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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
3章 課外活動編

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27.やつとの対決


「――センセ。高くつくぜ」

「貸しは十分にあるわ、そろそろ返せ。十割増しで返せ」

「ていうか、魔法で殺せばいいじゃん」

「――火玉投げるより、殺虫剤が一番効くと思う」

「まあな」


 チャスと並んで歩くと、一歩遅れてキーファとウィルがついてくる。バーナビーは寝ていたからおいてきた。


 ウィルは、リディアに単独で話しかけてこない。そしてリディアのウィルに対する態度は、今までどおり。生徒が授業などで、質問するのをためらうようになってはいけない。いつもどおり何事もなかったような態度は必要。門は開いておくのだ。


 そしてキーファは、驚くぐらい今までと同じ態度だった。最初は緊張気味に挨拶をしたリディアに爽やかに笑って「普通でいいですよ」と、誰もいない時にそっと告げただけ。それ以降も、教師と生徒の距離感と話し方だ。


 ウィルの時もそうだったけど、ドキドキさせられたし、どう返事をしようかと、ここ最近眠れなかったのだ。BBQは、気もそぞろになってしまった。


(……なんか、私、ずるい)


 自分が一番楽な道を取っているみたいで、許せないような落ち着かなさ。でも「それでいいです」と言われてしまうと、どうしていいのかわからなくなる。


 ウィルとキーファは二人で並んで歩いている。それぞれの告白は嘘だったのじゃないかと、自分だけが意識しているような気分になってきて、どうしていいのかわからない。

 ことさら背中の向こうを意識しないようにして、リディアはチャスとの会話に集中する。


「――センセ。二人のこと気にしてる?」

「え、え!?」


 と、チャスが目をくりくりさせて不意に顔を近づけて、笑いかけてくる。


「朝はふたりとも変な緊張があったけど。バーナビーがそれを指摘してさ。そしたら、今はいつも通り」

「……そう」

「まあ、どういう取り決めをしたかは、しんないけど。ほっといてもいいんじゃん?」





 生徒を引き連れて自分の研究室に戻ると、サイーダと用務員がいた。


「ああ、ハーネスト先生。ゴ○ブリって、どの辺りにいましたか?」

「あの本棚の下に入っていきました」


 スプレー式殺虫剤手にする用務員にリディアは説明する。その後ろにいる生徒に、サイーダが目を向ける。


「あら、ウィル。元気?」

「ちーす」


 ウィルは軽い口調でサイーダと話している。


「サイーダセンセ。いつも美人すね」

「チャス。ほんとのこと、ありがと」


 チャスのセリフは結構本気が入っている。ていうか、そういうこと言える男子だったのかと驚く。

 男性が好みの女性に見せる態度の違いって面白い。彼は絶対にリディアにはそんなことを言わない。サイーダが好みなのだろう。


「――ブライアン先生。こんにちは」

「キーファも元気そうね」


キーファは、教師に接する見本のような礼儀正しさ。最初の頃のリディアに対する態度と同じようにも見えるが、やっぱり気安さはある。

 サイーダは、二年生の必修授業の基礎火系魔法論も教えていて、その頃からの付き合いらしい。


「――っ、やあああっ!」


 と、黒い影が床の端を横断してリディアの方に来るから、叫んで思わずキーファの後ろに逃げ込んでしまった。


「来た、来たよっ!!」

「先生。あちらに行きましたよ」

「まだいる!!?? まだ死んでいない!?」


 キーファの背中越しにそっちを覗き見ると、用務員さんはスプレーを構えているのにへっぴり腰だ。

 

 え、苦手なの!? 

 そのままヤツはコピー機補充用のA4用紙を詰めたダンボールの下に潜り込む。


「――リディア。部屋から出てればいーじゃん」


 ウィルに呆れたように言われる。


「いても役にたたねーし」

「う……」


 何も言えない。


「私会議だから。あとよろしく」


 サイーダが迷うリディアを残して、MPと大量の資料を片手に部屋を出ていく。

 あ、ちょっと待って。自分が部屋をでたら、部屋の住民がいなくなってしまう。


「サイーダ先生。それ俺、持ってあげてもいーよ」


 チャスがサイーダを追いかけるように出ていってしまう。うん、チャスのそんな親切初めてみたぞ。

 若干逃げたんじゃないかと疑うが、こんなに人数はいらないかもしれない。


 ウィルがリディアの後ろから前に進み出て、スプレーを用務員から受け取りヤツのいるダンボールに吹きかける。


「見なきゃだめ? 見なくてもいい!?」

「見なくていいですよ」


 キーファの声に甘えて顔をそむけていると、何かパシって言う音がして「殺した」とウィルの一言。


「え。殺したの? 死んだの?」

「ティシュある?」

「好きなだけ貰って」 


 どうぞどうぞ、とボックスティシュを差し出すと、ウィルの手には雑誌を丸めたもの。


「ねえ。まさか……」

「これで叩いた」

「……こ、来ないで!」 


 ウィルのしかめた顔に、リディアは顔をそむけながら謝る。


「ごめん、でも無理!! 殺してくれてありがとう。でも、その雑誌どうするの!!」

「捨ててくる」


 慌ててリディアはコンビニの袋を彼の背中越しに差し出す。ヤツは見ない。


 ウィルはティシュで掴んで、ビニールに入れて、雑誌も片手に部屋を出ていく。

 なんて手際の良さ。なんて男らしい。


 用務員とウィルが一緒に出ていった部屋に、リディアとキーファは二人きりで残された。


今どき、”男らしい”は使ってはいけないですね。

でも(リディアにとって)ウィルはかなり株をあげたんじゃないかな。

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ありがとうございます。楽しんでいただけますように。
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