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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
2章 魔法実戦実習編

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7.作戦

 装甲車を降りたのは学生たちのみだった。

 走り去る車を見送り、キーファは皆を集めて呼びかけた。

 

 どこか浮足立って落ち着かない状態なのは、自分も含めて戦闘が初めてなのだから仕方がない。

 けれど、その意識を自分が切り替えさせなければいけない。

 

 キーファは、一人一人と目を合わせて語りかける。


「今回、事前に伝えたとおりに俺がリーダーに指名された。行動計画の中に、ルートと到達予想時間を書いてあったと思う。余裕を持って時間の配分をしたが、怪我や体調不良があった場合は即申し出て欲しい。また、水分補給は各自に任せるが目安を見ながら残量に気をつけるように。魔獣討伐の作戦は、昨夜送った通りだ、今から説明をする。その前に意見があれば言って欲しい」


 内部生のウィルと、チャスは昔からの仲間でもあり気心がしれている。マーレンやバーナビーも同級生だったが、あまり接点がなかった。

 そしてケイ、彼とは話し合わないといけない。

 

 キーファが呼びかけると、わずかに表情を変えて皆が一応こちらに視線を向ける。そこに好意的でないものも確かに認めた。


「お前がリーダーになった理由はなんだ」


 キーファはマーレンを見つめかえす。

 怒りは湧かなかった。マーレンは誰かの下に立つことをよしとしないのだから、当然の反応だ。


「確かに俺は魔法が使えない。だからこそ前線に出るのではなく、指示を担うことにした」


 マーレンは一応黙り、キーファを見つめる。

 ふとキーファは思った。自分は彼らの友人でもあり仲間だから、まだ話ができる。リディアのように年下の女性が彼らの注目を集めて、従わせるのはもっと大変だっただろうと。

 

 それでも、彼女はやっていた。


(だから俺と向き合う時に、必死だったんだ)


 自分のときにはそういう気負いも、必死さもなく自然に話してくれたらいいのに。

 こんな時でも彼女に対しては、そんな思いがよぎる。


「このメンバーは、個人戦が向いているものが多い。例えばマーレン、君もだ。攻撃力は学年一だろう」

「当然だろ」

「だが、野生の魔獣、それも体長五メートルもの怪物を一人で倒すのは難しいだろう」 

「はん! お前本気でそれを俺に言うのか」


「君が魔獣を一体倒す時に、別の魔獣に襲われたら?」

「そんなのまとめて倒してやる」

「君の風魔法は、半径三メートル程度の範囲しか効かず、持続は三分だ。そして一方向にしか効かない。一人で複数は無理だ」

「なんだと!」


「――だからマーレン、君は一番強力な魔獣にのみ集中して欲しい」


 マーレンはいきなり氷でも飲まされたかのように目を見開き、それから肩を揺らして、黙り込む。


「僕は……僕が、マーレン様をサポートします」

「ヤン。君はマーレンのサポートしか考えていないようだが、今回は君も役割がある」

「でも、僕は……」

「君は能力が高いよ。そしてメンバーの一員だから、魔獣退治の役割を果たしてくれ」


 ヤンも不満と怯えを見せながらも黙る。


「個人プレーもいい。けれど、魔獣は俺たちよりも殺戮に慣れている。彼等は人を殺して食べるのが日常だ」


 一番反抗的なマーレンが黙ると、皆も黙る。


「今回の実戦は、チームで対応するように組まれたものだ。おそらく協力姿勢に評価の配分が高い。個人攻撃は評価が下がる可能性もある」

「でもさ、一番戦力がある僕にばかり頼られても疲れちゃうよ。僕は途中は見学してるから、トドメを刺す役でいいかな?」


 いけしゃあしゃあと言うケイに、チャスが「ぁあ?」と威嚇する。 

 強気にいいのけて、つんと顔をそらすケイ。

 

 だが、「ケイ」とキーファが静かに呼びかける。キーファは向けた視線を外さない。顔を反らしていたケイがそろりと顔を戻すと、キーファの静かで据わった眼差しがまだ向けられている。


 根負けしたケイは、口を尖らせて、「だって」という。


「だってトドメを刺した学生が一番ポイント貰えるってことだろ? 途中活躍しても意味ないじゃん」

「先生に確認したがそれはないということだ。希望に添えないかもしれないが、全員が能力を発揮できるように配置した。これから説明をする」


 リディアが静かにキーファの後ろに佇み、見守るように背後に控えるのをキーファは感じた。


「――まず魔獣だが、彼らの強襲手段は大きく分けて三パターンだだ。一つは、同じ陸続き、砂上から襲ってくるもの。これをパターンAとする。この地に住む魔獣を調べたが、概ね八割がこのタイプだ。彼らは、必ず地に足か体表をつけている。だからまず足場を崩す」

「直接魔法当てたほうが早いよ。強力なのをさ!」

 

 ケイの勢いだけの発言を、キーファは無言で手を上げて「後で」、と制する。


「当たり前だが、奴らは急に襲ってくる。その場合、俺達は準備が出来ていない、パニックになって逃げ惑うか、いたずらに魔法を打つだけになりがちだ。まず有利な陣形を取り、かつ魔法で攻撃するための距離と時間を稼ぐ。そのために、即座にヤツの足止めをするものが必要になる」

「俺がやる」


 即座に手をあげたのは、ウィルだった。


「俺、土属性魔力が高いし、砂を崩すか変化させりゃいいんだろ」


 キーファは静かにウィルを見て頷く。


「その際に、ケイとマーレンは十分に距離を取り攻撃の準備をするんだ」

「「なんで、こいつと?」」


 ケイとマーレンの声が重なる。

 キーファが表情を変えないまま二人を見つめると、まだ文句をいいたそうだった二人は一応黙る。


「どちらがどんな攻撃をするかは、追って指示をだす。とりあえず、次にはパターンB、空から襲ってくる場合だ」


 そこで、キーファはマーレンに視線を向ける。


「頭上から襲ってくる敵は、かなりのスピードで、しかも接近されるまで気づかない場合が多い。だが、飛ぶには必ず翼が必要だ。そして翼を失えば自身の重みで墜落するだろう。だからマーレン、君の得意な風魔法で敵の翼を狙うんだ」


 キーファはただし、と付け加える。


「金属系魔法と組み合わせるのは、今回はやめて欲しい。あくまでも風でヤツのバランスを崩してくれ」

「なんでだよ」

「二種以上の組み合わせ魔法は、コントロールが難しい。君が多少乱雑に魔法を繰り出した場合、俺たちも恐らく軽いパニックになっているから避けられない。とにかく空を飛ぶ魔獣は大抵、翼に反して体格が良いものが多い。致命傷を与える必要はない、バランスを崩させればいい。先生も、君の一種魔法は許可を出しただろう?」


 マーレンは不満そうだが一応黙る。


「そして最後、パターンCは地中からの魔獣だ。奴らはそっと近寄り、巣穴に引き込むか、地下から接近して襲ってくるかだ」

「これも俺が、砂を形状変化すればいいか?」


 キーファはウィルに頷く。


「固めて潜り込めなくするか、または出てこれなくするか、それはその時の状況だ。そして、バーナビー。君は魔獣探知計で、魔獣の位置を随時モニターしてほしい。僕らに接近を常に知らせて欲しい」

「いいよ、それに五秒前なら未来予知ができるけど」


 キーファは頷く。


「じゃあ俺にその都度情報を回してくれ。俺がそれに対応して指示をだす」

 

 キーファは、それから、とヤンに目を向ける。


「そして、ヤン。君は、全員に補助魔法をかけてほしい。いつも全員を見ているだろう、君が一番、視野が広い」


 キーファが言うと、ヤンは驚いたようにぽかんと口を開き、そして赤面する。


「わ、わたしが、そんなことは――ないかと思いますが」


 そして王子をちらりと見て、彼が目を向けもしないことに気がついて、しゅんと肩を落とす。キーファは「頼むよ」と繰り返す。


「わかりました。がんばります」

「そして、最後にチャス」

「勿体つけるなよ。言いたいことはわかるぜ」


 キーファは僅かに笑った。キーファとウィルとチャスは内部生で、互いに思うことは多々あれど、それでも乗り越えてきた仲間だという通じ合うものがある。


「囮だろ。俺にしかできねーから、仕方ねえ」


 チャスは、いつも口から生まれてきたかのように軽口がポンポン出てくるが、言われた方も悪意を持たずについ気を許してしまう。


 キーファも張り詰めていたような気配を和らげて、わずかに顔に笑みが浮かぶ。


「その時で何の魔法を放つかは、皆が装着している通信装置で指示をだす。そして腕にはめた位置情報システムに、俺達が取る陣形を示す。主に散開、囲い込み、突撃のパターンだが、その形はこのモニターを見て動いて欲しい。俺は皆の動きを見て、口頭でも指示を出す。けしてこのモニターの範囲外、直径一キロメート以上は仲間から離れないで欲しい。それでは、通信装置とモニターの作動確認をしてくれ」


 通信装置は、襟首に組み込まれていて外れない仕様のもので、これは生徒間で通信ができる。もうひとつ緊急時の連絡用として、リーダーのキーファは衛星電話をリディアから渡されていた。

 個人端末の持ち込みは禁止されていて、非常時に連絡のとりようがないが、衛星電話ならば圏外でも使用が出来る。かなり小型で、個人端末と変わりがない大きさだ。


 腕時計のような位置情報システムは皆がもっている。これもGPS機能で、現在地と仲間の位置を知ることが出来る。画面をいじり皆が確認を済ませたのを見て、リディアは、前に出る。キーファがリディアに場を譲った。


真面目な話になっちゃいました、すみません。

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ありがとうございます。楽しんでいただけますように。
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