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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
3章 課外活動編

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18.キーファの主


(……生まれてきちゃダメなの?)


 誰かにみてほしい。


 誰かに笑って欲しい。


 優しく頭をなでて欲しい。


『あなたは、立派な淑女になってよい縁組みをもたらすの。そしてお父様とお兄様のお役に立ちなさい』


 それがあなたの役目なのよ。


 母がリディアの髪をつまむ。『濃い髪ね』とため息をこぼす。

『これでは、よい方に見初められないわ』

 早く大きくなりたい。早くお嫁にいきたい。役に立ちたい。なのにまだ小さい。まだ役に立てない。


『これでは誰にも貰って貰えないわ』


 早くお嫁にいきたい。

 でも小さすぎて、無理なのだ。だから兄に嫌われる。皆に見てもらえない。


 だから嫌われる。

 涙が滲んでくる、周りに虫がいっぱいいる、埋もれて死んでしまうかもしれない。けれど悲しい。

 

 何かが手を掴んでくる。怖くて身体をすくませる、強引な力で引っ張ってリディアを抱きしめる。最初は、また怖いことをされると思った。けれど、ただぎゅっと抱きしめてくるだけ。


(おにい…)


 兄が来てくれた、と思ってすぐに違う、と悟る。兄じゃない、でも誰か。


 目を開けると、誰かがいた。恐らく人だ、兄と同じくらいの背丈。

 彼がリディアを庇ってくれたようだ。


 けれどいきなりその人が手を離し、そして沢山の虫が彼の方にうごめいて移動していく。


(だれ?)


 そう思ってすぐに怖くなる。

 埋もれていくその人を見て、慌てて叫び抱きつく。しんでしまう、だめ。


「――だめ、だめ!!」




 ***




 女の子の声がする。そして小さな手が触れてくる。キーファの顔から虫を何度も何度も払う。


「だめ、だめ。だめ!!」


 それまでただ耐えるだけだった女の子が、キーファを庇おうと虫を何度も何度も手に掴んで、外そうとして泣いているのだ。


 リディアがキーファの垣間見た顔を守るように、小さな手で抱き寄せてくる。


「おねがい、やめて。たすけて」


 離そうとしたのに。どうして、また自分を守ろうとしてくるのか。


(あなたは……)


 キーファは、思わずリディアを抱きしめていた。


“――見放セ”


 もはやこれから力が借りたいのかさえ、わからなかった。いや、後悔さえも湧いてくる。

 キーファは心を静める、そして言いはなった。


(お前の力はいらない。自分の力でこれを祓う)


 声が黙る。

 まるで何を聞いたのかわからないとでもいうように、ソレからは戸惑いを感じた。


 キーファは目を閉じる。

 自分の中の魔力を感じる、あの時と同じだ。


 ここに六属性はいない、だが自分の中に魔力はあるのだ。

 キーファは、扉に描かれていた魔法の相関図を思い浮かべる。錆に侵され消えかけている六属性、それは自分の魔力の関係図なのか?


 ――円陣に描かれた相関図。


“世界ハ円盤ナリ”


“循環サセルモノ”


 そこから連想させらるのは? ――それは、六属性の循環のことか?

 

 キーファの中で、何かが繋がりそうになる。だがそれらをひとまず置いて、キーファは意識を集中させる。


 手を宙に伸ばし、何かを掴む。そこには、聖剣バルザックが現れていた。


“——剣ヲ 呼ビ寄セタ?”


(ここは、俺の中なのだろう? ならば、何でも出来る)


 キーファは冷ややかに言い放つ。彼女を助けられない力などいらない。自分で何とかする。


“――穢れを祓う粛清の力。生命の理からはずれしものよ。哀れな魂を祓う力を”


 キーファは、過去に聖なる光を祓ったことを思い出す。今、ここに聖剣を呼び出したのだ、ならば、なんでもできるはずだ。


 キーファの手から光が溢れ出し、バルザックに流れこむ。



 ***



“――やめよ”


 唐突だった。


 キーファの目の前には、黒髪の壮絶な美貌の女がいた。腰までのつややかな髪、憂いを帯びた黒い瞳の中で、きらきらと白い光が踊る。長い爪は赤く整えられて、白磁の肌を見せる腕が、キーファの剣に手をかけて制止する。


 背が高い方だと思っていたキーファよりも、更に高い背丈。いや全体的に一回りほどサイズが大きい。だが均整が取れていながらも女性的な特徴がはっきりした肉感的な完璧な容姿で、何よりも放つ気配に存在感がある。


「なぜですか?」


 そのような存在に対しても、キーファは臆せず淡々と問いかける。

 キーファには、彼女がこれまで声を放ち、自分に試練を与えていた上位の存在だとわかった。


“――まだ早い”


 艶やかで滑らかな声。先ほどまでのつたなく、感情のない造られた声ではない。

 キーファは頷いた、だが剣はまだ放さない。


「早くても、必要ならばやります」


 女はため息を漏らした。「仕方がないのう」そう呟く。まろやかで魅惑的な響きだった。


”――聖が増せば、邪を刺激する。まだ目覚めさせたくない“


 彼女は、意識を失っている幼いリディアの顔を覗きこむ。


“――これは過去。この娘の過去は変えられぬが、少しだけこの間の時間を早めてやろうぞ”


 長い爪を持つ手が、幼女の頭に触れる。


「何をするんですか?」


 声を潜め警戒を見せるキーファに、女は「悪いようにはせぬ」と告げる。


“――次に目覚めたら、半日後じゃ。時を飛ばしてやっただけのこと”


 そうしてキーファが何かを答える前に、空間に白く光が満ちた。

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