10話 放課後その3
モモと名乗った彼女が魔法少女の仲間だと知った僕は、彼女に握手を求める。
「えーっと、モモちゃん……って呼んでも良いかな。魔法少女活動仲間としてこれからよろしくね。それにしても、孝宏が魔法少女関係者だったとは驚いたよ」
そう言って僕が孝宏を見ると、孝宏は「俺が魔法少女関係者になれたのは、モモと付き合ったお陰だよ」と言った。
魔法の素質がない人間が、素質を得るには、魔力の授受をする必要がある。
一時的に授受するだけならば、キスでも可能なのだが、持続性を持たせようとすると、もっと深い関係になる必要がある。
「つまり、魔力のなかった孝宏が魔法少女関係者になったのは、もともと魔法少女の素質があったモモちゃんとエッチしたってこと?」
僕がそう聞くと、孝宏とモモちゃんは、顔を赤くして黙り込んだ。
「ふ、藤田先輩。そういうことはもっとオブラートに包んで欲しいの。デリカシーのカケラもないと思うの」
「そうだぞ、いくら幼馴染とはいえ、他人の彼女を恥ずかしがらせるなんて良くない。デリカシーだぞ」
僕は、二人の勢いに押されて素直に謝る。
「ごめんね、聞いて欲しくなかったことを聞いちゃったのは謝るよ。それで、変身するところ、見せて欲しいんだけれど」
僕の言葉に、二人はお互いに頷き合うと、孝宏が「じゃあ、俺たちの変身を見せてやろう」と言ってから、二人の変身が始まった。
孝宏とモモちゃんは、お互いの手を絡ませる――いわゆる恋人つなぎをする。
「モモ、俺の全てを受け入れてくれ!」
「うん、タカヒロ! ボクの中に来て!」
二人の言葉で、世界が止まった。あまりの寒さに止まったとかそういう比喩的な意味ではなくて、正確に言うと魔法少女関係者だけが加速された状態になった。その速さは1秒間に1日分の行動が出来るほどなのでほとんど時間が止まっているようなものなのだ。
そんな、時が止まった世界の中、手を繋いでいた二人の周りに、小さな光を放つ球体がいくつも浮かび上がる。
その球体は、一つ一つが別の色をしており、赤・青・緑・黄・白・黒、透明の全部で7種類あるようだ。
僕は、そんなキラキラと光る小さな光が舞う光景をとても綺麗だと感じた。
僕がその光景に見惚れていると、異世界から僕に魔力を供給してくれているクロードが、この光の正体は精霊だと教えてくれる。
精霊はその色によって火・水・風・土・光・闇・無属性の魔法を授けてくれるらしい。
そんな精霊たちが、未だ恋人つなぎをしている二人の周りを回りながら二人を包み込むと、あたり一面光に包まれ見えなくなる。
やがてゆっくりと光が消えていき、止まっていた時間が再び動き出した。
光が消えたその場所には、二人の姿が跡形もなく、彼らと入れ替わるように、一人の女の子が立っていた。
その女の子は、3歳にも満たなそうなほど幼く見える容姿だったが、耳の先端が尖っており、ファンタジー小説に出てくるエルフ族の少女を連想させた。
「えーっと、君はモモちゃん……なのかな?」
僕が、女の子に恐る恐る聞いてみると、彼女はにこーっと満面の笑みを浮かべて応える。
「えへへ〜っ、半分だけ、当たりでちゅ。あたちは、せーれーまじゅつち『いっぱおっぱ』。モモとタカヒロが合体ちて出来た『愛のけっちょう』なのでちゅ。」
「あ、愛の結晶? ……それって、二人の子供ってこと?」
僕の幼馴染が、知らない間にパパになっていたという新事実に驚くと、彼女が慌てて否定する。
「ち、ちがいまちゅ。あたちは、ふたりの子供ぢゃなくて、ふたりそのもの。本人なんでちゅよ。あたちには、モモの記憶とタカヒロの記憶が両方あるのでちゅ。
……でもね、今のあたちは、いちぇかいの『えゆふ』の子供のかやだを借りてるので、お話ちは、あんまり上手く出来まちぇん」
エルフの少女は、精一杯説明しているようだが、『さしすせそ』がうまく発音できないのか凄く拙い話し方になる。
「うん、凄く可愛いんだけど、なんだか話しにくいから、とりあえず元に戻ってくれるかな?」
僕がそういうと、エルフ幼女〝いっぱおっぱ〟ちゃんは、凄く不機嫌そうに膨れっ面をした。
変身後の姿を、赤ちゃんにするか大人のお姉さんにするか、さんざん悩んだ結果、間をとってエルフの幼女になりました。
まあ、孝宏が魔法少女だったとか、二人の性別が逆転するとかそういう展開も考えてたりしたので、一番無難な結論に至ったと思っています。