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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
1章 大学授業編
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46.広げる騒動

「なあ。お前! ちょっと待て」

「ハーイェク、あなたはついてこなくていいから」


 走れないリディアには、当然マーレンが横に並んで話しかけてくる。むしろマーレンのほうが追い抜かしそうだけど。


「そうじゃない! 待てと――」


 マーレンと言い合いをしながら階段を上がったところで、聞こえてきたのは女の子のヒステリックな張り上げる声。


「そんなんだから! ――だからウィルは、魔法が使えないんだよ!」


 廊下に腰を落とし床に転がる男子と付き添うように膝をつく女子。

 目の前で拳を握りしめて、立ちふさがっていたのはウィルだ。


「あいつ、何やってんだ」


 マーレンが呟く。


「どうしたの?」


 リディアが教員としての顔を貼り付けて場に参入すると、ウィルはこれまでにないくらい悔しそうな険しい顔で、顔を背けた。


「ウィルが、ケヴィンを殴ったんです」

「そう」


(修羅場――? それにしても、最悪な状況)


 ミユのウィルを全面的に責める気配に、リディアは騒ぎを大きくさせないように一層淡々とした口調で返答する。そして、まずケヴィンの顔に触れた。


「いてて、いてえよ」


 顔をしかめて痛みを訴えるケヴィン。唇の端は切れて血が滲んでいる、頬骨の下も痣になるかもしれないが、それほどひどい怪我ではない。


「頭は打った? 目は?」

「わかんねえ。頭、少し痛いかも」


 頭を触診するが、どこかを打ったような形跡はない。頬を一発だ、ただ目に当たっていたら問題だ。


「これが見える? 何本?」


 指を立てて、近づけ、遠ざける、左右に指を動かす。目の焦点は合っているし、追視もできる。


「口を開けて」


 歯は折れていない。


「いってえよ、せんせ、あーいてえ」

「冷やして、痛み止め飲めば大丈夫よ」


 ケヴィンの口調は、リディアに妙に甘えて密着してくる。声も大きく張り上げているし、注目を集めようとしているみたい。

 けれど、喧嘩の怪我を見慣れているリディアには、お芝居は通じない。


「ギルモア、彼を保健室に連れて行って」

「はい、でも」


「まずは、手当てと診断をしてもらって。話は後よ」

「はあーい」


 不満げなミユに、何かを言いたげなケヴィン。

 ウィルは立ち尽くしたままだ。

 

 リディアはウィルの前に屈んで、殴ったであろう彼の右手を掴む。


「何、してんだよ」

「あなたは、怪我はしていないわね。でも後から痛みがくるかも」

「ほっとけよ!」


 ウィルが目を尖らせて、手を振りほどく。


「そうだ。ほっとけよ、馬鹿者は」 


 マーレンの突っ込みは流す。


「ダーリング、手当てしましょう」

「……いいよ!」

「よくないの」


 怪我をしたのはケヴィン。被害者もケヴィンだ。


 ただ、心の傷のほうが深い場合もある。

 リディアはウィルの手首を掴んで、歩き出した。


 彼は一瞬、目に何かの感情を強く宿し唇を噛み締めたが、結局何も言わず、大人しくついてきた。







「ふうん」


 ケイは、一連の騒ぎを遠巻きに見ていた生徒たちの一番後ろで呟いた。


「あれ? ケイ、何してるの」


 騒ぎに集まっていた女子たちが解散しはじめて、そのうちの一人がケイを見て驚きに声をあげる。確か、水系魔法の選択の女の子達だ。

 同じ授業を取ったことはなかったけれど、構内でケイに話しかけてきて仲良くなった。ケイを見て仲良くなりたいって言ってきたのだ。


 女の子は、そうじゃなくちゃね。


「ううん。何か賑やかだなって。あの子達、誰?」

「ああ、あれ。ウィルとミユとケヴィンだよね。まだ揉めてんだ」

「有名?」

「そうだけど。ケヴィンもウィルも、ミユなんてどこがいいの?」


 女の子達が騒ぎ出す。


 ケイは、グレード三の笑みを浮かべて「ねえ詳しく教えて」と、頼んだ。


短いですが、次が長くなるのでとりあえずここまで。


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ありがとうございます。楽しんでいただけますように。
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