42.キーファと団長
キーファは個人端末を操作して、相手が出るまでの間思考に沈んでいた。
(マクウェル団長が、リディアをくれてやるとは思えない)
ディアン・マクウェルがこのことを知らないとは思えない。そして、リディアを誰であろうと傷つけるのを見過ごす人ではないだろう。
蜘蛛の魔獣に捕らわれていたリディアを助けようと同調していたとき、ディアンの感情もわずかだが感じられた。
彼はリディアを尊重している、そして大事に思っている。
それに――恋愛感情もあるだろう。誰かに譲ってやるほど寛容であるとも思えない。ああいうタイプは人一倍独占欲が強い。
(だが。彼が何者かによって――彼の行動原理は逆転する)
彼が人であるならば、人外の存在に奪われるのをよしとはしないだろう。
だが、彼があの中の渦中の存在ならば――。
リディアを手に入れられるのであれば――それを画策しているのであれば。
何者かわからない以上は、彼の行動は想定ができない。そしてニンフィアは明かさないだろう。
(ニンフィアは、リディアを救えというのか?)
キーファの主となったニンフィア・ノワールは、断片の情報をくれただけだ。
――最初はリディアに接触するのをよしとしていなのかと思った。
だがそれならば情報をくれるはずはない。好きにしろと言う。いやむしろ、やってみせろと言わんばかりだ。
――全ては、リディアが呪いを受けたことが発端。
時を遡る魔法、そして聖剣。
どちらもまだキーファは使いこなせておらず、どこまでどのようにできるかは、不明だ。
だが――。
キーファは端末を握りしめる。
時を遡り、彼女が呪いをかかることを防げば――。
キーファの手が震える。
リディアの未来は変わるだろう。彼女は今も師団で蘇生魔法師を勤めているかもしれない。大学の教員にはなっていないかもしれない。
自分とは――巡り会わない未来。
それを想像するだけで胸が痛くなる。心臓が締め付けられる。荒くなる息を整える。嫌だと、心が叫ぶ。
それでも。
『――お待たせしました。キーファ様、お父様は現在中央諸国連盟のサミットに出席中で――』
キーファは父親の秘書に口を開く。
「ああ知っている、父には後で報告をするよ。だから至急で頼みたい。第一師団のマクウェル団長に、面会を申し込んで欲しい」
キーファは硬い表情で口早に告げた。




