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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
2章 魔法実戦実習編
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23.王子と従者

 マーレンは、空中を漂い追いかけてくるうざい親指ほどの虫を握りつぶした。


「弱いヤツは死ぬ」


 マーレンの手ごと火が燃え上がる。なのにマーレンは熱がることもなく、ただ火が消えるまで、拳を握り締めいていた。


「殿下、こんなところにいましたか」


 背後にヤンが控えていた。どこへ行っていたのか、どうせ聞いても答えないし、どうでもいい。


「知らせが来た。第二、第四、第七王子が死んだ」

「そうですか」

「知っていたんだろう?」

「殿下とほぼ同時に知らせを得ていました」

「こいつ。こんな不毛な地で生まれついたのは、哀れだな」


 マーレンは砂地を這っていた鼠大の蜘蛛を踏み潰す。ヤンは、冷めた眼差しで同じように死骸を見やる。


「父上はなんと?」

「――まだそんなものか、と」


 マーレンは空ろともいえる眼差しで、空中を見据える。


「あの人は、王子全員が死ねばいいと思ってるからな」

「――殿下」

「永遠に玉座を手放す気はねえだろ。不老不死の薬を諦めた代わりに、若返りの薬にハマり中か」


 マーレンは、死骸を蹴り飛ばし、砂地を歩き出す。


「お前はいつまでついてくる気だ。さっさと国に戻りたいだろうが」

「今戻れば、即暗殺の標的になりますよ」

「全員死んだ頃に戻れば、必然的に王太子の椅子が転がりこんでくるか?」

「それも有効な手です」

「お前は俺も殺すんだろ。そして影から日向に出る」

「僕は生き残りたいだけです」


 否定をしないヤンにマーレンはカッとなる。顔を赤く染めて、睨みつけたがヤンはマーレンに掌のものを差し出しただけだった。


「いらねーよ」

「……さっさと片付けて、国に戻りましょう」

「こんなの飲まなくても、俺は自分の実力で倒せんだよ」

「そうでしょうとも」


 感情のこもらない声に、マーレンはヤンの掌から真っ青な親指の爪ほどの大きさの石を取り上げて、飲み込む。


「先ほど、ケイ・ベイカーが偽物を持っていましたよ。哀れなものですね」

「こんなもの規制して、どうすんだ」


 マーレンが服用したのは純度の高い魔力増強薬の結晶だ。

 自国では混ざり物のない正規の魔力増強薬など誰でも気軽に買える。ただ結晶化されたものは高価で、よほどの金持ちではないと常用できない。しかし王宮では、こんなものは日常的に飲まれていた。


 ――段々と魔力が高まる感触がある。身体中から力が溢れていくようだ。

 高揚感が抑えきれない、なんでもできる気になる。


 自分ならば、自分ならばと。


“――殺せ、殺せ、殺せ、見せつけろ”


 マーレンは、手にしていたロッドを見おろす。


 なんだろう、なにか大事な事を忘れている気がする。大事な約束――。

 マーレンは眉を顰めてこめかみを押さえる。


”お前は強い、見せつけろ。すべてに。殺せ、魔法を解き放て”


(流されるな、抑えろ。違うだろ、俺は――)


「殿下。それをお渡しください」


 マーレンはそれを見るとうずく感情を持て余し、ヤンにロッドを渡す。

 シンプルで飾り気のない安物。


 ただ、そのデザインは手掘りで、何か温かみがあって――。


 奥の方で他の奴らが騒ぐ声が聞こえる、それから魔獣らしきもの達の雄叫び。


「俺が、全部終わらせてやる」

「全部殺して、おしまいにしましょう」


 ヤンにけしかけられて、マーレンは硬い顔で頷く。


 ヤンを置いてマーレンは歩み去る。一度止まった足がわずかに考え込むようだったが、今度は力強く砂を踏みしめて行く。


「――こんなもの、必要ないですね」


 ヤンは、マーレンから預かったロッドを両の手でボキリと折って、砂の上に放り投げかけて――直前で動きを止める。


 わずかに考えこむように軽く頷くと、無表情を顔に貼り付けて、折れたそれを懐に入れた。


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