賢者の審判 悪役令嬢は只人になりたい
国守の力。
それは彼女の秘密の力。
だが、彼女はそんな力は欲しく無かった。
普通の人間でいたかった。
普通の人間でも、彼女は侯爵令嬢で何不自由なく暮らしていけたから。
だから、沈黙する。
誰に気がつかれなくても、国守の力は発動するから。
そんな中、彼女は王族の一人と婚約する。
誰もが羨む婚約だが、彼女は彼を愛せなかった。しかし、それが貴族の結婚と言うものだ。熱烈に愛し合わなくても、多少の我慢をすれば良いだけ。
けれど、相手は違った。
当たり障りのない受け答えをする彼女ではなく、生き生きと話す身分の高くない女を選んだ。
彼女は捨てられ、悪役令嬢と名付けられ、国外へと追放された。
それは、国守の力を棄てることと知らず。
「けれど、私は只人になりたかったから、満足ですわ」
それに、私を棄てた王族は、国は、国守の力を失って朽ち果てるだろう。
賢者の前で彼女は請う。
どうか、私を只の人間にしてくれと。
追放された山に住む、世捨て人の賢者に向かって。あなたなら願いを叶える力があると。
賢者は彼女の問いに「然り」と答える。
「たが、真実、只人になりたいと願うのか。このまま故郷に帰れなくても良いのか?」
賢者は彼女に念を押す。
「もちろんです。私を棄てるなら、私もかの国を棄てます」
賢者は彼女の願いを叶えるために、国守の力を奪い、小さな宝石へと移し替えた。
残ったのは只の女。
「さあ、どこへと好きなところへ行くが良い」
賢者の言葉に嬉々として彼女は山をおりた。
賢者たる彼には彼女が選び得た道が見えた。
彼女が国守の力を持つと初めから公知していれば彼女は王妃となり、王からも国民からも慕われた一生を送っただろう。
彼女が密かにこの地においても、国を守りたいと願えば、賢者はそれを叶え、彼女に敬愛と恋情を覚えて、二人は結ばれたかもしれない。
しかし、彼女は自らの力を秘匿した。
誰をも信頼しなかった。
そして、知りようもない、罪もない民を巻き込んで国を滅ぼそうとした。
もしかしたら、人は、その身勝手な本質を感じて、彼女を「悪役令嬢」と呼んだのかも知れない。
賢者は国守の玉の力を、彼女の祖国に流し込む。
罪無き国民はこれで破滅から救えるだろう。
只人の彼女には、平々凡々な一生が待っている。
誰かに拾われ、結婚し、その親に仕え、子供を持ち。
しかし、只人になった彼女はその平凡さを憎むようになる。
嫌い、罵り、やがては……。
しかし、それは彼女が願ったことなのだ。




