表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
4章 大学放逐編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

251/330

21.call my name from your heart

 

――どうして、お前は肝心なことをいつも言わない!


 声が、聞える。

 ああ、まただ。


(また、怒られちゃうかな)

 

 彼がリディアを見る時は、いつも怒気を募らせている。


 また……怒ってくれたらいいのに。


 リディアは、胸元に手をやる。もうそこに翠の輝石はない。ここは、シルビスだ。


 ――もう、戻れない。


 だって、伝え方がわからない。伝えればいつも間違う。


 ――なんで! お前はあの時、名前を言わなかったんだ?


 溢れてくる涙を腕で押さえる。

 こみ上げてくるものをこらえる。腕の下から頬に雫が伝い落ちる。


 ……言えるわけがない。


 初めて、名前を、誰かから尋ねられた。


 初めてだったのだ、誰かが関心をもってくれたのは。


 それは、一度はリディアを否定したひとで。

 だからわけがわからなかった。


 だっていつも、自分はいないものとされていてのに。


 きっと勘違いだ。うぬぼれちゃいけない。そう言い聞かせて。

 自分の胸にそう言い聞かせて、でも嬉しがる心が抑えきれない。


 振り返る彼の目は苛立たし気で。そのことを訊いたことを後悔しているようだった。


 言えなかった。

 

 嬉しがる心に、影が差す。悔しい。悲しい。


 きっと伝えても、それは気まぐれだ。本当に知りたいわけじゃない。


 彼がそう聞いたのは、ただの成り行きだ。本当に知りたかったわけじゃない。


 そうわかるのに、うれしくて答えてしまったら、すべてが終わってしまう。


 また、最初に戻ってしまう。


 誰もリディアを見ない。誰もがいないものとする。道具でしかない。


 期待して応えてしまったら、もう戻れない。


 ――だから言えなかった。


call my name from your heart

(こころから、私の名前を呼んで)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ありがとうございます。楽しんでいただけますように。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ