉に頷く。
その提案とは、初代が三人に治癒魔法をかけ続け、道の邪魔になる魔物は俺とメレクで通り過ぎざまに倒しながらひたすら走るというものである。
治癒魔法がかかり続けているとは言えど、魔法使いのミエナには厳しいやり方で、体力的には問題のないネネは「そんな暑苦しいことが出来るか」とのことらしいので男三人でマラソンをすることになった。
まぁ、体力の消耗があるので普段は走ったりはしないが、当然ながら走れるなら走った方が絶対に早いしな。
軽い治癒魔法なら永久的に使える初代と、出会い頭に魔物を一撃で倒せるメレク、積載量の多い俺の三人だから出来る普通は無理なやり方である。
迷宮の扉のところまで見送りに来てくれたカルアとシャルに手を振ってから迷宮の中に入ると、身体に治癒魔法がかかっていく感覚がする。
「行くぞ」
という初代の声に二人で頷き、迷宮を駆け抜ける。
普通ならすぐに疲労するようなペースで走るが治癒魔法が常にかかっているせいで走っても走っても疲れる気配がない。
けれど体温を放出するためにか汗だけはダラダラと流れて非常に気持ち悪い。
二階と繋がる階段にたどり着き、短剣を一度突き刺すと短剣の術式が迷宮の中に溶け込んでいく。
一度実験のためにドアノブを取り出して、魔力を込めると扉が発生して扉を開けるといつものギルドが見えた。
「あっ、ランドロス……と、初代とメレク」
たまたま近くにいたマスターと目が合い、実験のために使っただけだと説明をしてから閉じる。
「……すごいな、最近の技術というのは」
感心しながら二段飛ばしで階段を登っていく初代の言葉に首を横に振る。
「いや、最近の技術じゃなく、イユリとカルアがすごいんだよ。他の奴らはこんなこと出来ないしな」
「……技術者や研究者がいるなんて、迷宮鼠も随分様変わりしたな。まぁ、俺が頻繁に帰っていた頃とは数十年違うから当然か」
「昔はどうだったんだ?」
再び走りながら初代に尋ねると、初代は少し難しい顔をしながら答える。
「あー、もっとギルドらしいギルドというか、荒くれ者の集団って具合だったな。ここ一月、怪我人を治しに回っていて飯をもらいに戻るぐらいだったから現状にはそんなに詳しくないが……昔はあんな子供がたくさん遊んでいたりって感じじゃなかったな。知ってる奴がみんな子持ちとかになっていたどころか、その知らない間に産まれた子供も大人になっていて驚いた」
初代の言葉を聞いたメレクが魔物を蹴り飛ばしながら答える。
「あー、まぁ、今は迷宮鼠の探索者の二割ぐらいは、親が迷宮鼠に所属していて自分も所属しているという二世だしな。女子供が多いのもあって、緩い感じにはなってるな。……そもそもギルドマスターが子供だ」
「……まぁはぐれ者ばかりが集まったらそうもなるか」
「問題があったか?」
「いや、いいんじゃないか。そもそも俺が口出しするようなものでもないしな。……少し、昔のことを思い出して、悪い気はしない」
走りながら話していると、前に数体の魔物が見えて、針に紅い雷を宿した物を投げつけて殺す。
魔物の遺体を回収し、初代の方に目を向ける。
「家族がいたのか?」
「普通はいるだろ。と、言いたいが……」
「俺は奴隷生まれだからいないな。今は妻がいるが」
「俺は母がいた。あと、昨日ふたり妻が出来た」
メレクが驚いたように俺に目を向ける。
「……ちゃんと言えよ、ランドロス。結婚祝いぐらいしたのによ」
「いや、結婚式や披露宴はまた別にするつもりだから別にいいかと思って……。あー、普通は先に話すものなのか?」
「まぁ、仲の良い仲なら普通は。こっちも祝いたいしな」
「三人とも常識に欠けていて知らなかった。悪いな。……なら、帰ったらギルドの奴にも話すか」
いや、でもあまり大々的に祝われたら、後々クルルとの交際を伝えるときに気まずさが増すな。
どうにか上手くやる方法はないだろうか。
「……お前ら、ふたりとも妻帯者かよ。俺は独り身だってのに」
「まぁ、妻帯者といっても昨日婚姻届を出しただけだけどな」
「それに妻が二人だろ? ……世の中って不公平だな。どんな奴なんだ? ギルドの職員か?」
「……迷宮の扉まで見送りに来てくれていた二人だ」
初代は「ん、あー、あの二人か……」と思い浮かべたあと、頬を引きつらせて俺に言う。
「好みが分かりやすいな、ランドロス」
「……いや、色々あって」
「まぁ、将来すごい美人になりそうだよな」
「……変な目で見るなよ。あと、今も美人だしな」
「いや、流石にあんな子供を変な目で見たりしねえよ。あー、なんで俺はモテねえのかね。身長か、年齢か……」
「単に迷宮に篭ってるから知り合いがいないからじゃないのか?」
「いや、逆だ。モテないから妻や恋人がいなくて迷宮に篭ることが出来た」
そうしている間に二階と三階の間の階段にたどり着いて、短剣を壁に突き刺しておく。
走ったらかなり早いな。まぁ……一人だったら危なすぎて出来ないが。
そのまま三人で走り続け、かなりの高速で迷宮を登っていく。
 




