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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
1章 大学授業編
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17.彼の望み


 魔石盤に手を置くマーレンを見つめながら、それにしても、とリディアは考える。

 マーレンは水と土と木が極端に低い。かなりバランスが悪い、なんだか作為的のような。まるで、そちらの属性に嫌われているような。


(……そんなのってある?)


「ほら、やったぜ」

「やっぱり、火、金、風、がすごく強いのね」

「アンタと同じくらい光ってるだろ?」


 自慢げな様子。結構単純な性格なのかもしれない。

 でも――


(また、アンタ呼びだ)


 注意してもやめないだろうし、注意すればするほどやるタイプだ。注意喚起を保留にしてリディアは魔石の発光を眺めた。


 発現はかなり早かった。


 けれど色が――どれも発光が黄色みがかっているように見える。


 リディアが魔石盤で測った時には、白が強い光だった。同じくらいの眩しさだが、キーファもここまで黄色くはなかった気がする。


 マーレンは、色の違いは気がついていない。


 同じ風属性魔法師でも、攻撃系の魔法寄りの魔法師と回復系寄りの魔法師がいる。

 それは、様々な魔法を使った時、どちらがより高い効果を出せるかで系統がわかれるのだが、『その系統は魔石で判別できる』、と発表した研究者が十年前にいた。


 彼によると、魔石盤で魔力を測った時に、魔石が白く発光するほうが回復系魔法属性、やや黄白色く発光するほうが、攻撃系魔法属性だ、ということだった。

 ただ、視覚に頼る計測だったので客観性がなく、被験者が少なかったのと、魔石盤が廃れたので、その研究は他の研究者にも実証されず、エビデンスは乏しい、という結論になった。


 リディアは発光を見ながら、考えた末に尋ねることにした。


「ハーイェク、一つ答えて。あなた、魔法を使う時、どんな気持ちになる? 感情は制御できてる?」


 彼は押し黙り、自分の魔法盤の発光をじっと見つめる。


「――それを言ったら、アンタは俺を名前で呼んでくれんのか?」


 リディアは、彼を見つめ返す。リディアの戸惑いを感じたのだろう、彼は言葉を重ねる。


「アンタ、さっきチャスのことは名前で呼んだだろ? 気安くなれば、呼ぶんだろ。じゃなきゃ、無理に俺と距離置いてる」

「私は、教師だから。距離は置くわよ」


 チャスを名で呼んだのは、勢いだ。下着の色とか、変なこと言うから!


「ハーイェクなんて、国に帰りゃゾロゾロいすぎて、誰のこと言ってんのかわかんねー」


 マーレン・ハーイェク・バルディア。バルディア国のハーイェク家の王子という意味らしく、王子たちは母親の家の名を名前にいれるらしい。

 彼の母親の出身であるハーイェク家は国でも大きな有力貴族だと聞いたことがある。第五王子とはいえ、王位継承の順位は結構高いのかもしれない。


「俺がアンタとの勝負に勝てたら、名で呼んでくれたのかよ」


 リディアは、先制攻撃したことに少しだけ後ろめたさを覚えている。彼は勝敗の条件に何を言うつもりだったのか。

 黙るリディアに、マーレンは諦めたのか、口を開く。


「――魔法を使う時は『殺す』、それだけしか考えられねえ。『やっちまえ』、ってそれだけが頭を占めるんだ、押し付けられるかのように。あの時もそうだ、去年の団体戦。気がついたら、誰も立っていなかった、血の海だった」


 戦闘時の興奮で我を忘れる、そういう状態になりやすい者もいる。けれど思考自体が全て乗っ取られる、そんな話は聞いたことがない。


「そう。――その時のこと、教員には相談した?」


 彼は首を横に振る。その時どころか、自分のために誰かが時間を取って話をしてきたことなんて一度もない、と。


 近づくなという攻撃的な雰囲気に垣間見える孤独。

 威嚇行動をする彼に近づきたくないのはわかる。でも、彼がそれを望んでいるからだなんて、勝手に決めるのは周囲だ。


 だって、彼はこんなに――何かを、――誰かを、求めている。

 リディアは思いを込めて、言葉を紡いだ。


「話してくれてありがとう、“マーレン”。魔法の制御の仕方を、一緒に考えましょう」









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