ハマる
これで何度目になるのか唇をつけてカルアの中に舌を入れる。
くちゅりと口内で唾液の混じり合う水音が響く。最初の方のぎこちない動きに比べて少しはマシになるが、やはりまだまだ変な動きをしてしまうし、カルアの動きとは上手く噛み合わない。
けれどそのぎこちなさも互いに興奮を覚えさせた。
「……き、気持ちいいですね。聞いていたより、すごいです。も、もう一度……」
「い、いや、そう言ってからもう何回もしてるだろ」
「……ランドロスさんはしたくないです?」
「いや、したいのはしたいんだが……」
俺もカルアも完全に接吻という行為に夢中になっていた。周りに誰もいないという状況ではあるが、一応は野外であり、少しばかり長時間ふけりすぎている。
「ね、もう一回だけ……」
「……か、帰ってからな?」
「……か、帰る前にもう一回だけ」
カルアは完全にキスの味を覚えてハマりきっていた。
いつも流されてばかりの俺ではあるが、ここは心を鬼にして部屋に帰るまでは我慢を……。恥ずかしそうにくいくいと袖を引っ張られて上目遣いで見つめられる。
あ、堪えるのは無理だ。
それから何度か繰り返したあと、カルアの顎が疲れてしまったことで一時的に中断することになった。
……回復薬を使えば顎の疲れも取れるよな。などと考えるも、一時の欲望のためにそんな高価なものを使うのはどうなのだろうかと考える。
夜道の中、カルアと手を繋いで帰路に着く。
「……キスって、あんなに気持ちいいんですね。……ランドロスさんが経験豊富で上手だからでしょうか?」
「いや、いつもは……シャルやクルルとしている分は唇をくっつけるだけだから、ああいうのは初めてだ」
「そ、そうなんですか……じゃ、じゃあ……好き同士でするからでしょうか」
何一つとして否定出来るようなことではないけれど、改まってそう言われると少し気恥ずかしい。
口の中に残るカルアの小さな舌の感触を思い出す。かなり興奮して乱暴に口の中を弄ったというのに嬉しそうに応えてくれたし、とても良かった。
自分からやめたがっていたのに、やめるとすぐにしたくなる。夜道を歩きながらぼーっとカルアの唇を見ているとカルアは歩幅を小さくして、手汗で少し湿っている手を引く。
「し、します?」
「…………します」
帰路で何度も誘惑に負けて、行きの数倍の時間をかけて帰った。俺も少し顎が疲れるぐらいしてしまったので、貧弱なカルアには少し酷なぐらいしてしまっただろう。
……いや、でも可愛いし、喜んでキスさせてくれるし、気持ちいいしで我慢する理由が少なすぎた。
心の弱さを反省しながら自室に戻ると、三人が既にベッドで寝ていたので流石に手狭そうだ。
……三人? 暗い中、隣を見るとカルアがいて、ベッドに視線を戻すと三人の人影がある。
一番小さく、すーすーと寝息を立てて丸まって寝ているのはシャルだろう。その次に小さく布団を丸めて抱きつくようにしてのはクルルだ。
じゃあ、この……一番大きいのは何者だろうか。
少し胸の大きな女性であり、三人に比べて明らかに背丈もある。
「……クウカさんですね」
「……クウカだな」
最近見ないと思って安心していた。堂々と侵入されて寝られているとは思わなかった。
復興作業の手伝いを頑張っていたのは知っているし、悪い奴ではない、悪い奴ではないけど……若干怖い。
「……どうします?」
「いや……まぁ危険はないんだが……流石にここで寝るのは狭いな」
二つのベッドで五人は流石に狭すぎるだろう。
「いえ、そうではなく、起こします?」
「夜道を女一人で帰らせるのもなぁ。流石に送って行くには遅い時間だし」
「……ランドロスさんは甘すぎると思いますよ。ストーカーですよ、ストーカー」
「まぁそうなんだけど、この間抜けな寝姿を見ていると気が抜けるというか……」
どうにもアホっぽすぎて敵意や警戒心を持ちにくい。間違っても暴力的な行動には出ないだろうし、今日のところは放っておいてもいいように思う。
「じゃあ、私達はどこで寝ます? ベッドとか、異空間倉庫の中に入れてますか?」
「いや、ないな。……マスターの部屋を借りるか。交換する形になるが」
時間があるときにネルミアのところに行ってちゃんと抑えてもらうように頼もう。結婚もするのだし、あまりこういうことは困る。
二人でマスターの部屋に入ると、カルアが口を開く。
「パジャマに着替え直すのでベッドの方で待っていてもらえますか?」
「ああ」
俺も寝室で眠りやすい少しゆったりとした服に着替える。
よく考えたら、いつもは三人で寝るか四人で寝るかで、カルアと二人で寝るようなことはしていなかったな。
……そういえば、俺の子供がほしいから誘惑すると言っていたことを思い出す。……今は二人きりで都合のいい状況なわけで……。
と思っていると、カルアはペタペタとやってきて、ぽすんと俺の隣に座る。
カルアの服装はいつも通りの可愛らしい寝巻き姿で少し安心した。
「どうしたんですか?」
「……いや、誘惑されるということだったから、もっと……扇情的な格好で来られるのかと」
「そ、そんな服持ってないです。それに、ランドロスさんって、可愛い感じの格好の方が好みですよね?」
「……まぁそうなんだが」
カルアはゆっくりと俺の方に身を寄せて、すりすりと肩をくっつける。
「……ランドロスさんはちょっと子供っぽい感じの方が好きだと知ってます。それに……その、マスターの部屋で事に及ぶのは申し訳ないと言うか、良心の呵責があるので」
「……まぁ、それはそうか」
「も、もちろん、ランドロスさんが我慢出来なくなったのでしたら、幾らでも受け入れる所存ではありますけど。……と、とりあえず、キスしましょう」
「……そろそろ寝ないと明日に響くだろ」
「じゃあ、キスしながら寝ましょう」
それは一体……と思っていると、カルアに腕を引っ張られてベッドに寝転がる。横向き同士で向かい合うような形になり、カルアが俺のことを誘うように服の裾をちょいちょいと摘む。
先ほどの繰り返しのせいで出来た、カルアの「キスをしたい」の合図。まぁ、キスでは子供が出来ないわけだし……大丈夫……。
と、欲望に負けて唇をくっつけて、伸びてきたカルアの舌と俺の舌を絡ませ合う。寝転がった体勢のままぐにゅぐにゅと身体を寄せ合い、狭い口内を弄っていく。
未だにキスをするたびに身体を硬直させているカルアの足の間に硬くなったものが当たり、カルアはびくっと身体を震わせる。
「……し、します? え、えっちなこと」
「……わざとじゃないんだ」
ただカルアとのキスで興奮してしまっただけで……。
二人で新しく覚えたキスを少し体勢を変えたりやり方を模索しながら気持ちの良いやり方にしていく。互いの身体を貪るような行為にふけっていると、流石にカルアも疲れた顎では限界がきたのか、ゆっくりと口を離して俺の身体をギュッと抱く。
「……ランドロスさんの味を覚えさせられてしまいました」




