病弱なギルドマスター
人は完璧では無い。
神というものは人を完璧に作ってはくれない。
神というのは絶対に長所もあれば短所も作るのだ。
ここに1人の男がいた。
その男は頭脳明晰、抜群の身体能力、そして溢れんばかりの魔力を持っていた。
生まれも貴族ではないが親が世界一の大商会。
その商会の資財は小さい国くらいなら簡単に買える程だという。
だがその男を知っているもの達は不公平だとは決して言わない。
世界は平等だ、完璧とすら思えるその男にもひとつだけ欠点があるのだから……
「ギルドマスター! なんでいるんですか! 今日は月に一度の診察の日じゃないんですか!」
朝から騒いでいるのは副ギルドマスターのカレン。
いきなりギルドマスター室に入ってきて騒ぐのはやめて欲しい。
「いいんだよ、どうせ行ったって治る訳でもないしどうせまた『この状態で生きてること自体が奇跡だ』とか言われるだけなんだから。」
「それは……」
「そんなことより、王都に行ってた冒険者達は帰ってきたのかい? 予定では今日帰ってくるはずだけど。」
「【震天動地】ですか? 予定では明日帰ってくるはずですが?」
「はは、彼らが王都みたいな場所で長居するわけがないじゃないか。 きっともうすぐ……ほら。」
僕がそう言うとギルドホールで騒ぐ声が聞こえてきた。
「おお! 【震天動地】が帰ってきたぞ!」
「なんか不満そうじゃないか?」
「はははっ! 王都で貴族たちにでも絡まれたんじゃないか?」
「ね? 言った通りだろ? カレン、悪いけど彼らを呼んできてくれるかい?」
「はぁ、分かりました。 少々お待ちください。」
彼女はそう言うと部屋から出て階段を降りギルドホールに向かっていった。
再び彼女が戻ってくると、後ろにはごつい男を先頭に4人の男女が並んでいた。
「よう、ギルマス。 相変わらずの病人面だな。」
「はは、おかえり【震天動地】のみんな。 王都は楽しかったかい?」
「やめ下さいよギルマス、あんな汚い欲望が満ち溢れてるとこで、楽しめるわけないじゃないですか。 全く……何度貴族に勧誘されたことか。 断ったら断ったで不敬だ! とか言って拘束しようとするんですよ!」
「うんうん、大変だったね。 そんなお疲れの所悪いんだけど、ちょっとお願いを聞いてくれるかい?」
「「「「え……」」」」
震天動地のメンバー全員の顔が引き攣る。
「いやぁ、ギルマスのお願いってろくな事じゃないじゃん。 正直俺たち疲れてるんだけど……」
「いやぁでも頼めるのが君たちしか居なくてさぁ。本当は君たちが帰ってくるのも明日だと思ってたから本当誰も居なくてどうしようと思ってたら君たちが早く帰って来てくれてありがたいよ。」
「絶対分かってただろ! あんたが予測を外すなんてありえないんだよ!」
「そんなことはないさ……まぁ冗談はここまでにして真面目な話、あと数時間で町のすぐ外にワイバーンが現れる。 それの討伐をして欲しい。」
「はぁ? ワイバーン? なんでそんなもんが町の近くになんか来るんだよ。」
「んー、巣を追い出されたっぽいんだよね。 ワイバーンにしてはあんまり強そうな気配はないし。」
「はぁ……しゃーねーな。 町の平和のためだ。 もうひと仕事すっかお前ら!」
「「「おう!」」」
「ありがとう、頼んだよ。」
「任せな、ギルマスもお大事にな。」
そういい震天動地達は部屋を出ていった。
「ギルドマスター、これ以上は本当にお体に障ります。どうか今日はもうお帰りください。」
「いや、せめて震天動地が帰ってくるまでは……大丈夫、ここで待ってるだけで仕事は何もしないから。」
「……分かりました。でもあなたは毎日十分過ぎるほど働いているのですから今日はもう絶対に安静にしてくださいね。
それでは私も失礼します。」
そう言ってカレンも部屋から出た。
僕は我慢していた咳をだした。
さっきあの場で咳なんかしたら即返されるからね。
「ゴホッゴホッ、はぁ……何やってるんだろ僕。」
僕は自分で言うのもなんだけど恵まれていると思う。
家、才能、友人、どれをとっても胸を張って最高だと答えられる。
病弱なことを除けば……
3歳の頃、既に僕は自分が天才なのだと自惚れではなく自覚した。
両親は別に家は継がなくても構わないと言っていてくれていたし、僕な何になりたいかを考えた。
答えはすぐにでた、僕は冒険者になりたいと。
自由気ままに生きる、そんな生きたに憧れた。
そこから最高の冒険者になるために努力した。
体術でドラゴンを倒し、魔法では賢者に教えをこい、勉学では有名な学者に共同研究を願いでられるほどになった。
このまま全て上手くいくと思ってた。
異変が起きたのは5歳の頃、咳が止まらなくなった。
元々体は弱いかもとは思っていた。
体力はどれだけ特訓してもあまり伸びなかったし咳も時々出ていた。
でもそれでも構わないと思っていた。
体力がなくても最強の魔物であるドラゴン相手に体力切れになるほど苦戦することはなかったしいざとなったら魔法でも戦えると思ってたから。
でも止まらないのは咳だけではなかった。
1日中熱は下がらないし、体はまるで何かが乗ってるかのように重く、視界は急にピントが合わなくなった。
その日から僕は体をほとんど動かせなくなった。
ベットから起き上がるとこすら1人じゃ出来なくなっていた。
両親はそんな僕のために沢山の医者を呼んだ。
しかしどんな医者も匙を投げた。
そして両親が最後に頼み込んだのは聖女だった。
聖女というのはこの世界では神の巫女とも言われその治癒魔法は病気すら治すほどだ。
しかしその聖女を持ってしても完全には治すことが出来なかった。
少しは良くなり多少は体を動かすことができるようにはなったが、それでも少し走ろうとしただけでふらついてしまった。
聖女曰く僕は病気になりやすい体質で、この体質の人は普通赤子の頃に病気になりすぐに死んでしまうのだとか。
しかし僕はそれを不死身に近い生命力で耐え抜いたそうだ。
そして本来なら今僕には普通の人にとっては拷問よりもつらい痛みが全身に流れているはずだが、幼少からのことでその痛みに慣れてしまったのだとか、僕はもう既に何百種類もの病気にかかっており聖女がいくら治したところで直ぐにまた新しく病気にかかるだけだと言う。
唯一のいい所と言えばこの体質のおかげで周りの病原菌は全て僕が取り込んでしまうので僕の周りの人は滅多に病気にかからないそうだ。
全く持って笑えない。
それでも僕は冒険者を目指した。
普通に体を動かすことは難しいから、なるべく体に負担がかからない体術を自分で考案し、魔法も普通の魔法を使うのは反動が大きすぎるために無理だったから新しい魔法を創造した。
そうやって僕はまた冒険者への道をまた歩み始めた。
14になる頃にはこの病弱な体にも慣れ始め、調子のいい日はドラゴンを狩れる程に戻っていた。
しかし結局冒険者にはなれなかった。
冒険者の醍醐味でもある、ダンジョンに入ることが出来なかったからだ。
ダンジョンから溢れ出る瘴気のせいで僕は全くダンジョンに入れなかった。
冒険者というものはダンジョンに入らなくても出来るが、僕が憧れた冒険者はダンジョンに入れないなんてしょぼい冒険者じゃない。
入れないと気づいた時、初めて僕は自分の体を呪った。
だったら最初から才能なんて与えるなと神を恨んだ時もある。
理想の冒険者にはなれないけど、どうにか冒険者に関わりたいと俺は冒険者ギルドの職員になった。
でも王都などの都会は空気が悪くてすぐ寝込んでしまうので、田舎のギルドを任されることとなった。
僕が今いる町は田舎ながらも近くにダンジョンがいくつもあって冒険者が盛んの町だ。
ダンジョンの瘴気がダンジョンの外に出ることはないので空気もいい。
僕は冒険者にはなれなかったけどせめて冒険者を助けられるような人間になろう。
僕はそんなことを思いながら震天動地の帰りを待った。