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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
3章 課外活動編

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43.影

 暗い、暗い、闇の中。

 暑い、熱い、苦しい。

 

 いやだ、何か、くる。


 たくさんの虫。きれいな顔、こわい。


(いやだ……!)


 叫ぼうとした時、何かが額に触れた。

 途端に、何もかもが消えた。

 のしかかる闇も、たくさんの虫も……兄の顔も遠ざかる。


「重い……」


 額に何か載っている。いやだ、重い。苦情を言うようにリディアが眉間にシワを寄せると、前髪をかきあげるように頭を撫でられる。


(あ、そのほうがいい)


 ――リディア。


 そう、それは昔からの呼びかける声。


 ――焦るな。


 みんなについていけないのは当たりまえ。でも足手まといにはなりたくないから。


 ――お前のペースでいい。


 わかっている。誰が何をすべきか。どこまでやれるか、全て考えた上で配置されていた。それでも、それでも――自分の実力以上のことを示さないと。できて当たり前。無理をしているなんて見せられない。みんな余裕でこなしている。だから――。


 ――お前が負いきれなかったら、俺が負ってやる。


 でも。


 額に載せた手が言い聞かせるように重みを増す。

 リディアは答えない。そして、相手が根負けしたように再度頭を撫でる。

 リディアが寄せていた眉間を緩めると、ふっと離れる手。 


 ベッドが揺れる、横に載っていたものが離れる。

 光が差し込む、どうやらドアが開けられたらしい。

 誰かが出ていく。


 懐かしいような、寂しいような感覚。

 行かないで、と言いたくなる声を飲み込む。


 うっすら開いた瞼。

 戸口に立つ黒い影。


(……先輩?)


 呼びかけようとしたけれど、声は出なかった。



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