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第59話 木刀練習

 とりあえず明日の模擬戦までに木刀に慣れるため、童子切を使用せずにダンジョン攻略をする。重さや、リーチの感覚を覚えるためだ。

 どんな人間相手にも容易に手加減を加えられるレベルにまで達さないと。レオの兄もだが、今後の対人戦への備えでもある。全力を出してしまったが故に殺人など、あってはならないから。


 以前、武器を持った人型の扉の守護者(ヴェヒター)がいるというのをエミリーから聞いたことがある。確かオーガだったかミノタウロスだったか。それなら練習相手に丁度いいと考え、今日と明日でスピード攻略することを決めたのだ。それが待っている十五階層のボス部屋までは時間が掛かるだろうから急がないといけない。


「エミリーと数回潜って大体の道は覚えてるから、最短ルートで突き進むか」


 明らかな初心者冒険者をひょいひょいと追い越し、低階層を駆け抜ける。時折飛び出してくる魔物は木刀で殴る。大抵は一撃でダウンし、魔石へと変わった。小さく体重の軽い魔物はホームランの如く遠くまで飛んでいった。


 レオと別れてアルトナー家に寄って、夕方からダンジョンに入った。そのため八階層の途中で日が落ちはじめ、急いで扉の守護者(ヴェヒター)を倒して九階層を少し進んだところでこの日の探索は終えることにした。飲水が湧く、小さい泉のある安全地帯は使わない。その場所は魔物が入り込めず襲われないため、多くの冒険者が一夜を過ごそうと集まっているからだ。

 だからあえて安全地帯から離れた人気のない場所でマイルームへと続く扉を出現させて中へ入った。


「この木刀、結構頑丈だったな」


 リビングのソファに座り、右手に持った木刀をテーブルにぶつからないよう軽く回してみる。刀身に細かな傷はついているものの、折れる気配はない。

 六階層の扉の守護者(ヴェヒター)、ホワイトラビットも木刀を振り下ろすだけで簡単に討伐できた。その扉の守護者(ヴェヒター)は大きいうさぎ型の魔物で、前にエミリーが杖で撲殺していたのが記憶に残っていた。だから俺もそれに習って木刀を振り下ろしまくって倒した。見た目のせいか、少しの罪悪感が胸に残ってしまったが。


 それから暫く木刀の手入れをした後に風呂にゆっくり浸かって、晩飯はカップ麺を食べて就寝した。


 朝。日が登る前に起き、ダンジョン攻略を開始した。

 移動は小走りで、極力魔物は無視して進んだ。そして昼には目的である人型の扉の守護者(ヴェヒター)がいる十五階層へと降り立った。


 思う存分練習出来るという期待に移動の足が速くなるのを構わず進むと、フィールド半ばで見覚えのあるパーティーの後ろ姿を発見した。

 見つからないように遠い位置の木の陰に身を隠し、会話が拾えるよう耳をそばだてる。


「今日中に十八階層まで進みたいわね」


「行けますかねー。扉の守護者(ヴェヒター)こっから強くなりますよ」


「レーネ、疲れて、ない?」


「私は、大、丈夫」


 プテロスティリスの面々だ。あのハメられたゲーム以来だから、俺としては会いたくない。見つかりようものなら、死ぬまでイジられそうなのだ。あの時の罰ゲームはまだ有効だからと言われ、クラリッサにひん剥かれるのは勘弁したい。もしそうなったら、リーゼとレータレーネもゾンビのように手を伸ばしてくるだろう。そして体中を隈無く触られるのだ。


「もちろん知っているわよ。それにしてもリーゼ、アンタ生意気な口を聞くようになったじゃない。私はただ順調に進めた先の話をしようとしていただけなのに」


 金髪を揺らし、リーゼを睨みつけるクラリッサ。対してリーゼは横に構えた大盾を正面、先頭を歩くクラリッサへと向ける。


「い、いえいえ、ボス。別に否定したわけじゃなくてですね、その、あくまでも事実を……とういうか、そう! 今日何食べます!?」


「リーゼ、苦しい」


「私、雪菜草のスープ、食べ、たい」


 何やら噛み合わない会話を繰り広げる彼女達。ちょっと楽しそうだ。


 彼女達が見えなくなるまで時間を潰そうかと思った時、後ろに着いてくるリーゼへ身体を向けているクラリッサの進行方向斜め前の木の上で何やら蠢くものを発見した。

 俺は咄嗟にボックスから投げナイフを取り出し、かなりの速度で投擲する。


 その投げナイフは体長五十センチもある蜘蛛型の魔物の腹に突き刺さり、糸を引いて下りてくる途中だった魔物は木の幹に張り付けにされた。


 やってしまった。

 クラリッサの危険を排除するためだが、大胆な行動を起こしてしまった。気づかれなければいいのだが。


 ナイフが当たった音に、プテロスティリスの全員が蜘蛛型の魔物へと視線を向ける。中でもクラリッサの反応は顕著で、厳しい眼光になり、スッと眉を顰めた。


「もちろんこの魔物が近づいた瞬間に真っ二つに斬ろうと思っていたのだけれど、誰? わざわざナイフを投げたのは?」


「私じゃないっすよボス!」


「私でも、ない」


「後ろから、飛んできた」


「そう。……敵かもしれない! 皆、気を引き締めて!」


 クラリッサは双剣を構え、リーゼは盾を、レータとレーネは杖を構えて後ろを警戒する。一同臨戦態勢だ。まさに一触即発。俺が姿を表そうものなら、一瞬で三枚に下ろされる。そんな気がした。


 木の陰に隠れ動けずにいると、段々とプテロスティリスが近づいてくる。


「いい? リーゼを先頭に、レータとレーネはいつでも攻撃魔法を打ち込めるように構えていて。私は背後を守備するわ」


 「「「はい(ボス)!」」」


 大盾を持つリーゼを核に、守備に特化した陣形を作り、ナイフを投げた不審人物(俺)を追い詰めようと近づいてくる。上級パーティーである彼女たちならば、どんな相手でも鎮圧、拘束が可能なのだろう。だが、俺はこれでもscoをやりこんでいる。自分より強いプレイヤーなど腐るほどいた。そんな化物じみた奴らに気づかれないよう情報を探るなどもしたことがある。美味いレベル上げポイントや合成用レア消費素材群生地の場所などだ。


 そして斥候役をやるが、大体は――――殺された。


 だってあいつら容赦なく課金アイテムで殴ってくるし。俺も前線で戦うスキルばかりを揃えていたから、すぐに見つかるし。

 とにかくまぁ、こう人に追い詰められた場合の逃げ道なんて無いということだ。


「クソ、どうする……どう切り抜ければいいんだ……」


 必死に解決法を模索するが、良い案はそうそう思い浮かばない。土下座で彼女たちの前へ飛び出すとか、木陰から大声で『勝手なことしてすいませんでした! 見逃して下さい!』と全力で謝る等、ネガティブな案ばかりが浮かんでは消え、精神的に折れそうになるばかりだった。


「あれ、そういえば……昔対策用意したような……」


 そうだ。数々の失敗ののち、試行錯誤で策を考えたじゃないか。あれならいけるかもしれない。それでもまだ決め手に欠けるかもしれないが、もうそこは秘技との合わせ技しかない。

 よし、恥を捨てて全力全開で後退だ!


 肺がいっぱいになるまで酸素を吸い込み、思いきり野太い声で叫ぶ。


「クラリッサちゃん可愛いんだなぁぁあああ! クラリッサちゃんのためなら何でもするでゴザルぅぅぅうううう! 僕が守るんだなぁああああ!!!」


 そう言い放ち、タイミングよくボックスから取り出した灰色の球体を地面に叩きつけた。瞬間、俺の周囲は煙幕で視界が閉ざされた。


 これが秘技、『キモオタボイスでアイドルにすり寄る好意の押し付け作戦』だ。距離感を間違えているので相手からは嫌われ、遠ざけられる。ちなみに、煙幕を使って廃人プレーヤーから逃げ出そうとした時は、普通に背中から叩き斬られた。初心者ではいざしらず、スキルが充実した奴らには全く効果が出なかったのだ。


 心中で、身体強化、脚力強化・中、ブレイブ・ハート、肺活量up、高速移動と唱え、スキルを発動した。この世界ではデフォルトの状態でも余裕と思って生きてきたが、この時ばかりは全力を出さずにはいられなかった。


 煙に隠れ、高速で後方へと下がる。


 「んなっ! 誰よ! 助けたつもりになんかなっちゃって! キモいんだよ死ね! 絶対殺す!」


 双剣を振り回して煙へ突撃しようとするクラリッサは、リーゼに羽交い締めにされ、レータとレーネにも両腕を強く掴まれていた。


「たしかにキモいっすけど、ボス! それ以上に危険ですって!!」


「得体がっ、しれない、近づくの、危ないっ」


「早く、逃げよう、関わりたくない」


 途中、プテロスティリスの面々の野次が聞こえたが、無視をして逃げる。散々な言われようだったが、俺だと知られない限りどうってことはない。熱心なクラリッサファンが勝手にやったことにした。架空の人物に全てなすりつけたから、大丈夫だろう。


 でも少し泣きそうになった。




 プテロスティリスが見えなくなるほどの後方。巨木の上に俺は立っていた。


 スキル、猛禽類の黒星眼テレスコープ・オブ・ザ・オウルを発動。これはワシミミズクが上空から小さい獲物を狩る時のように、到底人間では敵わない程の視力が手に入る。数百km先の米粒まで見ることが出来るようになる上位スキルだ。

 それを使い、プテロスティリスを視線で追うと、扉の守護者(ヴェヒター)がいる部屋までの最短ルートと思われる獣道を全力で駆けているのが見えた。しかめっ面のクラリッサと、困り顔のリーゼ。表情が変わらないレータとレーネ。さすが冒険者というべきか、常人では出せないスピードだ。そして、定期的に後ろを振り返り、警戒する。

 そんな彼女たちの、まるで変態に追われているような走り方に、作戦は大成功したと感じられた。だが、達成感は一ミリも感じられなかった。


「そんな……そんなに気持ち悪かったのか……」


 俺の頭は自然に垂れ、体の力が抜ける。背中を幹に預けたまま、ずるずると太い枝の上に座り込んだ。



 先頭を走るクラリッサは、謎のストーカー男に悪態をつく。


 「本当に気持ち悪い。次に現れたら手足をバラバラに切り刻んで生きたまま魔物の餌にしてやるッ」


 ストーカー男が投擲した投げナイフを右手にしっかりと、いや、血管が浮き出るほど強く握り締めるのだった。




 少しの時間休憩し、プテロスティリスが次の階層へといなくなったのを見計らってから扉の守護者(ヴェヒター)へと挑んだ。


 十五階層の扉の守護者(ヴェヒター)はエミリーの言ったとおり、人型の魔物だった。それは二メートルはあるミノタウロスで、戦斧を振り回して攻撃するタイプだった。

 ミノタウロスが襲い掛かってくるが、俺からは殆ど攻撃せず、相手の猛攻を受けきる。躱しきれない斬撃は木刀で受け流した。

 暫くそんな守りの姿勢を続けていると、ミノタウロスに疲労が見え始め、明らかに動きが鈍くなった。そこへ今度は俺が攻める。独学の剣術に、剣道や居合道の要素を盛り込んだオリジナルの技をお見舞いした。ちなみに剣道も居合道もオンライン講座を斜め読みしただけの、生半可な知識だ。


 そして木刀にも慣れたころ、体力が無くなったミノタウロスに一撃を加えただけで魔石を残して光に消えた。


「ふぅ……練習出来たし、早く地上に戻らないと」


 下の階層へと続く階段を無視して、もと来た扉から十五階層へと戻る。そしてレオとの約束を守れるよう、上を目指した。

 流石にこの日の内に帰ることは難しく、七階層辺りで一泊。早朝から行動を開始し、地上へと向かった。

 そして約束の時間ギリギリに王城前に着いたのだった。

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