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ルール決め

 迷宮鼠のギルドハウスの中で三人でグッタリと疲れを癒していく。

 不慣れな人前、夏の暑い気候というのもあるが、何よりも結婚をしたという事実にまだ着いていけていない。


 ……目の前に座るシャルとカルアのふたりは、俺の家族なのだ。

 母以外で初めての家族だ。……俺の家族である。


「……えへへ、どうかしました? 私に見惚れていて」

「……いや、結婚したな。と、思って」

「そ、それ、言わないでくださいよ。……ど、どう接したらいいか分からなくなるじゃないですか」

「さっきノリノリで名乗ってただろ」

「それはそれなんです。ちょっと自慢したかっただけじゃないですか」


 カルアはそう言った後、オホンと咳をして話を仕切り直す。


「そのことはさておきとして、家庭におけるルールとかは考えた方がいいと思うんです」

「家庭のルール、ですか? みんな仲良くしましょうとか、小さい子には優しくしましょうとかですか?」


 シャルは首を傾げながら言う。孤児院のルールだったのだろうか。

 水を飲みながらカルアに目を向けると、彼女は小さくこくりと頷いた。


「まぁそんなところです」

「……ああ、ルールとは少しズレるんだが、やっぱり部屋はもっと余裕があるところに移りたい」

「却下です。一緒の部屋で寝たいです」

「……いや寝室は同じでいいんだが、ふたりが着替えたりするのに俺が出ていかないといけないのは全員にとって面倒だろ。俺が寝てたら着替えとか出来ないわけだし、あと、入るのにすごい気を使う」


 俺の提案に、カルアは腕を組んで考える。


「うーん、じゃあ、ルール1-1です。【寝室は原則として一室で、可能な限りみんなで寝る。】です」

「俺はいいが、随分と同じ部屋で寝るのにこだわるな」

「……一緒の部屋で誰かと寝るような経験がなかったので、憧れがありまして……。それに、実際にしてみると、人の体温がとても安心すると言いますか……今更ひとりで寝るのは、寂しくて耐えられないです」


 ……美人で知的でミステリアスなカルアは、顔を赤らめながらそう言う。シャルに視線を移すと問題がないように頷いたのでそのルールを採用することになった。


「1ではなく1-1なのは何でだ?」

「寝室というか、睡眠関連は1-?みたいな感じにする方が分かりやすいかと思いまして」

「ああ、なるほど」

「1-2は、寝ている相手にエッチなことをしないでどうでしょう。特にスカートめくり」

「……もうしないって。反省してる」


 じとりとした目で二人に見つめられる。

 このこと、もしかして一生からかわれるのだろうか。


「そういうことをしたいなら、ちゃんと許可を得てくださいね」


 カルアに注意されて頷く。


「……ああ。それより、ルールの話だったな。シャルは何かあるか?」

「え、あっ、そうですね。浮気をしないでほしいです。これ以上。三人で満足してほしいです」

「ああ、勿論……いや、これ以上はない。絶対にないけど、今まで本当にごめん」

「いえ……ん、エッチなことがしたいのでしたら、その、僕がその……してあげますから、我慢してください。スカートめくりをしてもいいですから」


 思わず立ち上がりかけてガタリと音がして、ゆっくりと座り直し、神妙な顔を作ってうなずく。


「食いつきがすごくて引きます」

「……いや、違うんだ。……違うんだ。その……違うんだ。元の話に戻ろう」

「違わないのは分かりました。とりあえず2-1【浮気はしない】ですね。……本当にそろそろ勘弁してくださいよ」

「……ああ。うん」


 俺が頷くとカルアは仕方なさそうに俺を見て溜息を吐く。


「……そういえば今更なんだが、シャルは私物とかどうしているんだ? あまり金を渡した覚えはないが……」

「あっ、私と一緒に買い物に行くのでその時に買ってますよ」

「ああ、そうなのか。悪いな気が回らなくて。……財布も別で渡していた方がいいか?」

「えっ、い、いえ、今のままで大丈夫ですよ。お出かけする時はカルアさんかランドロスさんと一緒ですしね」

「何かひとりで買いたいものとかないのか?」

「ん、んぅ……ランドロスさんに贈り物はしたいですけど、それをランドロスさんのお金から出すのは違う気がするので……」


 じゃあ金に関しては今のままでいいか。


「ルール3-1は【お金は必要な時に言う】という感じにしますか。……まぁ私のお手伝いをしてくれてますし、お金が入ってきたらちゃんとお給金はたくさん払うので大丈夫です」

「えっ、あ、ありがとうございます」


 ……カルア、結局まだ一切の金銭を稼いでいないが……すごい大口である。

 シャルもあまり期待していないのか適当に流している。


 その後、【寝る時は抱きついても逃げない】だとか【毎日一回以上キスをする】だとかカルアが付け足そうとするが、そんなルールに耐えられる気がしない。


「……カルア、俺はな、カルアのことが好きだから、そうあまり身体をくっつけたりしたら我慢出来なくなるだろ。だからダメだ」

「我慢なんてしなくていいですよ。夫婦なんですから」


 コイツ……自分は直前になってヘタレるくせに……。本当に、次ひっつかれた時に胸を触ろうとしてやろうか。絶対に途中で止めるだろう。


 そんな感じに決めていくが、ちゃんとするにはマスターの意見も聞く必要もあるので、こういう雑な草案程度でいいだろう。


 そう考えていると、俺達のところに小柄な男がやってきた。


「……あー、ランドロスとカルアだったか。ランドロス、お前迷宮を踏破するつもりらしいな」


 顔を上げると初代ギルドマスターであるグライアスが立っていた。

 まだ地上に残っていたのか。いや、迷宮よりも多くの人が困っている地上に初代がいるのは当然か。


「俺も迷宮に帰るつもりなんだが、途中まで一緒に行くか?」

「ああ、明日から潜るつもりだが……俺は日帰りだぞ」

「……ん? いや、日帰りだと踏破出来ないぞ。せいぜい5階層までが限界だろね

「ああ、いや、ほら、この前、魔物が落ちてきた扉があるだろ。あれみたいな感じのものを作る魔道具が出来てな」


 初代は訝しげに俺を見た後に頷く。

 ……一瞬疑われたな。まぁ、似た魔道具があると知ったら警戒ぐらいするか。


「その魔道具のおかげで途中で帰って、そこから迷宮の探索が再開出来るんだ」

「……えっ」

「どうかしたか?」

「……つまり、迷宮の30階から直接ギルドに来れて、30階に帰れると」


 初代の言葉にカルアが頷く。


「あ、はい。そういうことですね」

「……何回でも?」

「まぁ魔力は使いますが」

「…………つまり、迷宮で寝泊りする必要はない……と? というか、そんなものがあれば迷宮の攻略も簡単だし、誰かが遭難することも……!」

「あ、い、いえ、イユリさんの手作りな上に希少なものも使っているので量産は出来ませんよ」


 初代はそれでも目を輝かせてカルアを見る。


「いや、いい。それでもいい。金なら幾らでも出す。頼む譲ってくれ」

「ん、んぅ……まぁ、初代さんの手助けをするためのギルドらしいんで、渡すのはいいですけど、強度に不安もあるのであまり過信はしないでくださいね。あ、イユリさんが幾つか持ってると思うので」

「ああ、分かった。幾らだ?」

「んー、私はお金の勘定が苦手なのでイユリさんの言う分で、イユリさんに払っておいてください」

「分かった。ああ、ランドロス、また明日の朝な」


 初代は勢いよくイユリの方へと走っていく。……爺さんなのに落ち着きないな。


 俺はカルアの方を見る。


「……そういう風に雑だから金を稼げないんじゃないのか?」

「いずれは全部回収出来るので大丈夫です」


 それならいいが……いや、別に収入がなくても構わないが。

 明日からの迷宮の攻略も心強い同行者が出来たし、いい魔道具もあるし、結構楽にいけそうだな。


 せっかくだしメレク辺りも誘うか。

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