応接間 【月夜譚No.81】
ここの掃除は、骨が折れる。ジャンルも雑多な雑誌の山、ソファの上には脱ぎ捨てられた衣服、木製のゴミ箱からは丸めた紙屑が溢れ、棚の扉は開いたままで中のものが雪崩落ちそうだ。足の踏み場も考えるような汚部屋を前に、彼女は箒の柄に体重をかけた。自然と口から溜め息が漏れる。
定期的に掃除に来ているはずなのだが、どういうわけか一週間もするとこの有り様だ。何をどうやったら、短期間でこの惨状を生み出せるのだろう。
基本的に何事にも動じない涼やかな表情をした部屋の主を思い出し、彼女は眉間に皺を寄せた。
部屋の主――彼は、頭は良いはずなのに、家事がどうにも苦手らしい。食事は殆どが外食で、洗濯はするものの色落ち色移りは当たり前。自分の生活はともかく、客を招き入れる部屋がこれでは、恰好もつかないだろう。
彼女は息を吸い込むと、「よし」と腕捲りをした。悩んでいても仕方がない。今日もちゃっちゃと掃除をしてしまおう。頭脳明晰でだらしのない、あの探偵の為に。