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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
5章 大学年度末編

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14.おまじないと思い出

 ――ᚺᛏᚨᛖᛞ ᚨ ᚾᛖᚢᛁᚷ ᛋᚨᚺ ᚱᛖᚾᚾᛁᚹ


 ルーン文字で書かれたそれを、逆さ読みにする。

 

 ᚹᛁᚾᚾᛖᚱ ᚺᚨᛋ ᚷᛁᚢᛖᚾ ᚨ ᛞᛖᚨᛏᚺ ――勝利者に死を与えよ


 紙片に書かれていたのは、共通語を現代ルーン文字に当てはめただけの簡素な一言。


 ――呪詛は、文章を逆向きに書く事が多く、その規定を真似ただけに見える。

 呪詛を代理で行っていた仕事人は、格好つけのためか非常に格式張った勿体ぶった言い回しで、長い文章を書く傾向が見られる。


 それは、願いを捧げる悪魔への賛美、いかに相手を憎んでいるか、いかに残酷な方法で呪いを成就させてほしいか。


 だが、その言い回しを素人が真似ることは難しい。


 そして、リディアの研究対象である呪詛版に書かれる呪詛は、共通語、またはリュミナス古語で書かれることが半々だ。


 もともと、魔法と魔術の起源は同じだと言われているが、その後魔法が六属性の力を得るためにリュミナス古語だけを使用していったのに対して、呪術は魔術から分岐していき、それはリュミナス古語の必要性を感じず、共通語を選んでいったと言われている。


 ――ルーン文字での呪詛は珍しい。

 かの言語は、一つ一つが力のある文字になっているから、本来は意味を考えて文言も考えるべき。共通語に簡単に当てはめやすいが、それをするのは危険だ。


 六属性は魔法の発達とともに、魔法学の世界で自然界における魔力を内包する存在を、供給する属性として六種に分類したもの。


 そしてルーンはあらゆる自然界のものと会話をするひとつの体系の文字言語。

 だから呪詛をルーンで書くなんて許されざること。自然界の長である妖精王や女王から大いなる怒りをかうこともある。


 ディアンはルーンも扱うが、より古典的なルーンを発声している。その際は自然界から一応、直接力を借りている形になっている、というより強制的に引き出している。

 六属性から直接力を搾取している形にもなるが、六属性とルーンで引き出す自然界における力を、似て非なるものとして違いをわかっていて使っている。そうじゃなきゃ、危険で扱えない。


 この拙い文言でどれぐらい呪詛が有効なのかはわからない。

 けれど、呪詛を成功させることで一番有効なのは、強い思いだ。


 メグは、院生で学部生よりは魔法の扱いに長けているはず。でも呪詛は素人だ。通常の思考だったら、こんなものには手を出さないはず。


 ……いつからかおかしくなっていた。


 こんな文言をおかしいと思わないはずがない。こんなことでケイが好きになってくれると思うはずがない。


 ――リディアは足を止めた。

 手の中に握りしめた紙片を、もう一度開きかけて、ふと裏返す。裏に文字が滲んでいただけかと思ったが、裏にも文字があった。


 ――YAK ᛖᛗ ᛋᛖᚢᛁᚷ ᛖᛋᚨᛖᛚᛈ


 リディアはそれを見て、顔を歪めた。


 ――強い思い込みは、思考を鈍らせる。


 魔法学校の初等科では、魔法でも呪いでもない“おまじない”が流行っていた。

『好きな男の子の髪の毛を枕の下に敷いて寝ると夢を見る』、『雨のしずくを集めた盆に薔薇の花びらを浮かべて満月の晩に一晩置いて、その水を朝一番に飲むと両思いになる』


 みんなそんな話に夢中になっていた。


 リディアはその話を教室の隅で聞くだけだった。話には誘われない、本を見せてもらえることもない。

 ただ聞いていると思われないように、目をそらして、息を潜めて――耳をすませていた。


 方法も知らない。

 それでも、願い事を書いた紙片を、六属性の六芒星の中央に書いて、ペンケースに入れていた。

  ――お友達をください、その一言を書いて。

 

 満月の晩にはそれを握りしめて、願った。

 家族とのふれあいもなかった自分。学校に行っても一人だった。


 共通語が話せないからだけじゃない。今思えば、誰とも会話をしたことがなかった自分は、同年代の子どもにとっても、とてもつまらない子どもだった、だからだと思う。


 でも、信じていたのだ。紙片を握りしめて、本気で叶うと思っていた。


 メグが書いた裏書きの言葉を、逆さ読みにする。


 ――ᛈᛚᛖᚨᛋᛖ ᚷᛁᚢᛖᛋ ᛗᛖ KAY ――ケイをください。


 リディアと同じなのだ。

 彼女は、本気で願ってた。願い続けていれば、叶えられると思い込んでしまう。 


 それを思い出すと、恥ずかしさよりも切なさが胸に宿る。


 表書きは、メグの思いじゃない。彼女の真実の願いは、裏にある。


 でも、両方を書いたのは彼女で、その書き込みは絶対にそうなるという思い込みがある。


 ――呪詛版は、南の国の闘技場で発展していった歴史がある。敵対する相手を呪い殺させて、勝利への有利な条件を得る。そのための呪詛代行の専門職も繁盛していた。


 今回の呪詛の仕様は、閉ざされた巣箱の中で、虫たちを共食いさせて最後の一匹にさせる。

 そして今回の対抗戦は、フィールドという閉鎖空間で、生徒たちに争わせて最後の一人を決める。状況を重ねる見立ては、呪詛においてはとても重要だ。


 それを成功させた時点で、呪いが発動している可能性が高い。


 生徒たちの気分が悪くなった理由はそこにあるだろう。恐らく、感受性が強い生徒に不調として現れたのだ。


 ――勝利者には死を。


 その文言にリディアは焦りを募らせて走る。


 あの場には、キーファやウィルがいる。


 ――絶対に勝ちます。


 キーファの強い宣言が甦る。リディアは足を早める、駆け出すと魔法衣の裾がはだけて、翻る。もどかしさが募る。


(絶対に殺させない)



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ありがとうございます。楽しんでいただけますように。
― 新着の感想 ―
[一言] なるほど。ちょっと誤解していました。 いわゆる『蠱毒』によって、生き残ったその最後の一匹が強い呪詛によって、仮想フィールドの生徒達に被害をもたらしたのかと。その最後の一匹も、すでにそこで死…
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