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スターシップ・ガールズ  作者: こるほーず
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Log1.Unknown Enemy

主に女の子たちが宇宙艦船に乗って駆ける作品です




地球から約11.46光年…プロキオン星系基地 居住区内  西暦2111年 3月28日―



「気を付け!」


校庭に教官の声が響くと同時に、その場にいる全員が背筋を伸ばし脚を閉じる。

1年生の時から教え込まれてきた動作だ。


「次に、教官長のお話です」


女教官が言い終わった後に、吉川教官長が中央の発言台に上り、話を始める。


「皆さん、おはようございます。今日は、皆さんにとってとても重要な日です。」


吉川教官のきりっとした声はよく通る。


「皆さんにはこれから1年間、艦艇に乗っての実習を行ってもらいます。このライカ星立宇宙軍女学校で、3年間学んできたことのいわば集大成です。


途中、困難な壁に当たることもあるでしょう。ですが、それを仲間とともに乗り越えること。それがこの実習の目的です。


この航海を終え、地球の地面を踏んだ時…皆さんは、一人前の船乗りとなっているはずでしょう。

そして一人も欠けることなく、再会できることを信じています。」


話が終わり、吉川教官が一歩下がる。


「礼!」


号令と同時に背を45度へ傾ける…これも散々しごかれた動作と角度だ。

数秒後に頭を上げ、吉川教官が発言台から降り、台の横の列へと戻る。

高校の体育祭とかでもよく見た並び方だ。


そして校長の話が終わった後といえば諸連絡。


「出発は10:00です。艦橋要員はこの後第一会議室に集まり顔合わせを行います。また、別途役割のある乗組員以外はそれまで自由行動とします。解散!」




「杉菜ぁ~」


出発式が終わり、みんながぞろぞろと動き出したころ。私の親友であり、実習艦の2隻目の副長であるエレナ・ハミルトンが近づいて寄りかかってきた。


「わわっ、どうしたのエレナ」


彼女は私より結構大きいので(180㎝ぐらい)よく肩にずしーっと寄りかかってくる。今回もそうだ。

正直重い。


「緊張するよー実習航海」


エレナが青色の目でのぞき込んでくる。彼女の金髪と合わせてまるで人形のようだ…というのは昔からよく言われている


「私も。でも、これを終えたら私たちも立派な船乗りなんだよね」


手をギュッと握り、気合を入れる


「一生懸命頑張らないと!」


「杉菜はマジメだなぁ…ふふっ、アタシも負けてらんないねー」


エレナがようやく寄りかかるのを止め、私の隣に立つ


「そういえば、杉菜って艦長なんでしょ?アタシも艦長になりたかったよー」


「私もなんで艦長になっちゃったんだろ、エレナのほうが向いてそうだよね」


「アタシはよく提出物忘れちゃうから多分そのせいかも…」


そういえば彼女はよく課題を出し忘れては教官に怒られている。

罰則でトイレ掃除をやらされるため、3年生棟のトイレはいつも綺麗だ


「艦長に必要とされるのは責任能力である!って教官長もよく言ってるしなー、もっとちゃんと出しとけばよかったな」


エレナが教官長の真似をして声を高くするが、あのよく通る声は再現できない。


「それでも副長なんだからすごいよ、エレナは」


「へへーん、まあ他人にアドバイスするのは得意だし。艦長をビッチリバッチリサポートするもんねー」


…褒めるとすぐ調子に乗るなあこの子は



「すみません、杉菜 美晴艦長候補生と、エレナ・ハミルトン副長候補生ですか?」


2人で立ちながら話をしていると、ある生徒が話しかけてきた。

切り揃えられた長い黒髪が目を引くこの少女は…誰だっけ


「はい、そうですけど…」


黒髪の少女は気を付けをして敬礼をする。


「航宙駆逐艦サミュエル・B・ロバーツ配属予定、南 七瀬副長候補生です。集合の時間なので、お二人を呼びにまいりました」


エレナと私はあわてて顔を見合わせる


「そうだ!各部長と艦橋員は集合しろって言われてたの忘れてた!」


「杉菜!急がないと!」


私の艦長人生は初っ端から不穏である…



「第一会議室はこっちです」


校舎の階段を駆け、2階へ上がって廊下へ出る


「失礼します。南候補生、2名の各部長候補生を連れてまいりました」


南さんの後に続いて私たち二人も会議室へ


「すみません!杉菜 美晴候補生、遅れました!」


「同じく!エレナ・ハミルトン候補生、只今参りました!」


会議室の中には生徒が十数人と…吉川教官長、そしてもう一人の教官がいた。


「まったく…艦を統率する艦長が一番遅くては、船員に顔が立ちませんよ」


「申し訳ありません…」


「エレナ候補生もです。副長としての自覚を持ちなさい」


「はい、すみません…」


吉川教官長から叱責される。どうやら私たちが一番最後のようだ


「以後気を付けるように。では、これより各部長の顔合わせを行います。

サミュエル・B・ロバーツ所属員はこちらへ、ジャーヴィス所属員は入り口側へ集合してください。」


「だってさ、じゃあね杉菜」


そういえば、彼女はジャーヴィスの副長なんだっけ


「うん、じゃあね」


そう言って私はサミュエル所属員たちの輪の中へ入っていく

私の乗艦、サミュエル・B・ロバーツの教導員は吉川教官長なので、顔合わせ会の司会は教官長だ。


「皆さん揃いましたね。それでは、自分の名前と役割名、あとできれば馴染みやすいようにプラスアルファで何かを言ってください」


「まずは私から。皆さんもう知っていると思いますが、吉川 長月一等教導員です。実習にあたり、皆さんの教導をさせていただきます。何か相談や、わからないことがあればすぐに聞くようにしてください。では次に、杉菜候補生から時計回りで自己紹介を」



「は、はい!私の名前は杉菜美晴です。航宙駆逐艦、サミュエル・B・ロバーツの艦長を担当します…えーと、皆さん、よろしくお願いします」



次に、私の隣にいた南さんが自己紹介を始める。



「私の名前は南 七瀬です。副長として、艦長並びに皆さんをサポートできるよう努めますね。私からは以上です」


南さんが手で「どうぞ」というようなジェスチャーをして、次の人の自己紹介が始まった。


そうだ、艦長としてみんなの名前は憶えておかないと…そのためにも、しっかり外見や性格を捉えて憶えておかなくちゃ。

そう思い、次の人をじっと見て紹介に耳を傾ける。



「はーい!アタシは砲雷長のイニーゴ・ルッキーニでっす!一番好きな航宙戦艦はメリーランド級!よろしくお願いしまーす!」


いきなり忘れられそうにない子が来たなあ


名前からして、おそらく中央ヨーロッパ地方生まれなんだろう。活発な性格というのは自己紹介で十分伝わった。

そしてその活発さを表すかのように肌も結構日焼けしている。だがその肌にショートの金髪が映えてとてもチャーミングだ。服装は…普通の制服(ワイシャツ)を着ているが、夏タイプのものだ。スカートもちょっと短くなってるかも?ネクタイは少し曲がっている。

背が小さいこともあり、どうも子供っぽい印象を受ける。



「じゃ―次の人!よろしくぅ!」


…思ったよりチャラいというのも追加で



「えー、こほん。わたくし、通信長兼情報員のヤン・メイリンです。どうぞお見知りおきを。あと電化製品にも詳しいので、気軽にご相談くださいませ」


次の人…は、まさに漫画とかに出てくる委員長キャラという感じ。

これまたショートな黒髪に、シワのないワイシャツとスカート。ネクタイも当然整っている。

目を引くのは上部フレームのない赤い眼鏡だろうか


「それでは、次の方。お願いいたします」


話し方も丁寧で、礼儀正しい人のようだ。



「はーい、えーっと、なんだっけ…センサーとかする係の…あっそうだ、電機科のメリー・カニンガムです。えー、趣味はー…音楽鑑賞、前宇宙時代のやつが好きです。よろしくおねがいしまーす」


委員長、じゃなかった通信長とは打って変わって、マジメのまの字もなさそうな人である。

ヘッドホンでどうも音楽を聴いているようだ。さすがに自己紹介の時には外してたが。…今はもうつけてるけど。

髪は金髪だが、だいたいウエストの辺りまで伸ばしてある。そしてちょっとぼさっとしている。

服装も、ワイシャツの上にベージュのカーディガンを着ている…袖の階級章は何とか見えているが、これは大丈夫なんだろうか?

教官も何も言わないし…



「おっと、俺の番っぽいな。…俺はサラ・エリーズ・リー、航海長と操舵主を務める。よろしく頼むよ」


俺口調と前髪で片目を隠してる辺り…もしかしてちょっと思春期から抜け出せていない人なのではという推測が私の中で飛び出す。

いけないいけない、世の中にはまあそういう人もいる、理解が大事だ。

彼女は濃い青髪で、前髪で右目を隠している。ちょっとボサボサ。

砲雷長と同じで夏のワイシャツだ。…この基地の設定温度は、今は春並みだというのによく寒くなさそうだなあ。



航海長を最後に全員の自己紹介が終わり、教官長が口を開いた。



「皆さん、自己紹介が終わったようですね。これから皆さんは、一つの船で共同生活を営んでいくことになります。互いに手を取り合い、協力して実習を成功させましょう」

それでは艦長候補生、最後に何か一言。意気込みなどでいいですよ」


急に振られたので少し驚いてしまう


「え、あ、はいっ」


私は全員の顔を見回す。

これから1年の航海…艦橋員の中に同級生や見知った顔はおらず、ほとんど初めて交流する人たちだけど…協力できるようにベストを尽くそう。


「私は艦長として、全力を尽くすつもりです。そのためには、みんなの協力が不可欠です。…これから一緒に、頑張っていきましょう!」


ちょっとありきたりかもしれないけど…でも、これが私の本心だ。



「エレナ―」


顔合わせ会も終わり、校舎からぞろぞろと生徒が出てくる。

私はその中でエレナに声をかけた。


「やー杉菜、これからどうするの?」


「今は自由時間なんだけど…何もすることないんだよね」


「なら、港に行って、戦艦見てくれば?ほら、ここってアレがいるしさ」


「アレって、エンタープライズのこと?」


エンタープライズ―つい5日前竣工したばかりの、地球政府軍の虎の子だ。

前宇宙時代に構想されていた「戦艦空母」として作られ、その戦闘力は1隻で戦艦含む打撃艦隊と同等、とも言われている。


「そそ、最新鋭艦なんでしょ?見てきなさいよー」


「そうだね、行ってみるよ。エレナは?」


するとエレナはちょっと落ち込んだ様子で、辺りをうかがってから小さな声で話す


「うちの艦長がバカマジメって感じで…この後艦内で会議を行うから直ちに集合って言われてるんだよね…」


「あちゃー…」



「それで、たぶん出航までずっと艦内だと思うから今のうちに渡しとくね」


エレナは自身のポケットから、白のゴムを取り出す。太さからして、髪を縛るためのものだ。


「杉菜、ゴムが切れちゃったって昨日言ってたから、これアタシの」


「えぇっ!?いいのエレナ!?」


エレナがグッとこぶしを握って親指を上にたてる。


「いーのいーの、ゴムなんて腐るほど持ってるし。これをアタシだと思って頑張ってね」


そのポーズのまま、彼女からウインクが飛んでくる

ばちこーんという擬音でも付きそうなナイスウインクだ。


「ありがとーエレナ。大事にするね」


私はだらーんと垂れていた後ろ髪を持ち上げてまとめ、今貰ったゴムで縛る。

そう、いつものポニーテールの髪型だ。


「いーねー、杉菜の綺麗な茶髪に白いゴムが映えていい感じよー」


「選んだのはエレナだから、エレナのセンスがいいってことだよ」


すると彼女は大きく胸を張る。


「ふふーん、まあライカ宇宙軍女学校のファッションリーダーとはこの私の―」


「エレナ副長、会議は10分後からだ。直ちに艦へ向かいたまえ」


突然通りがかった白髪の生徒がエレナに話しかける

この人が、さっき言っていた「バカマジメな艦長」なんだろうか


「そこにいるのは…杉菜艦長ですか?」


するとその生徒が、こちらに気づいたのか話しかけてくる。


「はい、私は杉菜美晴、艦長候補生です」


私の名前を聞くと、急にその艦長らしき人は私に向かって敬礼をし


「話の途中失礼。私は航宙駆逐艦ジャーヴィス艦長、エアハルト・カリーナだ。同じ駆逐艦長として頑張ろう」


言い終わると、私に握手を求めてきた。

たしかにマジメそうではあるけど…騎士道精神っぽいというか、正々堂々としてそうな感じだ。

私は握手に答える


「はい、頑張って、この航海を成功させましょう」


「うむ…では副長、艦へ行くぞ」


そういうとカリーナ艦長はエレナを引っ張って艦へ向かってしまった…


さて、私もエンタープライズを見に行きたいわけだけど、一人だとちょっと抵抗感がある。

ここは誰かを誘っていくべきか。とは言っても辺りに知り合いはいないし…

と思っていると、教官長と話している南副長が目に入った。

そうだ、交流もかねて彼女と一緒に見に行くとしよう。


そう思って近づいていくと、向こうも私に気づいたようで彼女の方から話してきた。


「あ、艦長、いいところに」


いいところ?


「これから教官長といっしょにエンタープライズを見に行くんです。一緒に行きませんか?」


なるほど、たしかに両者にとって確かにいいところであったと言える。


「ちょうど私も、南さんを誘って行こうと思ってたんです」


すると教官長が私に尋ねる


「私と一緒でも…構いませんか?杉菜さん」


「もちろんです。大人数で行ったほうが盛り上がりますし」


「ありがとうございます。では早速向かいましょう」




レンガ風に装飾のされた商店街を歩いてしばらくすると、広場へ出る。

そこは基地外壁が一部透明素材でできており、そこから宇宙を見ることができるが

そう、そこからエンタープライズが停泊しているのを見ることができるのである。


なぜかというと、この広場の外(宇宙空間)は補給用の停泊所の一つになっており、待機中の艦船も係留されている。


なので停泊中のエンタープライズを見ることができるのだ。

もちろん、外壁のシャッターが下りてたりすると宇宙港の様子をうかがうことができないが、今日はラッキーである。


エンタープライズ…噂には聞いていたが、実際に見ると大きい。思わずはーっとため息が出てしまうほどであった。


「大きいですねー」


「ええ、地球政府軍の艦艇の中でも最大なんだそうで。この艦を作るために、シリウス星系でわざわざ一からドックが作られたとか」


南さんが補足してくれる。


「へー…南さんって艦艇に詳しかったりするんですか?」


「ええ!といっても、艦影でどの級かを判断できるぐらいですけど」


南さんはどうも謙遜しているっぽいが、私からすると十分すごい気がする…

私といえば最近やっと巡洋戦艦と巡洋艦の区別がついてきたところだ。


あ、そうだ。写真を撮ってエレナにも見せてあげよう。


「教官。写真を撮ってもいいですか?」


「はい、ここは撮影許可スペースなので大丈夫ですよ」


教官長の了承をもらい、さっそく持っている端末でパシャパシャと写真を撮る。

あとでエレナの端末に送ってやろう。


「そういえば教官、さっきの顔合わせの時、なぜ補給課や主計課の長がいなかったんですか?」


「その部署の人たちは、艦への物資積み込みがありますからね。それ以外にも、機関部要員は出航前の最終点検。整備課は各部の点検などがありますから。

各部長とは、艦に乗り込んだ後でいいので顔合わせを済ませておいてください」


「了解です」


艦橋要員ですら結構居たのに、まだ会ってない人がいるのかあ…ちゃんと名前を憶えられるのか心配だ。

いやいや、艦長たるもの船員の名前は全員憶える気で行かないと!


「さて、そろそろ艦の方へ行きましょうか。杉菜候補生はまた遅れるわけにはいきませんからね」


「あはは…」


教官に弄られてしまう。まったくお恥ずかしい限りである。



来た道をすたすたと歩いていく。

相変わらず人が多い。

このプロキオン星系基地は、地球圏から最も離れた基地である。にもかかわらず人が多いのは、近々新たな星系への居住地建設が予定されているからだそうだ。

そしてその星系へはこのプロキオンが最も近い。なので、建設業者とか移住予定の人たちだとかがここに集まっている。


それにしても、今日でこことは長いお別れ。

三年間を過ごしたこの町がしばらく見れないと思うと、少し寂しいものがある。

さらばプロキオン、また逢う日まで…



「さて、そろそろ6番ベイの入り口が見えて…」


と、教官が腕時計をチェックしたその時、突如として基地内に大きなアラームが鳴り響いた。

防災訓練?でも今日はそんなことがあるとは聞いていない…ということは。


「非常事態?でもそれなら、何が起こっているかアナウンスされるはず…」


南さんの言うとおりだ。前に隕石衝突の災害訓練があった時もアナウンスが流れた。

災害時の避難指示等はプロキオンコントロールセンターが中心で、アナウンスもそこからされる…何かあったのだろうか?

困惑する私たちに、教官が指示を出す。


「2人とも走って!艦へ急ぎましょう!」


「は、はい!」


とにかく、教官の指示に従って私たちは騒然とする町を駆けていく。




「もしもし?女学校教官の吉川です。プロキオンコントロールセンター応答してください」


走りながら、何度もコントロールセンター、それとプロキオン艦隊司令部に電話を掛ける教官…しかしどちらも応答はない。

そうして走っているうちに6番ベイへの入り口が近づいてくる。

この向こうに、私たちの乗艦、サミュエル・B・ロバーツは停泊中である。


すると教官が突然立ち止まり、私たちの方を向いた。


「2人ともよく聞いてください。私はこれから艦隊司令部へ向かいますので、2人は先に実習艦へ乗っていてください。乗船後は連絡があるまで待機。ただしいつでも出航できるよう乗務員に指示を。わかりましたね?」


私と南さんは敬礼をして答える。


「了解!」



6番ベイの人員用出入り口を通り、居住区から宇宙港へ出る。6番ベイには他に同じ実習艦のジャーヴィス含め3隻停泊していたはずだが、今居るのはサミュエルだけだ。

臨時出航したのだろうか…そんなことを思いつつ、急いで乗艦する。

宇宙港は無重力なので、ガラス張りのタラップを移動式の手すりに乗って降り、艦内に入ったらすぐに艦橋へ向かう。



エレベーターを使って艦橋に上がると、先ほど顔合わせした面々はすでに揃っていた。


「あ、艦長!」


メイリン通信長がこちらに気づいて話しかけてくる。


「先ほどアラームが鳴ったそうですが、出航はどうするのですか?」


「それについては、先生から指示を貰っています」


一旦メイリンさんの元を離れ、艦長席にあった帽子を被り指示を出す。


「全艦に通達!吉川教官長からの命令です!本艦はいつでも出航できるよう準備!ただし、別命あるまで出航はせず待機せよ、とのことです!」


たしか教本にあったのは、最初に命令の伝達。次に


「各部員は出撃前確認を行い、状況を報告するように!」


出航前の確認を命令―したところで、他の人たちが動かない。

あれ?もしかして何か足りてない?

思わず南さんに目線でヘルプを求めると、小声で


「…艦長、総員配置を命令してください」


「あっ、そ、総員配置に付いて!」


その一言でみんなが動き始める。せっかく艦長としてビシッと決まったかと思えばこの体たらく…恥ずかしい。


「大丈夫ですよ艦長、まだ成りたてなんですから。ちょっとの失敗ぐらい大丈夫です」


南さんのフォローが心に染み入る。

そうして座り込んでしまっていると、艦に通信が入った。

メイリン通信長が応じる。


「はい、こちら航宙駆逐艦サミュエル…えっ、吉川教官?はい…少しお待ちください」


ヘッドセットから指を離した通信長がこちらに向き直る


「吉川教官より緊急連絡です!全艦に通達せよとのことなので回線つなぎます!」


上部のモニターに電源が入るが、画面は真っ暗のまま、音声だけが流れる。


「こちら、吉川長月教官長です…これから皆さんに話すことはとても重要であり命令なので、しっかりと録音しておくように……

 現在、プロキオンコントロールセンター、並びに艦隊司令部は何者かの攻撃を受け壊滅状態です。」


艦橋内に動揺が走る―誰もが頭の片隅では、もしかして攻撃を受けてたり、と予想していたが…まさか本当だとは



「攻撃を行った者の正体はわかりません、さらに敵はどうやら通信基地も制圧しているらしく、他の基地との連絡が取れません」


「そこで、あなたたちに命令を言い渡します。…航宙駆逐艦、サミュエル・B・ロバーツは直ちにプロキオン基地を抜錨!可能であれば、すでに当基地を離脱した艦船と合流しトーチ補給基地へ向かえ!」


こんな時でも、吉川教官の声はよく通った…

しかし、一つ聞かないではいられないことがある


「待ってください!教官は…教官はどうするんですか!?」


吉川教官はまだ基地の中にいる。置いていけば、その敵とやらに拘束される可能性もある。


「私は…大丈夫、後で合流します。私にかまわず、あなた方は速く出航しなさい」


「でも…!」


「命令です!杉菜候補生!それとも、私の言葉が信じられませんか?」


「…了解、しました」


「よろしい…皆の武運長久を願っています。通信終了」


モニターの表示が消える

脱出するとは言っていたが…一体どうやって?


教官は…教官は、自らを犠牲にして



「艦長」


うつむいていた私に、南さんから声がかかる。


「…命令を、お忘れですか」


そうだ、私たちが命令を実行しなければ、教官の犠牲は無駄となってしまう。

教官の意思に答えるためにも、ここで立ち止まっているわけにはいかない。


「…出航前確認を再開!準備ができ次第出航します!」


「了解!」


艦橋の全員が答える。

まずは、なんとしてもこの基地を脱出しなくては。



各部から確認結果の連絡が次々届く。


「こちら機関室!核融合炉並びにスラスター、超光速航法装置異常なし!現在核融合炉出力を上昇させています!」


「整備課です!全武装異常なし!」


「補給課より艦橋へ、全物資の固定完了しました!」


艦橋部以外からの確認連絡をすべて受け取った。

特に問題はなし、あとは艦橋員からの連絡だ。



「えーっと、センサーは…大丈夫っと、でシールドは…問題なさそうかな」


マニュアルを読みながらセンサーとシールド調整器に向き合うメリー電機長

本当に大丈夫か?


「えー艦長、センサー及びシールド、問題なさそうです」


…彼女を信じよう


「艦長、通信機問題ありません…が、通信基地より電波妨害がなされているため、遠距離通信は不可能です」


メイリン通信長より確認結果が報告される。

そうだとすると先ほどの通信は、近距離だったために通じたのだろう。


「艦長、操舵問題なし…いつでも出せるぜ」


操舵手からも問題なしとの報告が届く


「副長、乗組員は全員いますか?」


副長が椅子に付けられた情報デバイスを、座りながら確認する。


「はい…全乗組員の存在を確認しました!艦長、出港準備、完了です!」



目を閉じて、一息つく

まさか、初めての航海がこんなことになるなんて。

でも、乗員を守るため、そして教官のためにも…やるしかない。



「…よし!航宙駆逐艦サミュエル・B・ロバーツ、抜錨!出航せよ!」


「了解!固定装置解除、機関微速前進!」


固定装置の外れる音とスラスターの音が艦内にも響き、艦が前へ進む影響で体がちょっとだけシートに押し付けられる。


「敵が攻撃してこないとも限りません、まずはプロキオン基地を離れるのが第一目標です。宇宙港から完全に船体が出たら、最大船速で離脱を」


「了解だ、艦長」



徐々にスラスターの出力が上がっていき、艦の速度が速くなっていくのが体で感じられる。

このまま無事に脱出できる、そう思った矢先であった


「センサーに反応!右舷より、高速で接近する反応3!大きさからして、たぶん航宙機だと思います!」


「通信長、機体の識別信号は?」


「識別コードは軍用機…ですが、所属は地球政府軍のものではありません」


基本的に、政府軍以外に所属する軍用機などありえない。つまりは敵…とも考えられるが、ただ単に識別装置の起動を忘れているだけかもしれない。

この時点で敵と判断するには、情報が足りない。


「通信長、接近中の機との交信できますか?」


「はい、通信可能距離内です」


「では通信してください」


通信長が命令に従い、タッチパネルを叩く


「接近中の機体へ、こちらはライカ宇宙軍女学校所属艦、サミュエル・B・ロバーツです。貴機の所属と航行目的を明らかにしてください」


反応はなく、依然として距離を詰めてきている


「回線は民間、軍用、救難のすべてで発信しているのですが…」


そして突如として艦橋にアラームが鳴り響く


「どうしたの!?」


「せ、接近中の機体、こっちに照準してます!」


電機長が慌てた様子で状況を報告する。

通信長も何度も呼び掛けているが、一向に応答する様子はない。


「艦長、どうします?撃墜しますか?」


副長からの問いに私は悩む


「…いえ、威嚇というだけかもしれません。とりあえず、シールド展開を!」


「りょ、了解っす。シールド展開します!」


そうして所属不明機との距離は縮まっていく…アラームは鳴りやまず、呼びかけにも応じない。


「シールド、展開完了しました!」


とりあえず、これで万が一攻撃されても問題は…


「…!所属不明機隊、ミサイル発射!数は…4、いや6!」


威嚇ではない、こちらを狙った明確な攻撃。

背筋が凍る。


「艦長、迎撃を!」


副長の言葉で我に返る。いくらシールドがあるといっても、油断はできない。


「砲雷長、対空戦闘用意!」


「待ってました!センサーリンク確認、対空砲群準備よし!」


「ミサイル、依然として接近中!」


自爆の気配はない…ならばやるしかない


「ミサイル撃墜…許可!」


「りょーかいっ!対空戦闘始め!」


砲雷長の操作と共に、右舷側の対空砲が一斉に火を噴く。

発射されたパルスレーザーの輝きが艦橋を照らした。

そして、小さな爆発が起こったのを目視する。


「ミサイル、1、2、3…5、6!全弾迎撃、成功!」


電機長の報告に一安心…いや、している場合ではない。


「所属不明機は!?」


「えーっと…うわっ、所属不明機、反転してこちらに接近中です!」


まだ、諦めていない―つまりは敵、ということだろうか


「艦長、こうなった以上…撃墜すべきです。

 照準に飽き足らず、ミサイルの発射とこちらへの反転。所属不明機は明らかに当艦への敵対的行動を取っています。艦長…ご決断を」


呼びかけにも完全に応じない以上…それしかないのだろうか


「そもそも船体側面にバカでかくEGSって書いてあんのに攻撃してくる政府軍機なんているわけないでしょ…!」


「電機長、艦長に向かってそんな言葉づかい…」


相当イライラしている電機長が通信長にたしなめられるが、彼女の言う通り、この艦には政府軍所属を表す艦船接頭辞である「EGS」という文字が書かれている。

それに攻撃してくる政府軍機など、反乱でも起こさなければあり得ない。


乗組員を守るのが艦長の仕事…ここはもう、仕方ない


「…通信長、最終通告を。これに応じなければ…撃墜すると通達を」


「は、はい…」


通信長が通達し、時間が経つ。

5秒…10秒…20秒…そして40秒経過。


「てっ…所属不明機、以前接近中!また照準してますよ!」


「依然として応答…ありません」


教本に乗っていた、所属不明機に対する対応方法。その最終措置手段実行プロセスはすべて行った。以上に応じない場合は敵機と認定せよ…載っていた最後の一節が思い出される。


「了解、これより所属不明機を…敵機と認定します」


「了解!…艦長、敵機射程内に入りました!射撃許可お願いします!」


砲雷長の最終確認に、私は答える


「敵機撃墜許可。対空戦闘、始め!」


私の号令とほぼ同時に、今度は右舷側の対空砲が火を噴いた。

そして迎撃開始からしばらくして、ひときわ強く、そして黄色い輝きが艦橋に差し込んだ。


「敵、1機やりました!」


そして爆発がもう一つ起きる


「計2機撃墜!残る1機は撤退していきます!ハエどもを追っ払ってやりましたよ!」


「おととい来やがれーぃ!」


電機長と砲雷長は喜んでいる…が、私は複雑な心境だ。

私が撃墜させた機に乗っていたのは…もしかしたら人間だったかもしれない。

無人機という可能性もあるが、無人機単独での行動は禁止されているので必ず人間のパイロットが編隊長として飛ばなくてはならない。

私がうつむいていると、副長はそれに気づいた。


「艦長、そう気を病まないでください。艦長は、この艦の乗組員を守ったんです。それに…

 艦に乗る…軍人となる道を選んだ時点で、こういう日が来るであろうことを覚悟していたはずです」


副長の言葉が胸に刺さる。そうだ、人を殺す覚悟がなくては軍人にはなれない…教官に厳しく言われたことだ。


「わかっています…ええ、航海を、続けましょう」


自分の気持ちに整理をつけ、前を向く。こんなところで立ち止まってはいられない。



「サラ航海長、一刻も早く離脱を―」


言いかけたところで電機長が慌てて叫ぶ


「センサーに反応!また所属不明機!」


「数は!?」


電機長の顔が青ざめる



「そ、総数、およそ120!」


「センサーの故障ではなくて!?」


「正常だよ!左舷側から、急速に接近中!」


故障を疑う通信長の気持ちも分かる。120機など、とても単艦でどうにかできる数ではない。


「艦長逃げましょ!無理っすよ120なんて!」


先ほどまで調子に乗っていた電機長は一転、怯え切っている。


「逃げるとは言っても…通常航行で航宙機を振り切るのはまず無理」


ここは宇宙港の入り口、整理されているので身を隠せるようなデブリ帯も何もない。


そう、通常航行なら、まず無理…アレをやるしかない。


「超光速航法、用意!」


艦橋がざわめく。

それも当然である。超光速航法なんて校内の演習ルームでやったことしかなく、実艦でやるのは初めてだ。


「か、艦長!私たちは実艦で行うのは初めてです!それに教官もコントロールセンターのアシストもないし…」


実習艦の超光速航法は自然と宇宙港の近くになるので、基本初めて行う場合はコントロールセンターのアシストが入る。

不安になる通信長の意見ももっともだ。


「でもやるしかありません。通信長」


通信長は次に副長を見た。


「ふ、副長も…いいんですか?」


「現状、そうするしかありませんもの」


副長はすでに覚悟を決めているようだ。


「航海長、超光速航法の用意を!」


「了解!…こちら艦橋!機関部、超光速航法の用意を!…うだうだ言ってないで早くしろっての!艦長命令だ!以上!」


航海長が一方的に通信を切る。いや、まあ…こうするだろうとはある程度予測できた。


「電機長、敵機は!」


「以前接近中!敵武装射程に入るまで、あと35秒です!」


35秒、それまでに間に合うか。


「えーこちら機関部ぅ!超光速航法準備完了!いつでも行けます!」


そう思っていたところに機関部から通信が入る。口調が荒いので結構さっきのが腹立たしかったようだ。


「了解!さっきは悪かったよ!」

 えーでは!これより超光速航法を行う!総員着席もしくは身体を固定!」


アラームで騒がしい艦橋の中、航海長の声が響く。

私は椅子のベルトを確認する。しっかりと固定されているので大丈夫だ。


「スラスター出力上昇!ルーベック粒子、展開始め!」


速度が上がったことにより、体が押さえつけられる。


「敵機、まもなく射程圏内!」


敵が迫っている。

だが、それよりこちらの方が速い。


「ハイパーレーン突入!超光速航法、始め!」


航海長の声とともに、艦橋が光に包まれていく―




「…長、艦長」


副長に起こされる。

どうやら光に驚いてちょっと気絶、というか寝てしまっていたようだ。


目を開き、瞬きを数回。

涙が眼球全体に広がっていき、視界がはっきりとしてくる。


成功…したのだろうか。


「電機長、センサーに反応は?」


「…ありません、なんにも映ってないっす」


「航海長、現在地は」


「プロキオンから…2光年ほど先」


超光速航法、成功だ。

うまくいくか心配だったが…私は、胸を撫で下ろす。


「あー、疲れたぁー」


電機長が机に突っ伏す


「さーせん、ちょっとこのまま寝かせてくださーい」


「あっ。コラ!艦橋内で寝たらいけませんでしょうが!」


電機長を起こそうとする通信長…この2人は仲がいいのかどうかよくわからない。


「艦長」


副長に呼ばれて、私は振り返る。


「…やりましたね」


手を差し出される…角度からしてハイタッチ。

私は副長と自分の手を、一瞬だけ合わせた。


目の前に広がる大宇宙…

この漆黒の大海原を、超えていくことができるだろうか?

いや、超えなければならない―


私たちの航海は、まだ始まったばかりだ。


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