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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
1章 大学授業編
37/330

31.彼の主張

 もやもやする。


 廊下の角を曲がると、ウィルが手をポケットに入れて待っていた。しかも笑ってる。


「先生。教授が苦手ってバレバレ。下手だなー」

「絶対的な上下関係には逆らえない性質なの」

「奴隷気質? そういうプレイ好き?」

「違います!」


 ところで、とリディアはウィルを丁度目の前の印刷室に呼び込む。電気をつけて、ドアをしめる。


「先生、積極的――」

「はい?」

「キスしてくれんの?」 


 リディアは半眼で、見つめ返す。

 冷たい視線にひるむ彼に、リディアは仕方がないと今の言葉は流して、改めて向き直る。


「さっきの、何?」

「さっき? 何とかなっただろ。機械」

「それは有り難いけど……寄贈していただけるなんて感謝しているけど」


 何から聞けばいいのか、何から話せばいいのか。

 ――辞職を覚悟してきたのに。


「さっき実験室見たけど、壊れてんのは機械と魔法陣と蛍光灯だけ。部屋を掃除すりゃなんとかなるよ。蛍光灯交換は、用務員のおっさんに頼んだし、魔法陣は親父に融通利くとこ聞いとく」

「――」

「つか、あんだけの爆発で、被害をそれだけにしたの、リディアすげーって思った。正直」

「――でも、あなたに怪我を負わせたの! 私は、起こりうるリスクを回避しなかった、やってはいけなかった――」


 リディアは必死に説明をしようとした。あらゆるリスクを想定して、自分の手に負えないと思ったら手を出してはいけなかった。事故を起こしたのは、一番最悪な結果だ。


 だが、ウィルの顔は、怒気に赤くなっていた。


「なんだよ、それ。やらなきゃよかったって!?」

「――そう、だと思う」


 ウィルはわずかに黙り、リディアに詰め寄る。


「アンタさ、戦闘集団にいたんだろ。経過はどうであっても、結果が出せたらいいんじゃねぇのかよ?」

「怪我人を出すのは、一番最悪」

「そうやって、俺は何もすんなって言われてたのに?」


 ――そうだった。

 ウィルは、そうやって何もするなと言われて自分の力を知らなかった。機会を与えられなかったのに。


「アンタが、やってくれたから俺は自分の力を知ったんだよ。開放できたんだよ。それなのにアンタが否定するのかよ、リディア!!」


「――ごめん、そうだった。やらなきゃよかったなんて言わない、今のは撤回する」


 彼が大きく息を吐く。こうやって生徒に気がつかされる。まだまだだ。


「でも、方法は間違えた、反省しなきゃいけないし、見直さなきゃいけないことが沢山あった」

「それは、これからしてけばいいだろ、だからやめないで続けてくれよ、補講」

「――でも」

「そんなに報告したいのかよ? 教授だって大事にしたくねーから、ああ言ったんだろ」


 確かに、そんなこと、で終わらそうとした。というか、終わらせていた。

 報告を上げて面倒事にしたくないのだろう。


「それとも詳細上げるのかよ。機械壊したのは監督できていなかったからです、って。余所見した理由は、生徒にキスされたからですって?」


 リディアは、ウィルを蹴飛ばそうかと思ったが、彼の顔は真剣だったので、ただ睨むだけにした。


(手を上げてはいけない、手を上げてはいけない……)


 それに、助けられたのだ。正直に言えばリディアは魔法師の資格を取り上げられていた。


「複雑……罪悪感」

「利益を望んでるの、俺は」

「わかった」


 ため息とともに、リディアは降参した。


 すごく上手に収めてくれたのだ、リディアより対処能力があると思う。多分教授よりも。

 それに、実験室まで見に行ってくれるなんて、行動力もあるし親切だ。


「機械、半壊してるけどね」

「教授は、実験室も演習室もぜってー入らねーだろ」


 普通はどんなふうに壊れているか、部屋がどんな状態か気になるだろうに。

 管理者なのに無関心ぶりが徹底しすぎていて怖い。……けれど、今回は助かった。


「ついでに用務員のおっさんに聞いたら倉庫あいてるってたぜ。今日中に壊れたの入れとこうぜ」

「ありがとう! 一人で運ぶ覚悟してた!」

 

 高額な備品は、勝手には捨てられない。申請して廃棄できるのだが、それまで実験室に壊れた機械を放置していたらばれてしまう。

 

 ウィルは用務員や清掃員とも仲良く喋っている姿を見かける。誰とでも気さくに話す姿勢は尊敬する。

 こうやって先回りして、頼んだり訊いておいてくれるところも気が利くと思う。


「色々……本当に、ありがとう。助けてくれて」

 

 リディアがウィルを真っ直ぐに見上げて感謝を伝えると、彼は顔を横にふいってそむけた。


(あれ? またからかうか、自慢してくるかと思ったけど?)


「打算、だし。あんま簡単に……誰でも、気を許すなよ」


 それってどういう……。


「だから最後まで、俺の練習につきあってくれってこと。――途中でやめたとかなし、だからな!」


 ああそういうことね、と頷きながらもリディアは首を傾げた。


(何だか……、上手いこと丸め込まれた?)


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ありがとうございます。楽しんでいただけますように。
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