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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
3章 課外活動編

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23.チャス

「ロー!! 待って」


 チャスは、ロッカールームから荷物を持って出て廊下を歩いていたところを、追いかけてきたリディアに捉まった。キーファと何か話があるみたいだったから、席を外したのだけど意外にすぐに終わったみたいだった。


「あなた、体調は大丈夫? 怪我をしたのだから、医務室に行く?」


 チャスは手をひらひらさせる。


「怪我もないのに?」

「怪我をしたショックは身体に残っている――わけではないけど、痛みや怪我の記憶があるでしょ? それが自分でも気がつかないうちにダメージになるところもあるし」

「んー?」


 正直面倒だった。疲れているし、帰ってネットの漫画も見たいし。


「センセの膝枕」

「……え」

「あれって、なんで?」

「――なんで、かしらね」


 リディアは眉を八の字にまげて、困ったように腕を組んだ。


「寒いかな、とか」


 チャスは吹き出した。


「だせえ理由!」

「え、な、なによ」

「いいよ、俺帰って寝るから」

「それと!」


 リディアはじっと見上げてくる。暗い廊下で見ると、濃い翠の瞳に吸い込まれそうだった。


「あなたエルガー教授の研究に協力しているでしょ? 研究所では問題ない? 教授はどう声をかけてくれる?」

「どういう意味?」

「論文読んだけど、ずいぶん被験者の拘束期間が長いし。それに今度は魔獣を使うって計画書にあったから。あなたの同意の上だとは思うけれど――私も今度研究所に同行してもいい?」

「は? なんで?」

「別にやめさせようとかじゃないけど。あなた結構一人で解決しがちだから。実験中、教授はフォローしてくれる?」

「――顔、みせたことねえし」


 リディアは、顔色も表情も変えなかった、ただ真剣な表情で見つめてくる。


「次、いつ行くの? 私も行く」


 チャスは、ええと、といいかけて黙る。


(……なんだよ!)


 自分は平気なのに。金もらえるし。ほんと、実験動物みたいなもんだし。


(あの、傀儡人形と――同じ)


 でも、この人は、ちゃんと人形を大事に扱っていた。命がなくても、かりそめの命の存在でも、丁寧に尊重して扱えと、それをチャスに伝えたのだ。


 リディアが人形を丁寧に箱に収めて、失った片目をガーゼで覆っていたのを見た。


「来週の水曜、午後六時」

「わかった。教えてくれてありがとう」


 にこっと笑った時、初めてちょっとかわいいじゃんと思った。


 全然好みじゃなくて、自分はもっと大人の美人――たとえばサイーダみたいのが好みで、ウィルや、キーファが好意を持っているのも全然理解できなかった。 

 むしろ特別扱いされている二人を見て、不公平だと面白くなかった。



***


 チャスは、大学構内を出て個人端末の操作する。


「なあ、俺」


 通話の向こうの相手は、少し声が遠い。国外だからだ。


「言うとおり、やったよ。そのせいで俺が呪いにかかったんだけど。マジ死にかけたけど、話違うし」


 あまりにも冷静に指摘する声に、はいはいはいと言いながらも、胸がなんだか冷えていく。俺はなにやってんだろ。


「そうだよ。センセは、自分が呪い被ってたよ。アンタが、予想したとおりにね」


 そうだ、やっぱり、自分は。


「金は早く口座に入れてよ。それからもう――やんないからな」


 金さえもらえればいいと思っていた。

 

 けれど――もう、やらない。


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