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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
1章 大学授業編
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37.難しいお年頃

 火系魔法領域の演習も終盤を迎えていた。


 全員に手を添えて、問題点と改善点を助言して、再度練習をさせる。

 一応、全員が火球を発現させて的に当てるという到達目標をクリアさせたのは、授業も残すところ後十分という頃。


(詠唱から魔法が発現して、標的に当たるまでは、三分から五分はかかるのね)


 ほかの班を見ても、自分が担当した学生とさほどレベルの違いはない。


(これが、学生の平均レベルか……)


 魔法師団の新人教育をしたことはあったけれど、やっぱりあそこはエリート集団だということを再認識した。


 新人でさえも、入団時にすでに火球を複数同時発現できる者も多かったのだ。


 リディアは納得したと同時に、これからの課題を考えながら、担当の生徒たちを見つめる。練習をしている生徒もいるが、大半は自分の番が終わった安堵からか、おしゃべりをしている。


 ケヴィンとミユは付き合っているのだろうか、他の生徒が練習している間もずっと喋っていた。仲がいいのはかまわないが、ミユにはもう少し積極的に練習をしてほしいところだ。

 

 とはいえ、それを促すのはリディアの仕事ではない。後でサイーダに報告しておこう。

 

 そんな恋人同士の二人だが、ミユが女子と話しだした途端に、ケヴィンは評価表をつけるリディアの元にやってきた。

 

 リディアは、さりげなくそれを閉じて、顔を上げる。


「先生、歳いくつ?」


 これ、流行ってるの?


「だって興味あるし」


 女性には聞いちゃいけないよね? 

 リディアが睨むとケヴィンは悪びれた様子もなく、親しげに笑いかけてくる。 


「いいじゃん、そんな歳じゃないっしょ?」

「――そうだよね! ミユと同じくらいじゃないの!?」


 ミユが突然背後から大きく声を放つ。

 ケヴィンはわずかに動揺したような、強張った顔で彼女を振り返る。


(……大丈夫かな?) 


 二人の間に割り込むつもりはないのだけど、せめて巻き込まないで欲しい。


「ミユの予想では、先生は二十五くらいでしょ?」 

「え。そんなんじゃねぇだろ? 十代っぽくね?」


 十代でも、二十五歳でもない。


 二人で勝手に予想しているけれど、全然当たっていないし。それに答える義務はないので、リディアは口を閉じて二人を見つめる。


「ケヴィンはどうせ若い子が好きなんでしょ、年下好きだもんね!? ミユなんて好みじゃないでしょ!?」

「そんなことないって! ミユは小さくてかわいいよ! 俺の好みだって」

「本当にそう思ってる?」


 ケヴィンは一転、機嫌を取るようにミユを褒めだして、ミユも満更でもなさそうだ。二人は仲良くいちゃいちゃしはじめてしまった。


 ――練習するか、後片付けしてくれないかな。


「ねえ、先生は幾つなの? 先生も若く見えるから大丈夫だよ」

「何が大丈夫かは知りませんけど、私の年齢は授業に関係ないので」


 今度はミユがしつこく聞き始めた。リディアがそっけなく断ると、ぷうっと頬を膨らませてリディアに腕を組んでくる。


 そして耳元に口を近づける。近い、近い!


 なにこのパーソナルスペースをゼロにする技術。男子にだけ使って!


「――でも先生? おしゃれしたほうがいいよ」


 囁く声は、少し棘があった。

 リディアの白衣の下のジーパン姿をちらりと見る視線に、残念な人を見る気配が漂う。

 

 きつい。その視線怖い。

 

 最近のリディアの格好は、ジーパンだ。公的なイベントがない日は、スーツも、スカートもやめた。特に演習では何が起こるかわからない。

 汚れても、暴れてもいい格好をしている。

 

 下着はお気に入りの物を着るようにはしているが、そんなことを内心で訴えてみても、ミユの蔑んだ視線をかわすことはできない。


「おばさんみたい」


 おばさん! はっきり言ってくれる。


「先生、まあまあかわいいのに、もっと気を配らないと勿体無いよ」

「――ええと、その、あり、がとう?」


 褒められているのか、けなしているのか。


(まあまあ、かわいい)


 怖い、女子怖い。結構辛らつだ。


「ね。ミユにだけ、歳教えて?」

「そんなことどうでもいいでしょう?」

「若くみえるよ、大丈夫!! ねえ、幾つ?」


 リディアは、だんだん会話に疲れて、面倒になってきてしまった。

 評価表を記入しようと離れたら、ミユが相変わらずまとわりついてくる。ケヴィンもついてくる。


「ギルモア、いい加減にして。片づけをしなさい」

「教えてくれるだけでいいのに。なんでそんなに教えたくないの? すっごく若作りなの? 整形してるの?」

「ギルモア!?」


「だって、ケヴィンが気にしてるんだもん」

「な、そんなことないって! 先生が幾つだって、俺はミユが好きだってば」


「ほら、それで納得したでしょう。二人とも戻りなさい」

「……幾つ?」


 ミユはすごくしつこい。

 リディアは呆れのために深く嘆息して、片付けも終わりだした他の班も見て、諦めた。


 早くこの会話を終わらせて、後片付けに戻らせよう。


「二十よ」


 ん? と二人が黙る。


「満足した? それじゃあ後片付けに回って」

「え、え? 何?」

「二十歳?」


 リディアは嘆息とともに「そう」と、短く答えた。


「なんで? なんで? え?」

「うっそだろ、若い! へええ!」


 ケヴィンの声に喜色が混じる。

 彼は、確かにミユが危惧するのはわかる。

 女の子好きなのか、軽いのか、おバカさんなのか、わからないけれど、態度に出てしまう。


「若いって……あなた達とは同年代だけど、経験は積んでいます。だからほら後片付けして、評価につけるわよ」


「俺は二十三なんだけど、ふーん」

「……ふーん」


 ケヴィンの声に重ねて低い声を発したのはミユだった。

 勢いよく背を向けて、あとは無言で平野空間から出て行ってしまう。


「あれ? ミユ? ミユ待てよ! 何だよ?」

「うるさいな!! ほっといてよ!」


 追いかけるケヴィン、教室の方からミユの怒鳴り声が聞こえる。周囲は二人の喧嘩にまたか、という顔だ。

 

 結局二人は戻ってこなかった。後片付けをしないまま放り出して行ってしまった。

 なので、リディアは二人の演習授業評価表の演習態度にマイナスをつけることになった。


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ありがとうございます。楽しんでいただけますように。
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