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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
3章 課外活動編

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35.魔法師団をさがして


 放り出された先は、うっそうと茂る森の中だった。地面に片膝をつき、吐気を堪えるウィルの周囲を取り囲む男たち。


「――動くな」


 全部で五人。黒い衣装の男たちの顔は見えない。

 ウィルが起き上がる前に、体が組みしかれて、地面に額づかせられる。


「――まって、くれ」

「見たところ子どものようだが――。一応聞いてやる。誰に命じられてきた」


 要塞は見えない。だけど師団の者たちだ。間違えていない――来れたのだ。


「団長に、ディアンに会わせろ」

「……」


 相手の返事は無言だった。ただぐいっと立たされて、背に回された両腕を縛られる。

 なんだ、これ!


 全員の黒衣装の胸元には、竜を貫く剣の悪趣味な紋章。

 ウィルはその下で、頭を抑えられて声を張り上げていた。


「だから! 団長、ディアンだよ!」

「……」


「じゃあ、副団長でもいい、それかえーと、シリル・カーでもいいし」

「もう一度だけ聞く。貴様は誰の命があってきた」

「誰からも言われてねー。ディアンに取り次げよ!直接言わなきゃ分からないっていうか。それかえーと、ディック……なんだっけ? 魔法剣のやつ、そいつでもいい」

「――バカか、お前?」


 ようやく困惑が返ってきた。人間らしい反応だ。


「会わせてくれればいいって、俺が、奴らに何ができるわけないだろ!」

「――」

「ああもう。俺は学生だって。こないだ実習来ただろ、俺の魔力派登録してるだろ!!」


 男たちは黙ったままだ。

 リディアの名前は出したくない。くっそ、長期戦か?


「ウィル、ウィルダーリングだ。いいからディアンに繋げよ!!」

「――おまえな。せめて人の名前くらい覚えろよな」

 

 突然、感情のある声――知り合いにかけるような気安いそれが、背後から飛び込んでくる。

 ぐいっと後ろに襟首が引かれる。見上げると、自分よりも更に背の高い目つきの悪い男が見下ろしていた。


「あ、えーと、ディック」

「リトラ師! こいつが、第一境界を突破し、地中の魔力導より侵入してきたので拘束しました」

「ええと、まあ、お疲れさん」


 ディックは嫌そうにウィルに目を向ける。


「おまえ、限定転移陣通ってきたな。――これまで使用した転移陣の再流用の可能性があるって、ガロに言っとけ。あと下の封印、もう一度確認」


 ディックの後半の言葉は、黒装束の男たちにだろう。


「まあ、お前が見たこと、しちまったことは後で聞くとして。んで何? 人の非番に、玄関で騒いでんじゃねーよ」


 ディックがウィルに背を向けて歩き出すから、慌てて追いかけると、透明な膜を通ったみたいな感触。

 

 気持ち悪さに顔をしかめていると、目の前には堅牢な石造りの要塞。石壁には、つぶらな瞳の竜を貫く剣の悪趣味な紋章。


 魔法師団の秘密の片鱗に触れたようで、ウィルが思わず身ぶるいしていると、ディックが「おい」と叫んだ。


 ディックが手にしている袋には、菓子や酒やリンゴやパンや、主に食料が大量に詰め込まれていた。買い出しだと丸分かりだった。


「なあアンタ休み? よかった、団長に繋いでくれよ」

「よくねーよ、俺の非番妨害してるってんだろ。それに団長にもホイホイ会わせらんねーよ」


 ウィルは周囲を見渡す。ディックが現れ、彼に任されたのか周囲は誰もいない。

 だから口を開く。


「リディアが。――ちょっとまずいかもしんねーんだよ、急ぎだ」

「は?」


ディックの沈黙は一瞬だった。入口を通ると、そこに立つ男に紙袋を渡して「保管しておいて」と頼んで、今来た道を戻るように歩き出す。


「あ、なあ」

「車出す。道中説明しろ」




ウィルは、車中で第ニ師団の実習にリディアが行ってること、そこの生徒の評判がやばいことを説明した。

 ちなみにどうしてここ(第一師団)に来たかというと、第ニ師団での実習場所を知らないからだ。

 それに第ニ師団の場所も公表がされていない、この第一師団の正確な所在地もわからないのと同じだ。


「――つってもな、リディアだってガキじゃねーし。お前より十分場数踏んでんだせ」


 ディックの台詞に、ウィルはそうだけど、と言いながらも付け加える。


「薬飲ませて、集団強姦したのも、気に入らないグループの頭潰したのも本当だと思う」


 普通だったら、女教師につけるような案件じゃない。

 サイーダに聞きに行ったら、教員誰もが怖がり、全く内部事情に精通していないリディアの領域のエルガー教授が、自分の株をあげるためにリディアを推薦したらしい。


「――リディア、お人好しだろ」


 ディックがそれには答えず、端末を操作して、誰かと通話し出す。


「ああ、俺。悪い、ちょい、聞きたいんだけどさ、アンタのとこ、学生指導誰? そうそう、ちょい調べてくれる?」


仲間だろうか。アンタのところ、っていうから第ニ師団のところだろうか。


「ヘイ? あのマート・ヘイか?」


 だが、ディックの声が裏返る。隠そうともしない舌打ち。


「いや、なんでもねー。そうちょっと気になってさ。また連絡するわ。そ、今度な」


 ディックが通話を終えると同時に、強くアクセルを踏み込む。


「やばいのかよ?」

「だな」


多くは語らない。詳しく聞きたいが、強張ったディックの顔に、それ以上は声をかけられなかった。


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