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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
1章 大学授業編
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56.それぞれの応用魔法


「まずは計測をしてみて。自分が魔法の展開にどれくらい時間を要するのか、またはできないのかを知るためだから、できなくてはいけない、というものではないの」

 

 リディアは皆に説明をする。 


 なんだか微妙な顔をして、演台に移動する生徒達。新しい魔法を試すわけじゃなくて、あくまでも応用。派手さがないし、あまり楽しくないのだろう。


 キーファとウィル、ヤンとマーレンのペアは予想通り。ケイは意外にもチャスと組んでいる。バーナビーは見学をする気らしいが、あとで促してみよう。


 リディアは、まずキーファとウィルのところに向かう。


「ダーリングは、魔法の発現を試すのは三十秒までにしてね」

「なんで?」

「計測の時に、魔力放出して四十秒で極値を超えているの。十秒ですでに閾値に達しているから、三十秒以内に抑えて。それに、火系魔法は今回はパスしてね」

「……」


 ムッとウィルの不満げな顔は一瞬。

 あっさりと「ま、いいか」と言ってケースに向き直る。ウィルのこの切り替えの良さは彼の長所だろうか?

 

 ウィルは、ロッドを持たずに掌を突き出す。ケースの中に半分ほど溜まった水が即座に泡立ち湯気を立ち上らせる。


「十五秒」


 キーファの声に、ウィルの口元が明らかに上がり、自信ありげにこちらを振り返る。

 リディアはキーファが取ったウィルのデーターを覗き込みながら、考え込むように唇に手をあてる。


「やっぱり、水との相性がいいのね。熱系……?」

「なにそれ」


 褒めてよって顔で振り返ったのに、リディアが何も言わなかったことに一瞬不満げに目を眇めたウィルだが、リディアの言葉に目を瞬かせて一緒に記録を覗いてくる。


 顔が近い。

 でもここで距離をとって顔を離したら不自然だろう、リディアのほうがウィルを意識しているみたいで、一瞬自分も眉を寄せてしまう。

 

 だめだ集中しないと。


「火のアレンジ系かな。燃やす炎系というより、熱エネルギーが高いみたい。炎魔法に特化していると、他の魔法までも飲み込んでしまうから、普通は他の属性も低いし、組み合わせ魔法もできないけど、あなたは違うみたいね。だから他の魔法と組み合わせることができる」

「へええ」

「でも、今日は計測だけにしてね」

「試しちゃ駄目?」

「駄目。計測を続けて」


 リディアの顔を覗き込んでくる視線を感じて、リディアは気まずげに顔を逸らして、次の演台に向かう。


「一分、ブッブー、終了」

「何で!? まだだよ」

「一分だって」


 チャスのやる気のなさそうな計測と、ケイの怒る声が響いてくる。リディアがそちらに行くと、ケイがリディアをキッと睨み、ロッドを振り回し怒りを露にする。


「先生! 一分なんてひどい! 五分くれれば、全部完璧にできるのに」

「完璧なんていいの。何が一番早くできるのかを測るのだから」


 リディアがケイの計測表を覗き込むと、チャスの濃くて太い癖字が、枠を超えて躍るように数字を書き連ねてある。


「風魔法の反応がいいのね。風系でも攻撃系の魔法はあるわよ、強風や竜巻とか。そちらを練習してもいいと思うのだけど」

「だって目に見えないし、強風って、ダサっ」

「十分立派な能力よ。水魔法も反応がいいじゃない」

「前にプールの水割ろうとしたら、先生が止めたんだよね。あれぐらいやんなきゃつまんないよ」


 リディアは眉を潜めた。


「どこで?」

「どこだっていいでしょ!」


 その能力に驚こうとしないリディアに、ケイはむっとしている。


 前の学校か、どこかの施設での話だろうか。水と風の魔力が百以下のケイには無理だろうと思うけれど、止めた教師が正解だ。そのプール内に人がいたら確実に怪我人が出る。


「ねえ先生、氷結魔法教えて? 氷の矢とか、氷柱ツララとかさ」

「今日はそういう授業ではないし。うちは水系魔法の領域じゃないの」

「そう。――特別授業じゃなきゃ、やってくれないんだ?」

「ベーカー?」


 ケイは恨みがましくリディアを睨んでくる。聞き返そうとしたリディアだが、ケイはすばやく離れて、次の台に行ってしまう。


「ベーカ―、ちょっと?」


 他の生徒も呼びかけるリディアに気づいているのに、当の本人だけが無視していてリディアの声が所在なげに響いて消えた。

 

 絡んできたかと思えば、無視する。まるで気を引こうとする面倒くさい恋人。

 リディアはケイとは付き合っていないし、彼女でもないのに。

 

 もやもやといやな思いが立ち上るのを無視して、頬杖ついてつまらなそうに座り込んだチャスの真っ白な計測表に首を傾げる。


「相方には、計ってもらえていない?」

「だって、俺なんにもできないから意味ないし」

「やってみた?」

「少しね、でも何にも変化なし」


 何も出来ない彼にとって、この授業は何の益もないだろう、ただの計測係のようなもの。それでも、彼自身の能力も計測してほしかったのだ。


 彼の茶色の眼差しは、つまらなそうで何の興味も浮かべていない。


「ロー。あなた、いつ特殊な魔法を発現したの?」

「昔の報告、みてない?」

「個人情報だからね。見られないのよ」

「二年生のとき。なんも使えなくてさ。キーファもそうだったけど俺も魔法が使えないって有名だったよ。でも、俺の場合、いつも通り使えないのに皆の真似して、魔力放出してたら、いきなり魔力がどこかに吸い込まれる感じがして、そしたら生徒の魔法もセンセの魔法も部屋中の魔法が止まっていたんだ」


 チャスの顔は、何にも読み取れなかった。笑ってもいないし、興味がなさそうでもない。

 ただ、リディアの反応を、すでに知ってるよ、とでも予想しているかのように、じっと見て心の奥で観察しているかのよう。


 リディアの顔が強張ったのを見て、ようやく彼はへらっと笑う。大人びた、諦めとやっぱりな、という顔。


「だから俺もバーナビーと同じ。見学だけ。キーファは、アイツは偉いよな」

 「諦めないで欲しいよな」とキーファのほうをみて呟く顔。


(……魔力が、吸い込まれて……?)


 でも、リディアの心は平静ではいられなかった。チャスに何も言えない。


「ロー。その魔法、どれぐらいで発現できる?」

「どれぐらい?」

「そう。魔法を使おうと思ってから、どれぐらいで効果がでる?」


 リディアはあえて、術式とか詠唱という言葉は避けた。チャスは特に気にした様子もなく答える。


「ん、すぐかな」

「――すぐ」


(それって……もしかして)


 リディアの背を汗が伝い落ちた。


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ありがとうございます。楽しんでいただけますように。
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