第1幕
私は廃校になった、とある学校の旧校舎へ来た。突然行方不明になった従兄を探しに。東京からは新幹線に乗ってきた。ここは中国地方の某県某市の山岳地域にあたる所だ。新幹線のなかで、私は従兄から聞いた話を思い出していた――
従兄はこの地域の小学校で教員をしていた。従兄がそこの教員になって3年、旧校舎から新校舎へ学校が移転した。
旧校舎の建て壊しが決まっていた春の矢先だ、従兄の担当するクラスで奇妙な出来事があった。
クラスの児童が行方不明になったのだ。一気に3人も。3人はクラスでもやんちゃな仲良しグループで何でも「旧校舎におばけがでるらしいから、みんなで肝だめしに行こうぜ」と再々話していたらしい。
1週間経っても戻ってこない児童の親は耐えかねて、自分たちの子供を探しにでたらしいがその親までも行方不明となった。
ここまできて警察が動かないわけがなかった。噂が噂を呼び、巷では従兄へのあらぬ噂話まで持ち上がるようになった。従兄がサイコパス犯で児童とその親を殺害し、その体を解体して山に捨てたというのだ。
根拠はその児童グループが授業の進行を妨害していることにあった。この件で教頭先生に度々相談をしていたのを見かけられたとか。
しかし小さい時から心優しかった従兄がそんなことする筈もない。町の多くの住人は行方不明になった児童も親も何らかの事故に巻き込まれて亡くなったものだと認識していた。あらぬ噂は心無い地域住人の仕業。そうだと言い聞かすしかなかったし、周囲もそう言って彼を励ましてくれていた。
ある日、そんな従兄の耳に奇妙な情報が入った。行方不明になった児童たちも親も真夜中遅くに取り壊しが決まった旧校舎の中へ入ったというのだ。そういえば確か、そんなことを話し合っていた彼らではあるけど……従兄は1人、教員室で項垂れていた。
「K先生、抱え込みすぎですよ」
昨年から従兄の働く学校の教員となったY先生が、従兄の肩をポンポンと軽く叩いてホットコーヒーを差し出してくれた。
Y先生は従兄と同じ5年生のクラスを受け持つ教師。従兄より1つ年上の彼女だが、教員を目指すアカデミーにて共に教師を目指した仲でもあった。不思議な運命とはあるもので、従兄の赴任する小学校に赴任して一緒に教鞭をとることになったのだ。そんな彼女が従兄を気に掛けないわけがなかった。
「Kさん、いけないこと考えているでしょ?」
「いけないこと?」
「取り壊しが決まっている旧校舎にいこうとしているんじゃないかと思ってね」
「!?」
「あら、図星なの」
「そ、そんなこと僕は考えてなんて……」
「私のクラスでもね、話題にしているコたちがいるの」
「え? 何を?」
「旧校舎のおばけ、みられるんじゃないかって」
「なんだって」
「ほら、私だって悩んでいることはあるの。一人で抱える事はやめましょうね」
「Yさん、まさか旧校舎に行くつもりでいるのか……?」
「実はA君たちの目撃情報を持っている人にうまく許可をとることができてね」
「目撃情報を持っている人?」
「用務員のTさんよ。Tさん、旧校舎の近所に住んでいるのだって。私が調査を進めているうちにわかったの。あっさり色々話してくれましたよ。Tさんも一緒に来てくるみたい。で、Kさんはどうするの?」
「ていうか、決定事項なの!?」
従兄が全く思ってもない事に事は展開されていた。彼は驚くしかなかったが、彼としても満更ではない。もしもそこに真実があるならば、彼はそれを暴きたいと思ってやまなかったからだ。彼がこの話をしている時、それはどこか興奮しているようで、どこか自分を護っているようですらあった――