~ふたりぼっちの物語~
病神
傲慢で自己中心的、常に世を見下してきた少年は異世界でも決して変わらなかった。
自分が全ての中心だと、信じて疑わなかった。しかしそんな甘い話などどこにも無い。優しい作られた世界で甘やかされた少年はその傲慢さを貫き続け、結果疎まれ嫌われ、
罵倒を浴び、傷付けられて奪われる。少年の脆い心は簡単に壊れ、その姿は骨と皮しか残らないほどにやつれ、澱んだ目にはもはや何も写らない。
廃人と化した少年は、ある時に硬貨を拾った。おそらく不味いパンひとつは買えるくらいの硬貨を握り締め、街を歩く。周囲の人間の汚物を見るような目にはもう慣れた。今はただ空腹だから、とぼとぼと歩き始める。
そうして街を歩いていると、薄汚れた服を身に付けた少女が花の入った籠を持ちながら、道行く人々に声を掛けていた。しばらくしても少女の声に応えるものはなく、下衆な笑いを浮かべた大人が少女の籠を蹴り飛ばす。散らばる花を拾い集める少女には目もくれず、さらには花を踏みつける人々に、ただ何か不快な気分を与えられた。だから何故だろう。硬貨を握り締めた手を少女に向け、花を1本貰ったのはよく分からない。
だけど、笑った少女を見て、ようやく理解した。他人が幸せになるこの光景がとても愛しく感じてしまったのだから。
パンは買えなかった。もはや歩く気力さえなく道に倒れ込む。やがて意識すらも点滅を繰り返し、その間隔が少しずつ広がっていく。
最後の暗転、その直前、幸せを願った。自分ではなく花売りの少女の幸せを。
暗転。
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コノセカイハキサマノヨウナオロカモノヲマダシナセルワケニハイカナイ
ソノツミヲツグナワセルマデシナセナイ
キサマニハノロイヲカケル
イタミモカンジズ、ケシテシナヌカラダヲアタエル
シカシシカシケシテシアワセニハナレヌノロイヲキザモウ
キサマノヤクメハフコウヲセオウコト
ニドメノジンセイヲツグナイニヨッテイキルガヨイ
キサマノチカラノナハ"ヤクビョウガミ"
ケシテシアワセニハナレヌチカラ、フコウヲアツメマンエンサセルチカラ、ソノチカラデダレカヲシアワセニシロ、ソレガキサマノツミホロボシダ
キサマノシアワセナドイッショウオトズレヌ
オワリナキフコウニサイナマレルガヨイ
その日、疫病神が世界に現れた。決して幸せになれない呪いを刻まれた、贖罪の疫病神が。