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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
1章 大学授業編
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6.ココの地雷


「あのねえハーネストさん。言ったでしょ、一番安いのでいいの」

 

 会議が終わって、リディアはもう一度エルガー教授に直談判をしていた。ひどいロッドの見本も持参して示してみる。

 一応、先程間違えられた名前は直っていた。気づいたのかな? 気づいていないかもしれない。


「これですよ、これ」

「あら、シンプルでいいじゃない」


 うそでしょ?

 この割り箸デザインで?

 

 しかも、魔力を込めてみるとわかる。これ、粗悪な合成だ。

 廃材を集めて固めたもの。魔力がまっすぐに伸びないし、魔力伝導も悪いし、すごく気持ち悪い。


「耐久性もないですよ」

「どうせ、授業と実習だけですもの。そんなに使わないから平気でしょ」


 授業――? つまり演習だよね。

 演習って、自分以外誰もやらないよね。

 

 つまり、私の授業でのこと?


「授業って、ロッドを使って、ですか?」

「そうよ、何言ってるの?」

「いいえ、あの。私、ロッドの必要性がわからなくて」


 ロッドを使って魔法を教えるの? ロッド不要派としては、非常に不本意だ。


「ハーネストさん、あなた、何言ってるの!? 魔法師でしょ、しっかりして頂戴、魔法師でしょ!!」


 思い切り、目を見開かれて怒鳴る教授にリディアは圧倒された。

 

 いいえ、ロッドの意義はわかりますよ。

 でも私は、それに頼る弊害もあると思っていて――。

 

 そんなことは言えなかった。

 

 この人大丈夫? と、信じられないものを見るように、教授はリディアを見ていた。


 リディアが、「この人魔法師?」と思ってしまったこと。

 批判は気をつけないと、回り回って自分に返ってきてしまうのかもしれない。

 







「エルガー教授は魔法師の経験がないから。ずっと教育ですものね。ハーネスト先生は実戦向きでしょ。だから話が通じなかったのでしょう?」


 フィービーに慰められる。

 そうかもしれないけれど、そうじゃないかもしれない。

 上手く伝えられなかったことが原因かもしれないが、そもそも聞く気はあちらにはなかった。

 

 ――要は、自分の失言だ。よけいな事を言った。


「ハーネスト先生はエリート部隊にいたからロッドが不要だったかもしれないけれど、ロッドを使うのは基礎だから。応用をいきなり教えても学生には対応できる子とそうじゃない子がいるからね」


 サイーダにさらりと言われる。エリート部隊、その揶揄には少々ひっかかったけれど。



「確かに、基礎と言われると。……そうですね」


 ロッドを使うことがまずは基本だから。

 そう言われればリディアも教える必要性がわかる。


「けれど、苦情がくるから一番安いのを買わせるって言う理由に納得できなくて」


 それって、誰のため? 学生のためではなく、自分のためだよね?


「エルガー教授は、責任者だから。リスク管理も当然でしょう?」

「……」


 そういう考え方もあるのか。


「いくら安いとはいえ、粗悪なものを三千エンも出させて買わせるのも、私がそう勧めなければいけないのも納得いかなくて」


 せめて教授が勧めてくれればいいのに。


 けれど、勿論そんな雑用はリディアの担当だ。粗悪なロッドを使う演習も、リディア担当だ。




 販売業者には、今週中に注文をしなければいけないから、考える時間もない。


 ――業者に電話をかけながら、リディアは考える。



 何も気づかないふり、知らないふりで、上の命令どおりに安い粗悪なロッドを購入させてしまえば楽だ。


 学生も初めてのロッドだから、違いがわからないだろうし。



「――すみません、グレイスランド王立大学の魔法学科の教員、ハーネストと申します。ロッドの注文のことですけれど。はい、そうです、注文期限を少々待ってくださいませんか」


『ええー? 今一番忙しい時期なんで。納入が遅れますよ?』


「申し訳ありません。ところで、この三千エンのロッドって合成木材ですよね? 耐久性どれくらいですか」


 そういうと、担当者に回しますとのことで、しばらく待たされる。


『そうですねー、やはり合成なので、そんなには。できれば八千エン以上からのものを買われることをお勧めします』


(ですよね)


「学生が買うものなので、あまり高いものは勧められなくて」


『そうおっしゃられる学校の先生が多いもので。ですからその安価なものを、うちも製造をやめられないのですが。やはり胡桃かオーク材などをお勧めしますね』








 リディアの仕事は、朝の一時限目前から始まる。外部講師の先生のためのお茶の準備、そのお湯を沸かすために、八時には大学に着かなきゃいけない。

 

 授業資料作成のために、朝の四時まで起きていたから二時間しか寝ていなくて辛い。

 

 でも来週から授業が始まる。学生以上に大変だ。

 部屋に着くと、フィービーがすでに仕事をしていた。


「おはようございます。早いわね」

「先生も。いつもそうなんですか?」


「ううん、昨晩泊まったの。学会の編集委員の仕事が終わらなくて」


 リディアは息を呑んだ。

 学会の編集委員は大学の仕事じゃない。けれど、大学以外の仕事もしなければいけないのだ、徹夜してでも。


「昨晩、私が帰るときにはいらっしゃらなかったですよね?」

「一度夕食食べに家に帰ってまた来たのよ」

「あの、お体を大事になさってくださいね」


 リディアもそれ以上踏み込めない。

 まだ親しくないし、距離感がわからない。


 部屋を出て教室に向かおうとすると、呼び止められる。


「ハーネスト先生。あのね、昨日のことだけど。……あまりロッドを使わないとか、魔法師団のこと、言わないほうがいいと思うわ」

「……」

「……サイーダは、あまり気にしない性格だけど、引っかかる人もいるかもしれないから」


「そう、ですね。ありがとうございます」


 確かに、サイーダはあの時、何か挙動が変だった。リディアの言葉に引っかかったのかもしれない。


(訊かれたから答えたのだけれど、答え方に気をつけないと)


 息を吐いて、気合を入れなおす。


 睡眠が足りていないから、あまり頭が働かない。しっかりしないと。


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ありがとうございます。楽しんでいただけますように。
― 新着の感想 ―
[良い点] 仕事のトラブルがとってつけたようなものではなく、とてもリアルで、ああ、こういう人と一緒に仕事をすると大変だよなぁ……と何やら色々と思い出してしまいますね。 それに対する周りの同僚の反応もと…
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