世界について、あるいは自分たちについて
カルアの話は俺には分かりにくく、夜に寝ていなかったこともありウトウトと目が閉じていってしまう。
カルアと身体がくっついて擦れ合い、布擦れの音が部屋に響く。
意識があるのかないのか、眠っているのかいないのか……そんな最中、薄く目を開くとカルアの端正な顔が見えた。
「……難民が発生するほどの凶悪な魔物が、どこから発生したのか。何故そんな化け物が今の今まで見つかってこなかったのか。……それは、海の向こうからやってきたのでしょう。……聖剣さんが言うには迷宮から出て行き魔王は海の向こうへと向かう存在だそうです。それは、迷宮にいたはずのシルガさんが魔王になっていたことも合致します。……魔王と迷宮の関係、あるいは……この世界について」
カルアはほとんど眠っている俺の首筋を撫でてポツリと呟く。
「……ランドロスさん。……明日は……野菜の生産プラントの調整のことがあるので難しいですから、明後日から、子供を作りましょうか」
……カルアは何を言って……と、理解したのは完全に意識がなくなってからだった。
しばらくすると目が開く。ぼうっとした感触でボリボリと頭を掻くと、隣で寝ていたカルアが目を覚ます。
……カルアが子供を作りましょうと提案してきた気がするが……いや、俺の願望が詰まりすぎた夢だろう。
「ん、んぅ……汗べったりでちょっと気持ち悪いです。……身体拭いたりしないと……今どれぐらいです?」
「あー、太陽が一番上に来たぐらいだな」
「そりゃ暑いはずです。あ、服もせっかくランドロスさんのお金で買ったやつなのにしわしわです……もう……ランドロスさんのせいで」
「わ、悪い」
むぅ、とカルアは怒ったような表情を浮かべて俺の頭をわしゃわしゃと撫で回す。
どうしても寝る前のカルアの言葉が忘れられず、思わずカルアに尋ねてしまう。
「……寝る前にさ、何か言ってたか?」
「魔王と迷宮の話ですか?」
「いや、そのあと……」
「じゃあ野菜生産プラントの話ですか?」
俺がそれも「いや」と答えると、カルアは少し顔を赤らめながら、目を逸らしながら尋ねる。
「……ランドロスさんの、赤ちゃんがほしいという話です?」
「……俺の妄想が生み出した夢じゃなかったのか」
「ん、んぅ……あの、えっちなことをしたいというわけではなくてですね。い、いえ、したいのはしたいんですけど、そうではなく……」
カルアは顔を真っ赤にしながらも、真面目そうな表情を俺に向ける。
「……あ、あの、今は、多分……迷宮の管理者に会いにいくには、希少な機会なんです。難民を発生させた魔物の方に気を取られているはずなので、管理者の隙を突いて会いにいける珍しい機会です」
「……えっ、いや、話が急でよく分からないんだが……会いにいくのか? いや、いけるのか?」
「今ならいけますね。……おそらく完全な敵というわけではないのですが、危険がないわけでもないです。……もしものときのために、悔いが残らないようにしておきたいんです」
「……いや、死ぬかもしれないところには行かせられないぞ」
「いえ、私が殺されることはないです。間違いなく、迷宮に露骨に優遇されていますから。死ぬとしたらランドロスさんです」
「ああ、それなら別にいいか……。いや、いいのか? 微妙にダメかと思うが」
ええ……と、思うが、カルアは首を横に振る。
「このまま地上にいたら、どうせ「ガルネロを助けにいきたい」とか言い出して、そちらの方がよほど危険だからまだマシです」
「い、いや、別にそんなことはないが……」
「どちらにせよ、ランドロスさんは死に急ぐので、作れるうちに作っておきたいんです」
俺はどうするべきなのだろうか。大人として止めるべきなのか、欲望に身を任せて飛びつくべきか。
色々と迷いつつもカルアを諭そうとして、カルアの目に言葉を詰まらされる。
「……近いうちには、と、元々考えていました。別に、決して思いつきで言葉を発しているわけではないです」
「いや、それは……その、しかしだな……カルアはまだ幼いし……」
「母体には多少小さな身体であることは否定しませんが、お二人とは違って、もうちゃんとランドロスさんの赤ちゃんを育てられる身体です。これぐらいの年齢だったら、貴族の間ではそれほど珍しいこともないですし、回復薬や治癒魔法の使える人が頼れる環境ですから万が一もありません」
否が応でも、カルアは本気で言っている、と、気がつかされる。
冷や汗が流れる。エロいことをしたいとは思っていたし、子供を産んでもらいたいとも思っていた。
だがそれは、カルアがもっと育った数年後の話で……今すぐに、というのには、カルアの身体は幼すぎる。
「……そんなに、急ぐ必要はないだろ」
「……この機会を逃せば、生きている間に次が来るとは限らないです」
「……ほとんど死ぬ可能性がないなら、する必要はないだろ」
「万が一の時に後悔はしたくないです。……ランドロスさん、あんなにずっとえっちなことをしたそうにしているのに、今更ですよ」
「……カルアの身体に負担がかかるようなことは出来ないというだけだ。……裸を見たり、胸を触ったり、くっつけたりしても、倫理的に問題があるだけで負担はないだろ。でも、子供を作るとなったら別だ」
回復薬や治癒魔法があるから大丈夫、ではない。むしろ逆なんだ。
それに頼らなければ危険であるということで、いくらカルアが頼もうが許容出来ることではない。
「……昨日、私にフラれるかもって泣いてたじゃないですか」
「泣いてはいない。……それにそれは別問題だ。別に性的なことだけがしたかったわけじゃない。……一緒にいれたらそれでいい」
「……私はランドロスさんの赤ちゃんがほしいです」
「だから、それはもっと後の話だ。今はその提案は受け入れられない」
カルアは、俺が堅固に拒絶することは想像していなかったのか表情を厳しくして俺を見る。
「……迷宮の管理者には会う必要があります」
「ああ」
「もしもの時に後悔したくないです」
「ああ」
「……しましょう」
「ダメだ。……俺がいなくなって、子供だけ残されるようになるのも許容出来ない」
「……お金はいくらでも稼げますし、生活は問題ないです」
「……父親がいないのは、可哀想だろう」
俺は一歩も譲らず、カルアも譲る気はないのか二人して険しい顔で見つめ合う。寝るまでのよく分からない話をしながらのイチャイチャとした空気はなくなっていて……。
ああ、これは……カルアと喧嘩をしているのだ、と気がつく。
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